第05話 無人惑星地球
情報のすり合わせを行うための話し合いは続いた。そして話題は、現在の地球についてへと移っていった。
「貴方を発見した建物がある惑星について説明すると、私達の持つ記録を遡って見てみると今から1205年前に発見されたようで、今は名も付けられていないような放置された星の1つとなっています。この惑星が発見された当時は、未知の文明の跡が残っていたようです。そして、50年程の期間を探索と調査が行われたみたいですが、知能を持つ生命体は発見できず無人の惑星であると認定を受けました。加えて、特に真新しいような文化や技術も発見できず資源も掘り尽くされた後だったそうで、惑星の位置も悪くて利用価値が少なく、記録だけされた後はいつの間にか忘れられて放置された惑星となっていたようです」
彼女側の認識では、地球は約千年前に発見された未知の惑星だったそうだ。発見された時には、既に文明が滅んで人間も全滅してしまったのか、それとも住んでいた人は惑星から脱出していったのか分からないけれど、文明人は居なくて無人の惑星となっていたらしい。
「貴方を発見した建物を調べた所、正確なことはハッキリしませんが少なくとも造られてから二千年以上は経っているという事が判明しています。つまり、惑星が発見された当時には存在していたと思われるのですが、当時の調査記録を探してみても残っていませんでした。調査団が見落としたのか、発見したけれど報告しなかったのか……。とにかく、その時に発見されなかった貴方を、偶然にも約千年経ってから私達が発見した」
具体的な地球の経緯を聞いて、そして今は無人惑星になっていると説明を受けた。けれども、俺は念を押すようにして最終確認をするためにミラさんに問うた。
「……今は、あの惑星に住んでいる人は居ないのですか?」
「貴方を発見した後、万が一のために惑星全域を対象にして、文化を持つような生命体が居ないかサーチしてみましたが見つかりませんでした。該当するような生きている人や建物、生活の痕跡等を発見することは出来ませんでした」
「……私の他に冷凍睡眠させられていた人達は、どうなりましたか?」
残った希望。先程から気になっていたけれどタイミングを逃して聞けていなかった事を、改めて問う。
記憶が確かならば、冷凍睡眠に志願した人達は俺を含めて全員で56人居たはずだった。しかし今、部屋の中には俺の他に同じように治療を受けているような人達も見当たらない。一緒に冷凍睡眠へと入った、彼ら彼女達は一体どうしているのだろうか。
しかし、ミラさんは容赦なく真実をつきつける。
「貴方以外の人達は、全員死亡していました。確認した所、死後数百年以上は経過しているようでしたが、正確な死亡時期は確認できませんでした」
ミラさん達が、冷凍睡眠装置がある部屋を調査した時の画像データが有るということで確認させてもらったけれど、見せてもらった画像は殆どが白骨化してその後に崩れ粉々になったのか、白い粉のような跡が冷凍睡眠装置の中に残っているだけで、55人のうちの誰なのか一切判別できない状態だった。
既に、一緒に冷凍睡眠へと入った皆のことについて予測はしていたけれど、受けたショックは想像以上に大きかった。
仲間たちは全員死亡済み。そして、人類も既に絶滅しているらしいので地球人類の生き残りは俺一人が最後になってしまったかもしれない。
絶望感や不安、恐怖など形容しがたい感情が俺の心の中で渦巻いていたけれど、打ち倒れている訳にはいかない。残ってしまった最後の地球人類の一人として、プロジェクトの仕事を遂行するべきだろう。落ち込んでいる暇もない、と自分を鼓舞して正気を保つ。
人類文化遺贈プロジェクトは、地球人類の絶滅が学者などによって予測できてしまったために、人類が全滅してしまった後の未来へと残すために計画されたもの。滅びが予測できてしまった人達にとって、生きた証を残したいという最後の小さな希望。
外宇宙に、存在するかも知れないという知的生命体に向けて、分の悪い賭けではあるけれど地球人類が存在していたという生きたアピールをするためのプロジェクト。
実際に今、地球は外宇宙からやって来た知的生命体である彼女たちにとって、価値もないと判断され忘れ去られていたらしい。そんな中、自分が目覚めることが出来たのは不幸中の幸いなのかもしれない。
そして今の宇宙の状況を考えてみると、自分は希少な存在となってしまったらしい男なので、これから地球の文化という存在をアピールしていくために使えそうな武器を期せずして手に入れた。利用価値を示して、地球人類の文化を伝えて残すことができれば上出来だろう。
「状況については、おおよそ理解できました。まだ不明な点は多いですが、みなさんの宇宙探索の航海に同行させてもらい、徐々に学んでいこうと思います。これからどうぞ、よろしくお願いします」
身体を起こしてから、そのまま頭を下げて彼女たちに宇宙航海の同行をよろしくお願いします、と全身を使って示す。
こうして、宇宙船の船長であるミラさんとの長時間続いた話し合いは一旦終わりを迎えた。
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