第04話 宇宙の現況

「それでは、コチラの事情も話しておきましょう」

 船長のミラさんは、ゆっくりと話を始めた。その話の内容は、俺の想定していた未来とは大きく違う、現在の宇宙についての話だった。


「私達が貴方を助けたのは、善意だけではない理由があります。その理由とは、貴方が男性であるという事に関係しています」

「俺が、男性だから……?」

 助けた理由は、俺が男だったからという思いもよらなかった答えに驚く。先ほどヨハンナさんから聞いた話では、地球は無人惑星になっていて長い間放置されていて、俺を発見したのも偶然だと言っていた。だから、事情を聞き出すためとか情報を引き出すために蘇生措置を行ったのだろうと予測していたけれど、全然違っていたらしい。さらに、ミラさんは詳しく説明してくれた。


「この宇宙において現在確認登録されている人口は約6000億人。その数の中で、男性は116人と言われています。そして、残り全員が女性です」

「はぁ……?」

 ミラさんの話では、この宇宙には6000億もの人が住んでいるなんて、聞いただけで圧倒されるような数。そして、宇宙の現在の男女比がおおよそ60億対1の割合という、とんでもない状況らしい。

 60億人の女性に対して男性が1人という割合だとは、想像もつかない現実だった。60億なんて人口は、俺が冷凍睡眠する前の全世界が20億人に満たなかった事を考えると、その数に比べて三倍以上の人口だ。だから全く実感できるような情報ではなかったけれど、おぼろげながらに男性が絶滅寸前の数が少ない状況で、自分という存在が貴重であると言うことは理解できた。


「そんな現状の中で、データベースに記録されていない新たな男性である貴方が」

「自分が男であるという事で価値有る存在なのは自覚できました。だとすると、自分はこれからどうするべきですか?」

 状況を説明してくれて、自分のことを認識させてくれた。それから、何かを求めるような目を俺に向けて、言葉を止めるミラさん。


 彼女に向けて、この先俺はどうするべきかを問い、彼女に判断を委ねる。自分の状況が少しずつだけれど分かってきた。けれど、分からない事も多すぎて自分では判断できず、この後どうするべきか何も考えつかなかったから。


「私たちは今、未探索の宙域等を調査して回っている途中なのです。申し訳ないのですが、貴方には生まれた惑星を離れて、私達と同行して宇宙を航海してもらいたいのです」

 そう言うミラさんは辛そうな表情で許可を求めてきた。けれど、その提案は俺の求めていた”宇宙の先を見る”という目的と合致しているために、俺には全く苦ではなく問題は無かった。


「喜んでご一緒させてもらいます。むしろ、先ほど話した私の目的もあるので宇宙航海に同行できるのは、むしろコチラからお願いしたいことでした」


「ありがとうございます」

 まだ、表情が暗いミラさん。何やら言い難そうに口を閉じている。数秒の間が空いて、思い切ったように言葉を発した。


「事後報告になって申し訳ないのですが、治療の時に貴方の身体に独断で宇宙適応処置に延命処置、そして老化防止処置の3つを行いました」

「そうなのですか?」

 名前から何となく意味は分かるけれど、言いよどむほどの内容なのだろうか。目覚めた時に身体は怠かったけれど、ソレ以外に特に自覚症状は無いので問題はない、と思う。むしろ、死にかけていた状態から約一週間で回復したらしいとなれば必要な処置だったのだろうし、俺の方から責めることなんて出来ない。


 それぞれの内容を詳しく説明を聞いてみる。


 宇宙適応処置とは、宇宙に出る際の重力変化へ順応するためだとか、宇宙空間という真空状態へ間近くに接近した時に感じるストレスを極力軽減したりするような宇宙生活に適応するための処置の事らしく、宇宙船の乗船員全員に施される決まりとなっている処置らしい。


 そして、延命処置は怪我や病気で簡単に死なないようにするためのものらしくて、衰弱死しかけていた俺を強制的に生かすために行ったとのこと。


 最後の1つが、老化防止処置。名前の通り、老化を止めるためのモノであり、延命措置とセットで施さないとダメなために、行ったらしい。


 他にも処置を施すことで色々と意図しないような変異が起こってしまうらしく、言語機能が変化してしまったり、身体の骨格や筋肉、臓器が変化してしまったりすることで身体つきが変わったりするらしい。


「つまり、今話している言葉が問題なく理解できているのは副作用によるものなのですか?」

「ええ、そうです。宇宙適応処置を行うと、異星人同士が共生していくために脳の仕組みが変化して、意味の理解できない言語で話し合ったとしても、脳が勝手に理解できるように変換してしまう身体になって、様々な言語で話し合えるようになるそうです」


 ミラさんの話を聞いてみると、言葉を理解できるようになった事は良い事だろうと思う。けれど、どうやら彼女の考えは違うらしく、死にかけていた俺を行き延ばせるためとは言え、無理矢理に色々な処置を行ったことで色々と身体を変化させてしまった事に罪悪感があるらしい。


「そして、この顔は老化防止処置によるもの、ですか……」

 空中に投影された、自分の現在の顔をリアルタイムで映し出している映像を見せられて驚く。そこに映っているのは、シワや肌のたるみもなく血色の良い10代の頃のような若々しい顔。

 あーとかいーと言葉に出して顔を変化させながら、自分の顔を観察する。どうやら、若返ってしまった。コレも、3つの処置により身体の作りが変化して起こってしまった作用らしい。


 それから更にミラさんとの話し合いは続き、話題は現在の地球について。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る