第23話 純無魔導師争奪戦
次の日の朝。
午前十時。
「勝って戦力を
『おおおおおおおおおお!!!!!』
場所は、学園迷宮の入り口付近。
そこでは数十名の集団が、
その中の一人が、
「…………なにこれ?」
「見ての通り、開会宣言だぜ」
「開会宣言?」
テルンの言葉に、タクトは
「なんでも、自称難度六十攻略者が提案したそうや」
「あ~……うん、大体わかった」
ケインの説明に、げんなりとした顔でため息を吐いた。
その間にも、壇上の男――アレックスによる開会宣言は続く。
「ルールは簡単。前方に見える学園迷宮の攻略という、
と、
「ちなみに今回の攻略は、学園迷宮の
そう言ってアレックスが壇上から降り、それと入れ替わるように、リヴェータが壇上に立った。
リヴェータはなんとも言えない顔で後頭部を
「えー、言うべきことは大体言われてしまったので、これだけ言っておく」
そう言うと、一転して真剣な表情に代わり、
「全員、
その言葉と同時、腕を思いきり振り上げ――直後、空ですさまじい衝撃音が響き渡った。
『うおおおおおおおお!!!!!』
それを皮切りに、生徒たちが
「ほな、ワイ等も行くか」
「おう!」
「うん」
「ふぇ~い」
それに続くように、タクトたちも、迷宮内へと消えていった。
◆◆◆
迷宮の内部は、
青みがかった、黒い景色。
ところどころに横穴のある、人三人がぎりぎり並んで歩けるほどの通路。
それを形作る、ゴツゴツとした
いったいどこから光が
「…………ねぇ」
「なんや?」
そんな迷宮内で、タクトは……
「俺らは、急がなくていいの?」
それもそのはず、タクトたち四人は、あっという間に他の二チームから引き離され、にもかかわらず、その
ケインは相変わらずてくてくと、まるで急ぐ様子もなく歩きながら、言う。
「自分、飯は食ったか?」
「え? いや、食ってないよ。昨日食うなって言われたし」
「そうか、そいつはよかった」
ケインはそう言いながらゴソゴソと荷物を
「ほんなら、いまから飯にするか」
「は?」
「やったぁ!」
パンは飛び上がって喜び、
「大体の魔物はアイツ等が
テルンはそう言って、ケインたちを守るように辺りに気を向ける。
「おう」
ケインはテルンに軽く
「……なにしてんの?」
タクトはジトッとした目で、ケインに言う。
ケインはバスケットを取り出しながら、
「なにって、自分、飯食うてないんやろ?」
「だからってなんでここで? ってか、昨日食うべきじゃないって言ってたよね? いやそれより、ほんとに急がなくていいの?」
意味がわからず
「急ぐ必要なんかない。ちゅーか、そもそも勝つ必要すらないな」
当然のように、言った。
「…………は?」
タクトはぽかんと口を開け、
「それはつまり、俺は必要ないってこと?」
「ちゃうわアホ。あいつ等とワイ等とじゃ、そもそもの
「定義?」
ケインは
「ああ。あいつ等が自分を欲しがっとる理由、なんやと思う?」
ケインの問いに、タクトは天井を見上げて答える。
「そうだねぇ……
「まぁ、そんなとこやろな。ほんなら、なんであいつ等は戦力を取られたくないと思っとるか、わかるか?」
「そりゃあ、負けたくないからでしょ?」
「ああそうや。でも、なんで負けたくないんやろなぁ?」
「それは…………」
一般的に考えれば、
だが、わざわざそんなことを聞くのならば、答えは
タクトは飲み物に口をつけながら思考を
「…………ッ!」
ハッと、思いついたように目を見開いた。
「自分の
「ほう。そう思った理由は?」
ケインはニヤリと笑って問う。
タクトはどこか興奮したように、言う。
「
「そうやな」
「つまり、貴族同士のいざこざや
タクトの
「おおむね、正解や。この学園で高い地位におったっちゅーだけで一種の
さらには、その在学中に
「つまり、君は貴族でもなければ、騎士を目指してるわけでもない。だから、学園内での地位に興味はない」
「そういうことや」
ケインはもう一度、鷹揚にうなずいて……
「…………」
だが、そうなると一つの疑問が出てくる。
タクトは訝しげにケインを
「なら、なんでわざわざこの勝負に参加を?」
そう。
学園内の地位に興味がないとすれば、わざわざこの勝負に参加する理由はない。
しかもこの勝負は、貴族同士のいざこざでもある。
首を突っ込むなど、
それも、勝つ気がないと言うのならば、なおさらだ。
タクトの当然の疑問に、ケインは肩をすくめて答える。
