第二部 襲いくる赤

プロローグ

 目の前には絶望ぜつぼうしかなかった。


 た笑みを浮かべながらせまるそれには、絶望しかなかった。


 けたところで変わらない。


 ふせいだところで、変わらない。


 自身の攻撃が一切通用しないのでは、この状況はなにも、変わらなくて……


「…………」


 彼はくやしそうに、しかし怒りをめたひとみで、絶望をにらむ。


 殺そうにも殺せない。


 続けたところで、ジリひんだ。


 助けを求めようにも、誰もいない。


 いまこの場には、自分と絶望しか、いなくて……


「…………」


 そこまで考えて、彼は顔をしかめた。


 最初は四人いた。


 ここに来たときには、四人もいた。


 だが、あいつは死んだ。


 容赦ようしゃなく、あっさりと、絶望にみ込まれた。


 なら、あいつらはどうだろうか?


 おぼえている限りでは、生きていたはずだ。


 ならば、可能性はある。


 まだ来ていないのならば、戦闘中ということか、あるいは、もう……


「…………」


 心の中で、舌打ちを一つ。


 他人にすがるなど、わずかな確率にかけるなど、自分はどこまで弱っているのか。


 なさけないおのれ叱咤しったするように、小さく一つ、深呼吸をする。


 おさない頃にわした約束。


 彼女との大事な約束は、二つ。


 一つは、一人だけでアレを使わないこと。


 そしてもう一つは――


「…………」


 ならば、自分がやるべきことは、決まっている。


 すべきことは、決まっている。


 だから彼は、目の前の絶望をしっかりとえ、































 あっけなく、呑み込まれた。










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