第24話 彼等の強さ

 ――勝つのはどちらか。


 それは、これからしばらくは世話になるであろうばつが、仲間になるかもしれない相手が、どちらになるかという話。


 仲間を求めてやってきたタクトにとって最も重要な、強い方はどちらで、優秀な人材は誰か、という話。


 ケインは一瞬いぶかしむように眉をひそめ、


「ほんまに変わったな。でもまぁ、そうやなぁ……」


 なんて、天井を見上げ、


「お互いどこで誰が足止めに動くかで結構変わってくるやろうけど……自分はどう考えとるんや?」


「……他の奴等のことあんま知らないから、君に聞いたんだけど」


 半眼はんがんでタクト。


「まぁ、そりゃそうか。ほんなら、自分らはどう思う?」


 ケインはそう言って、テルンとパンに目を向ける。


「ん?」


 ばくばくとサンドイッチを食べていたテルンは、一旦手を止めて、


「もぐもぐもぐもぐ――」


「お前も少し食うのやめろや」


「あ、ちょっ、ケインひどいー」


「うっさいわボケ。仲ようなるチャンスやろがい。お前も参加しろ」


「えー…………」


 サンドイッチを没収ぼっしゅうされてなげくパンをしりに、


「……オレは、アレックス派だと思うぜ?」


 顔をらしながら、言った。


 タクトは面白そうに口元をゆがませ、


「へぇ、理由は?」


 テルンはこの話にりしていないのか、どこか憂鬱ゆううつそうに言う。


「総隊長の実力やほうがえげつないのもあるけど、やっぱり、特攻者アタッカーの存在がかなりデカイぜ」


「ふ~ん。やっぱあのリヤルゴって人、結構強いんだ」


(ま、あれでも一応隊長なんだし、当然かな)


 なんて、タクトは軽く考えていたが……


 テルンは浮かない顔で続ける。


「あの人……アイツは、近接戦闘だけで言えば、あによりも上だぜ?」


「えっ、そうなの!?」


「実際、ケインは筋肉に負けたことあるしね」


「マジで!?」


 タクトは目を見開いておどろいた。


 リヤルゴがパンに筋肉呼ばわりされていることに、ではもちろんない。


 ケインは、攻略難度四十台レベルで、校内最強候補なんて言われてるはすだ。


 しかも、タクトの見立てでは、ケインは近接戦闘タイプ。


 そんな相手に、近接戦闘で、勝つ。


 となれば、その実力は……


「…………」


 タクトは真剣な表情で、あの男を思い返し……


 その間にも、話は進む。


 ケインはいやそうに顔をしかめて、


「どつきあいでアイツに勝てるんは、校内では二人だけやろ」


「でも、最終的には兄貴が勝ったんだから、兄貴の方が上だぜ」


「ありゃワイ一人の力ちゃうし、アイツは最後まで秘宝ぶき使わんかったけどな」


「そもそも筋肉が秘宝使ってるとこを見たことないし、秘宝を持ってるのかすら知らないけどね」


「…………は?」


 タクトは、ほうけた声を出した。


使に、ナンバーツー……いや、で、……?)


 それはつまり、どういうことか。


(そんなの、強い、なんてもんじゃない……)


 タクトは顔を青くし、


(とんでもない、バケモンじゃないか……ッ!)


 その背中を、冷たい汗が伝った。


 タクトが思い出したのは、リヤルゴとの戦闘。


 もしもあの時、リヤルゴが本気だったとしたなら、自分はいったい、どこまでやれた?


(……最初のアレは、かなり手加減されてたんだなぁ……)


 タクトは青い顔で大きくため息を吐き、


「ほんで? パンはどっちが勝つと思っとるんや?」


 ケインがパンに目を向ける。


 パンは、ん~っと、くちびるに指を当てて考え、


「ボクは……やっぱり、エリーの方かなぁ?」


「それまたなんで?」


「だって、ケインがいつも言ってるもん。エリーほど色に恵まれた奴を、見たことがないって」


「ん~……? あの人、そんな色してたっけ?」


 エリスは確か、金色の髪に、緑色のひとみをしていたはず……


 彼女の姿を思い返し、タクトはそう言ったが、


「そりゃあ、最初はそういう反応になるだろうね」


 パンはそれを当然のように、やんわりと否定した。


「……サブ属性が多いってこと?」



 サブ属性。



 それは、色に現れていない部分の属性だ。


 一つの属性いろしか持っていない純属性じゅんぞくせい魔導師まどうし以外であれば、基本的には誰にでもあるものだ。


 その数は人それぞれであり、多い者では現れている色よりも多いという。


 だが、所詮しょせんはサブ。


 色に現れているものよりも、断然だんぜん弱い。


 鍛練たんれんや素質次第では充分武器になるが、サブ属性が多いからといって、色に恵まれているとは、到底言えない。


 だからタクトは、訝しげに言い、


ちがうよ」


 パンはそれを、今度はきっぱりと否定した。


「なら、どういうこと?」


 げんな表情を浮かべるタクト。


 パンはじっと、タクトを見つめ、


「君はエリーの色を、きちんとあくしてない」


「え?」


 ぽかん、と、呆けた顔をするタクト。


 パンは気にせず、じっとタクトを見つめたまま、言う。


「エリーの色は、何色?」


「そりゃ、金と緑じゃ……」


「違うんだよ」


「え?」


「だから、違うんだよ」


「違うって、なにが……」


 パンの言ってる意味がわからず、困惑こんわくするタクト。


 パンは一際ひときわ真剣なまなしで、じっと、タクトを見つめて……


「エリーの色は、金と、すいだよ」


「翡翠? ……って、まさかッ!?」


「その、まさかなんだよ、エリーはね」


 驚愕きょうがくに目を見開いて固まるタクトに、パンはひどく、神妙しんみょうな顔で言う。


 数秒してからようやく平静を取り戻したタクトは、へにゃっと、脱力だつりょくしたように笑って、


「マジか……ほんとにいるんだね、卓犖たくらくの、混属性こんぞくせいなんて」



 卓犖の混属性。



 それは、混属性の中でも、格段かくだんめずらしい属性いろ


 普通の混属性は、二つの属性が混ざったものであるのに対し、卓犖の混属性はその名の通り、三つの属性が混ざったものだ。


 タクトは思わず、かわいた笑いを浮かべながら、言う。


「確かにそれは、すごい期待できるね……」


「でしょー?」


 パンはなぜか自慢気に胸を張り、


「それに、クーちゃんだっているからね」


「クーちゃん?」


(卓犖の混属性だけじゃなく、まだなにかいるのか……?)


 なんて、タクトは初めて聞いた名前に、いぶかるように目を細め、


「クレープのことや」


「ああ、なるほど」


(確かに、あの属性いろは結構レアだよな~)


 と、納得したようにうなずいた。


 パンが続ける。


「確かに金ぴかたちは強いけど、クーちゃんには、数値では測れない強さがあるからね」


 と、またもなぜか自信満々に言うパンに、


「へぇ~、さすがは援護者サポーター部隊の副隊長って感じかな?」


 純光魔導師アレックスを金ぴか呼ばわりしているのをスルーし、タクトは感心したように言って……


「……兄貴、あれたぶん、違うよな?」


援護者サポーターとしての実力もかなりのもんやけど……まぁ、十中八九じゅっちゅうはっく、アレのことやろなぁ……」


 なんて、テルンとケインはなんとも言えない顔を浮かべ、再び食事を始めた。

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