第25話 襲撃後の対話

「ミラ様、目の前の船から映像通信が入っています」

 ステインから目の前に居る白い船から通信が送られてきていると報告を受けて、通信を無視してしまいたいという考えが頭を過ぎり、ステインへの返事に迷ってしまい沈黙してしまう。


 けれど、船の動力はダメージを受けてスピードが出せないので航行も困難な状態であり、何よりも助けてもらったのは事実があるので、通信を無視することなんて出来なかった。


 ただ、この通信を受けてしまうと厄介なことになるだろうとも確信していたので、凄く嫌々ながらに行動することになった。多分、探索航海は中止になって母星には一度帰らざるを得ないだろう。そういう状況になるだろう事は、簡単に予測できた。




 向こうの船と通信するにあたって、ユウさんにブリッジから出てもらうようにお願いした。これから行う会話を、ユウさんには聞かれないようにするためだった。


 まだユウさんには、私達の母星についての説明をしていなかったからだ。つまり、星王をしている母上についてや、私が王族という立場に関係が有ること等を説明しきれていないからであった。


 これからの会話を聞かれると、多分話の内容で説明していなかった事が彼の耳に入ってしまうだろうし、途中で混乱されるだろうから彼を説得してブリッジから出てもらうことにしたのだった。


 なぜブリッジから出されたのか聞きたいだろうし、疑問も沢山有っただろうけれど文句も無く静かに出て行ってくれたユウさん。日を改めてしっかりと説明することを心に決めて、通信に挑む。


 何時でも通信を開始できるという準備万端のステインに向かって一度頷き、向こうとの回線を開くように指示をする。


 通信が開始されると同時に、目の前のモニタに見たくなかった連中が映しだされた。


「姫さま、ご無事のようで何よりです」


 正装をした女性がモニタの中央に座っているのが映り、私の顔を見て確認してから床に手をついて頭を下げた。その後ろにも、声を出さずに同じような格好をして控えている六人の女性が見える。


「面をあげなさい」

 私がそう言うとモニタに映っている七人の女性達が、ゆっくりと下げていた頭を上げて顔を見せる。


 モニタに映る七人の女性、その丁度中央に居る彼女たちの代表をしているのだろうと思われる最初に言葉を発した彼女。その彼女の微笑む表情を見てみると、一見すると丁寧な様子で心配している風な態度に見える。ただ、その様子の節々から彼女の嘲るような態度が見えている。


 彼女の慇懃無礼な態度に、私は思わず表情が厳しくなって不快感を表しているだろうと感じる。けれど、彼女には危機の状況で助けてもらった恩が有るので急いで取り繕うために言葉を発する。


「心配してくれてありがとう、私は無事です。そして、危ない所を助けてくれて重ねてありがとう」

「いえ、私たちは貴方様の臣です。危機となれば助けるのが必然。感謝の言葉など不要です」


 嫌々ながら口に出した言葉だけれど、モニタに映る彼女は変わらずニコニコと微笑を浮かべて返してくる。彼女の態度に、これ以上我慢できなさそうになっている内心を抑えるために話を変えて質問をする。


「ところで、あなた達はどうしてこんな場所に居るのですか? それも、十一隻ものエムナ星船を集めて来て」


 私の母星である惑星エムナ。そのエムナという星の中で最強の船と呼ばれているエムナ星船。船体は、一目で分かりやすいように白一色に統一されているという船だ。


 普段ならば、惑星エムナを守るために星付近で駐在しているハズ。それが、何故こんなにエムナ星から離れた場所にいるのだろうか、と純粋に理解できなくて質問していた。


「ミラ様に至急母星に帰ってきて頂きたいのです」

「星に帰る?」


 モニタに映る女性は、私の質問に答えずに要件を切り出した。やはり、予想した通りに母星への帰還命令だった。帰りたくないという気持ちを表すようにとぼけて見せるが、モニタの女性は気にした様子もなく話を続けた。


「そうです、星王が待って居られます。その船に積まれている男性についても、非常に心待ちにして居られました」

 そう言って、彼女は一瞬だけ嫌らしい笑みを浮かべる。私は、船の状態を鑑みて母星への帰還に了承するしかなかった。


 やはり彼女たちの、そして母上の目的は男性であるユウさんなのだろう。一体、ユウさんの情報は何処から漏れてしまったのか。


 私達が彼を偶然発見してしまい、死にかけていたという理由で本人の了承も得ずにジュペンス号に乗せてしまった。治療のためとはいえ、ジュペンス号に彼を乗せたのは間違だったのかもしれない。そのせいで、私の母上に目を付けられたのだから。


 こうして、私はユウさんに対して罪悪感を感じながら母星へと帰還することになった。

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