第1話 攻略勝負

援護者サポーターは防御魔法展開!」


 戦場にひびく、りんとした声。


 辺りで巻き起こる風圧にらぐことなく、彼女は立っていた。


 こしまで届くまばゆい金髪きんぱつ


 はくのように白いはだ


 強い意思を感じさせる、キリッとした翠眼すいがん


 まさしく美を体現たいげんしたかのような少女――エリスが、ぜんと声をあげる。


 そこは深い緑色をした、うすぐらどうけつ


 すさぶ風は戦闘のはげしさを物語ものがたり、また同時に、目の前の相手の強さをあらわしてもいた。



 かいちょう、フロウバード。



 体長三メートルほどの、巨大な鳥。


 迷宮めいきゅうしゅするもの


 その魔物が十数羽、宙を我が物顔で飛び回っていた。


 エリスは目の前の相手をえ、まわりの仲間たちに指示を出す。


 強風のなかでもれることなくわたるその声に、援護者サポーターは即座に反応し、


「ヒョオオオ!!」


 フロウバードが、その動きを変えた。


 辺りを飛び回っていたフロウバードはいちように空高く飛び上がると、エリスたちめがけて一直線にきゅうこうしてきた。


 風を切る音がする。


 かいみみりがする。


 そんな、すさまじい速度での突進。


 それはその数と巨体もあいまって、けきることは不可能だ。


 そんな絶望的な一撃が、ようしゃなくエリスたちにせまり、


 ――巨大なほうじんが現れた。


 それはまるでかべのように立ちふさがり、フロウバードをはじき返した。


 それを確認して、エリスが言う。


特攻者アタッカー攻撃準備!」


 その声にしたがうように、数名がフロウバードを見据えかまえる。


 そして、魔法陣が消えた。


 それを合図として特攻者アタッカーが飛び出す。


 特攻者アタッカーは次々とフロウバードにりかかり、なぐりかかり、魔法を撃ち込む。


 一体、二体、三体――


 フロウバードはまたたく間にその数を減らし、地に落ちていく。


 そしてその数が十を超えたかというとき、



『ヒィヨォオオオオオ!!!!』



 けたたましい声が響き渡った。


 それはごうであり、どうこく


 その声のぬしはゆっくりとそのつばさを広げ、れっぷうまといながら宙を舞った。


 その姿はどこか神々こうごうしく、全長は十メートルを超えているのではないだろうか。


 だから、


「ボスが動き出しましたわ! 特攻者アタッカーは一度下がってください!」


 ここからは、下手に攻め込むべきではない。


 エリスはそう判断し、言う。


 その指示に従い、特攻者アタッカーがエリスのもとまで下がる。


 そして、


「《添雷てんらい》!」


 その背後から、声が聞こえた。


 それに気づき、エリスは勢いよく振り返る――ということはしない。


 なぜなら、わかっているからだ。


 その言葉が聞こえたときにはすでに、そいつはその場にはいないということを。


 だから、


「《アストラル・レイン》!」


 エリスはそうとなえた。


 すると、エリスの周囲に数十の光球こうきゅうが現れた。


 エリスはそれを前方へかくさんさせるように飛ばす。


 それはさながら流星りゅうせいのごとく、キラキラとまばゆくかがやきながら飛んでいき、


「チッ……!」


 そいつは小さく舌打ちをすると、


「パン!」


「わかってるよ。《伸びろ》」


 とつじょとして、しっこくが空をいた。


 漆黒は勢いよく天井に突きさり、しかしその勢いはおとろえず、彼等を地へと押し込んで、せまる流星群から引き離す。



 ――直後、流星がばくさんし、辺りのフロウバードを撃ち落とした。



 その衝撃しょうげきで巻き起こる強烈きょうれつとっぷうをその身に受けつつ、そいつ等はそのまま地面に降り立った。


 そしてエリスに振り向き、


「アホかお前は! こっち当たったらどないすんねん!」


 そうさけんだのは、褐色かっしょくの男。


 さかった銀髪ぎんぱつに、燃えるような赤いひとみ


 一部では学内最強ともしょうされる男――ケイン=イーガン。


 ケインはにらむようにエリスを見やり、みつくようにえる。


 対しエリスは、なにを言っているのかとでも言いたげに肩をすくめた。


「あら、いたんですの? そのまま巻き込まれてしまえばよかったのに」


「ああん? なんやずいぶんと物騒ぶっそうやのう? もしかして自分、あせっとるんか?」


「焦る? なぜわたくしが、貴方あなた程度に焦らなければならないんですの?」


「はっ。そりゃ、こういうことやろがい。《呀柳旺雷殿がりゅうおうらいでん》!」


 ドンッ! と、力強く地面をみしめる。


 するとエリスたちの周囲から、数十本ものとがった石柱せきちゅうが突きだした。


 それはまるでからみ合うように伸びていき、巨大なさくのごとくエリスたちを取り囲む。


 それは登ろうにも強烈な電流が流れており、それ以前になにか動きをみせようものなら新たな石柱が飛びだし、それを妨害ぼうがいしてくる。


 それはもう、完璧なまでの足止めだった。


 ケインはニヤニヤといやらしく笑い、エリスたちをかんするかのようにその場でおうちをして、言う。


「アイツ等がボスたおすまで、そこでおとなしくしとれ」


 それに、


「……なるほど。この程度で、わたくしを焦らせることができると」


 にやりと、エリスが口のをあげた。


 だが、フロウバードはすでに、ボスを残すのみとなっていて……



「んじゃ、ラストさくっといこうか」


 そう言ったのは、漆黒の男。


 黒い髪に、黒い瞳。


 やる気のまったく感じられないへらへらとした顔を浮かべた男――タクト=カミシロ。


 あくしんと称される純色じゅんしょく属性ぞくせい――純無魔導師バハムートたるタクトは、なにがそんなに楽しいのか、へらへらと笑ったまま、左手に持った黒銃こくじゅうを構え、


