第06話 彼/彼女たちの事情

 話し合いは終わり、ミラさんから身体を回復させるためにゆっくり休むように言われる。そして俺はベッドに横になりながら、女性たち三人が部屋から出て行くのを見送った。

 女性たちが部屋を後にしたので、部屋には自分一人だけとなった。精神的に一旦落ち着いてくると、今更ながらに思う。彼女たち三人共が、見目麗しい女性たちだったと。


 船長のミラさん、船医として身体を診てもらったヨハンナさん、話し合いに一言も口を挟まず、寡黙にミラさんを守るように立ち続けていたデファンさん。

 まだ、三人だけしか出会っていないから判断するには早いと思うけれど、こう考えてしまう。もしかしたら外宇宙からやって来た人達は、皆が美しい容姿を持つ種族なのではないかと。


 この宇宙船に現在乗組員が何人ぐらい居るか分からないけれど、先ほど話し合いをした三人とは違う人達にこれから出会うのが楽しみだった。そして、ミラさんから聞いた話では現在の宇宙に男性がほとんど居ないらしいので、この宇宙船の乗組員の多く、もしくは全員が女性だろうと思うと、少しだけ期待してしまう。




 よこしまな考えを振り払うために先ほどミラさんから聞いた話を、再び思い出す。


 地球の現状をミラさんから聞いた限りで判断すると、やはり俺が眠りについた後に人類はあの予測の通り滅んでしまったのだろう。


 そうすると自分の使命は、当初の予定通り地球人類の文化や技術についてを目覚めさせてくれた人達に伝えること。


 しかし、地球人類の技術については彼女たちにとって価値の無いものかもしれない。ぐるりと部屋を見回すと、数多くの医療器具だと思われるものが置いてある。どれも使用目的や使用方法について、検討がつかない独自の技術によるものだろうか。そして、独自の医療方法を持っているのだろう。そう考えると、地球人類の技術を広めることは後回しにして、地球人類の文化を先に広く彼女たちに伝えていこうと決意する。



 そしてもう一つ、俺の個人的な目的である宇宙の先を見ることを実現できてしまえそうな、宇宙航海に同行できる喜びを噛みしめる。


 小さな頃から憧れていた宇宙。宇宙船パイロットを目指したこともあったけれど、結局は候補者として選抜されることは無かった為に一度は諦めざるを得なかった。けれどそれから、宇宙飛行士達が宇宙に行く為の手伝いとして裏方の道を進むようになった。宇宙について研究したり技術開発、ロケットの設計にも携わり没頭する毎日。


 けれど人々は、地球を脱出して宇宙に行くという事を諦めるようになり、人類は死ぬ準備を始めた。自分一人では、宇宙に行く夢は絶対に叶えられない。無力感にさいなまれている時に人類文化遺贈プロジェクトという話を聞いて、一も二もなく飛びつき未来に賭けて冷凍睡眠という眠りについた。


 俺は過去を振り返りながら、もう既に宇宙に居るという実感しながら遠い宇宙の先に思いを馳せて、瞳を閉じた。



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 無人惑星から見つけて助けだした男性との話し合いを終えて、ブリッジへと帰ってきた船長のミラ。


ブリッジへ入ってきたミラに視線を向けて、宇宙船ジュペンス号の副船長を務めるエフォース・ステインは声をかけた。


「おかえりなさい、ミラ様。あの男性とのお話は終わりましたか?」

「えぇ、先ほど終わったわ。ジェペンス号に問題は無かったか?」


 ステインは無人惑星に降りて、建物を探索している時に機械を起動させてしまい、発見した男性について少しだけ気がかりになっており、その彼についての状況を質問していた。


 ミラはステインの横に歩いて近づいてから、身長差がある彼女を見下ろし答えた。そして、ついでに自分が話し合いで離れていた間の宇宙船の調子も聞いていた。


「宇宙船には一切の問題は発生しておりません。コントロールをお返しします」

 そう言うと、ステインはミラの手を取り握りしめてから、音声操作で宇宙船のコントロールの返上を行った。ミラはステインの手を握り返して、コントロールを返してもらった。


 宇宙船のコントロールを無事に返還し終えて、肩の荷を下ろしたステインは更に話を続ける。


「あの惑星の調査で、予定していた日程から大分ズレてしまいましたね」

「えぇ、そうね。でも、彼を発見できた事で無駄にはならなかった。それに予定なんて有ってないようなものだから、気にしなくても良いわ」


 宇宙船の船長を務めているミラに任じられた政府から指示された命令は、未探索宙域の調査やデータベースの更新を行うこと。けれど、この政府から指示されている作業とは、普段は無人探索機や新人の訓練航海の1つに組み込んで行うような、誰でも出来てしまう簡単な仕事であった。

 そんな仕事なのに完了するべき期限も決められておらず、ミラは悠々自適に宇宙の航海を楽しんでいた。


 真面目な性格の副船長ステインは、予定が狂ってしまったことに対して苛立ちを感じていたけれど、ミラの楽観的な様子を見てそれ以上追求することを諦めて、話題を変える。


「……発見した男性について、政府に連絡をしなくても大丈夫なのでしょうか?」

「今はまだ連絡は不要よ」

 不安そうに聞くステインに、連絡はするなと鋭く釘を刺すミラ。そして、付け加えるように言う。


「今はまだ連絡しない。情報を集めてから、彼の事を政府にどう報告するか私が判断するわ」

「了解しました」


 大変に貴重な男性が手元にある。ステインはその事を誰にも報告せずに隠していることについて、不味いのではないのかと感じていたけれど船長の命令には従う。彼女はミラが良いと判断したことには一切疑わずに、信じることにしていた。


「彼の印象はどうでしたか?」

「……私の父と接する時と同じような印象だったわ。凛とした佇まいで、慌てること無く落ち着いて私の話を聞いてくれた」

 先ほどの会話を思い出しながら、感じたことを正直にステインに伝える。しかし、話を聞いていたステインは、少し納得いかないというような顔をしていた。


「なるほど」

「男性というものは、皆ああなのかしら?」

 ミラは今まで、自分の父親以外の男性について特に興味も持っていなかったために、比較のしようがなかった。そのため、先ほどの話し合いで父親と似たような印象を受けた渡辺優の事を知って、男性は皆あんな感じなのだろうと考えた。


「私はまだ、目を覚ましてから彼にお会いしたり話をしていませんから、分からないですけれど。噂によると、男性は傲慢でわがままで打たれ弱いとよく聞きます」

 ステイツも、男性についての情報を噂程度しか持っていなかったので判断に迷っていた。


 実は、現存する116人の男性について噂されているような性格の方が多くて、むしろミラの父親や渡辺優のような性格の男性の方が少数派なのだけれど、男性のことをよく知らない二人はその事を知ることは無かった。

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