「決まっとるやろ? お前の勧誘や」
「……どういうこと?」
「どういうことって、勝負に参加すれば、誰にも
「そうじゃなくてさぁ、必死になるほど戦力を取られたくないわけでもないのに、なんで勧誘を? ってかそもそも、この勝負に負けたら結局意味ないよね?」
眉をひそめ、
それに、ケインは、
「……お前、アホやろ」
「は?」
ぽかん、と口を開いて間抜けな顔をするタクト。
「いや、頭の回転は早いけど、出来がいまいち
ケインは半眼のまま、どこか
「……馬鹿にしてんの?」
ケインは一度、深くため息を吐いて、半眼でタクトを見る。
「この勝負の勝者が得られるもんは、なんや?」
「……俺?」
「そうやけど、ちゃうな」
「…………」
タクトは眉をひそめたまま、無言でケインを見る。
ケインはもう一度ため息を吐いて、
「勝者は、
「なら俺であってんじゃん」
「だから、そうやって言うたろ?」
「違うとも言ったよね?」
なにが言いたいのかわからず、タクトは
ケインは
「……テルン、パン。ここに入学してから、最初に入った派閥はなんや?」
「オレは…………アレックス派」
「ボクはエリーのとこ~」
それに、
「あ」
タクトはぽかんと口を開けて、
「自分は
「そういえば、昨日そんな話聞いてたなぁ……」
と、なんとも言えない顔で
それは
その話では、テルンとパンは、ケインが引き入れていたはずだ。
エリスにしたってそうだ。
元々他の派閥にいた奴等を引き込んで、見事トップ勢力に
それは、つまり……
「つまり、この勝負で勝者が得られるもんは、“一時的に
「……なるほど。だからいまの内に、勧誘をしておこうと」
「そういうことや。もっと言うと、ワイは“学園内だけ”での仲間なんて、いらんからな」
ケインは言いながら、バスケットに
タクトもそれに手を伸ばしながら、
(特別自信があったわけじゃなく、最初から
少し感心したように、ケインを見ていた。
彼がやけに自信満々でこの勝負に乗っかってきたのは、そもそもの勝ち負けを考えていなかったから。
勝ったところで即抜けられたら意味がないし、負けたとしても勧誘ができなくなるだけで、後から入ってもらえる可能性がある。
つまりは、即座にルールを
(さすがは最強候補ってとこかな?)
なんて、タクトは口元を軽く上げて、サンドイッチを
ケインはサンドイッチを口に運び、飲み物をあおって一息吐くと、
「……それに、今回はどうも、
「んぇ? ふぁんあいっふぁ?」
サンドイッチを頬張りながら、タクトが言う。
なんて言っているのかを理解しているのか、ケインは首を横に振った。
「いや、なんでもない……ほんで話戻すけど……自分、ワイの仲間になっとくべきやで?」
「ふぇ、りゆふは?」
サンドイッチでハムスターのようにほっぺたを
ケインは身を乗り出して、
「自分がここに来たんは、
「もぐもぐ……ごくん。まぁ、そうだね」
「それ、学生の内にできると思うか?」
「…………」
タクトは、目を細める。
それにケインは満足そうに笑い、
「ワイの目的も、学生の内にはできそうにない。卒業してからが本番や。せやから、ここでの勢力争いになんか興味はない。
「……つまり、人捜しに協力するから、俺も協力しろって?」
「そういうことや」
「ふむ」
タクトはあごに手を当て、
(……話としては悪くない、けど……)
「君の目的は、なに?」
ケインは肩をすくめ、
「昨日教室でも言うたやろ? “か”のつくモノのためや」
「それ以上を言う気は?」
「ない。……けど、そっちにも悪い話やないと思うで?」
「そう……」
タクトは目をつぶって
(いまいち信用しきれないけど、こいつの言ってることは、あってるんだよなぁ~)
彼女を捜し出す。
それは、学生の間に出来ることかと問われれば、難しい話だろう。
タクトは
本気で
それも、学業の合間になど、絶対に。
だから、タクトは
だからタクトは、
彼女の遊びに付き合わされて、
なんの意味があるかはわからない。
理由があるのか。
ほんとにただの遊びなのか。
それでも、タクトはここに来た。
ならば、やるべきことは決まってる。
タクトは一つため息を吐くと、めんどくさそうに口を開き、
「話変わるけど、この勝負、君はどっちが勝つと思う?」
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