「なに言ってんだぜ。ボスはオレがやる。テメェはすっこんどくんだぜ」


 と、少年が口をはさんできた。


 それは緑の髪に、銀の瞳。


 タクトたちと同い年とは思えないほど小さく、女と言われれば信じてしまうようなとても中性的ちゅうせいてきな顔立ちをした少年――テルン=インバート。


「なんだっていいけど、ちゃんと倒してね」


 そう言ってきたのは、小さな少女。


 赤い髪に緑の瞳。


 どことなくテルンに似た顔立ちをし、テルンの姉を自称する小さな少女――パン=インバート。


 パンは自分の役割は終わったとばかりに頭の後ろで手を組み、退屈たいくつそうにぶらぶらとしだす。


 テルンは睨むようにタクトを一瞥いちべつすると、深く深く、身体をしずめ、



 ――目の前に、巨大な壁が現れた。



 タクトはそくに飛びすさり、テルンは目の前の事象じしょうを理解しているのか、面倒めんどうそうに顔をしかめる。


 突如現れた壁に警戒けいかいしながら、タクトはしっかりとそれを見据え、


「……こおり?」


 眉をひそめながら、そう判断した。


 その氷の壁はひどく巨大で、完全にボスとタクトたちを分断していた。


 このままではボスを倒せない。


 ケインだっていつまでも足止めできるわけではないだろう。


 だからタクトは、氷を見据え、


「それが魔法であるかぎり、俺の前では無にひとしい」


 わらった。


 あやしく、にやりと、てきに、わらって、


「《業喰ごうしょく》」


 引き金を引いた。


 銃弾じゅうだんが飛んだ。


 氷の壁が、消えた。


 それは一瞬にして、すべてくされた。


 そして、


「《急泣きゅうきゅう》」


 もう一度、今度はボスめがけて引き金を引いた。


 銃口じゅうこうから撃ちだされたのは、直径二メートルほどの空色のたま


 それは寸分すんぶんくるいもなくボスの心臓めがけて飛んでいき、



 ――空から、氷のかたまりが降ってきた。



 それは酷く巨大で、ゆうに二十メートルほどはあるだろう。


 銃弾は氷の塊にはばまれ、あっけなくさんした。


 撃たれた氷の塊はその衝撃しょうげきくだけ散り、まるで巨大なあられのごとく、タクトたちに降りそそぐ。


「うっわ、なにあれ。ふざけすぎでしょ」


 そんな思いもよらぬ出来事に若干じゃっかん引いた顔を浮かべながら、タクトは即座に氷のごうを撃ち抜き喰らう。


 だが、その圧倒的あっとうてきな量の前では、それもあまり意味をなさず……


「はっ。これだから新入りは」


 そう言ってテルンが飛びだした。


 降り注ぐ天災てんさいも構わず、け出した。


 テルンはそのまま前後左右、ばやように巨大あられのすきくぐり、



『ヒィヨォオオオオオ!!!!』



 それと同時に、ボスが勢いよく左、右と、翼を振るった。


 すると、その翼から幾本いくほんもの羽根が撃ちだされた。


 それはすさまじい速度と質量を持って、テルンに迫る。


 それにテルンは、


あめぇんだぜ」


 はっ、と軽くわらった。


 あざわらうように、どうもうな笑みを浮かべ、



「【ハルゼクス壱式いっしき断砕だんさい】!」



 叫んだ。


 すると、テルンの手元がひらめき、そこに一本の戦斧ハルバードが現れた。


 テルンは戦斧を左手に持つと、氷の豪雨を素早く避けながら、飛んでくる羽根へと視線を向ける。


 そして、戦斧を両手に持ち直し構えると、ぐるぐると、まるでおどるかのごとくたくみにあやつり、らいする羽根を次々と弾き、そらし、たたき落とす。


 そのすべてをさばききった頃には、雨もすっかりやんでいた。


 だから、テルンは壁めがけて一直線に走りだし、そのまま一気に駆け上がる。


 その速度は加速したタクトほどではないが中々に速く、あっという間にボスの高さまで数メートルというところまできている。


 そこで、



『ヒィヨォオオオオオ!!!!』



 ボスが、動いた。


 口からなにかをき出した。


 あわい緑色の、液体を吐き出した。


 いまこの場面で使うということは、なにかしらの効力こうりょくがあるのだろう。


 それこそ、ボスの持つ中で、一番強力な技なのかもしれない。


 淡い緑の液体は、一直線にテルンへと迫り、



 ――漆黒に叩きつぶされた。



し一つね~」


「別にたのんでねぇぜ」


 巨大なつちを軽々と振るって液体を叩き潰したパンに、テルンは軽く言い返しながら力強く壁をり、一気にボスへと接近せっきんする。


 ボスの巻き起こす暴風ぼうふうもどこ吹く風。


 テルンは勢いそのまま、ボスめがけてハルバードを振り上げ、


「ッ!? マジかよ……!」


 目を、ひらいた。


 なぜなら、ボスの周囲……いや、辺り一帯いったいに、が、飛んでいたから。


 その光景の意味を理解しているのか、テルンは酷くいやそうに顔をしかめる。


 そして、ちょうがひときわ強く光りだし、



「【ハルゼクスしきけい】!!」

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