第17話 眼鏡の男
場所は、ビレイブ
それは校舎のやや遠くに建てられた、学生のための
白を
ところどころに飾られた装飾品が
さらには、学生の要望によりトレーニングルームや
学園の全生徒がここに寝泊まりし、常に上を目指して日々
そんな場所で一人、
「う~ん…………」
タクトは、腕を組んで
教室でクラスメイトたちに取り残されたタクトは、一人
だが、寮のロビーに着くなり、そのまま
その、理由は……
「……俺、何号室だったかなぁ……」
自分の部屋が、わからないから。
タクトは彼女のいたずら――いたずらと言うにはあまりに度の過ぎた行為だが――により、この学園に無理やり編入させられていた。
だが、真に
タクトは無理やり編入させられたあげく、次の日が登校日という、ある種
ゆえに、学園側とも大した連絡は取れていない。
「……担任に聞いてみるか?」
タクトはあごに手を当てて
だが、担任はめんどくさいという理由で授業をほっぽりだすような適当すぎる人物だ。
タクトはすぐにその案を
はてどうするかと、再びうつむいて思索に耽ろうとしたとき、
「おや? 編入生のタクト君じゃないですか。どうしたんですか? こんなところで」
不意に、そんな声がした。
「え?」
タクトは顔を上げて、声の方を見る。
そこには、仲間がいた。
いや、正確には仲間ではないが、思わずそう思ってしまった。
タクトの視線の先、そこには……
「黒い、髪……」
タクトと同じ、
ヘアピンで
それを見たタクトは、思わず仲間と感じてしまった。
しかし……
(ただの無属性と
そう判断し、ため息を
リヴェータも同じ黒髪だったはずだが、タクトには瞳の印象が強すぎたのだろう。
(決して
そんなどうでもいい
男は人当たりのよさそうな笑みを浮かべてタクトの正面まで歩いてくると、
「……僕の顔に、なにかついてますか?」
そう言って、不思議そうに首をかしげた。
どうやら顔を見すぎていたらしい。
だからタクトはすぐに答えた。
「そうだね、眼鏡がついてるかな」
「はっは。これはついてるのではなく、かけてると言うのですよ」
なんて、えらく
タクトはジトッとした目を男に向け、
「とこでさぁ……君、だれ?」
「おや、僕も君と同じ二年一組なのですが……まぁ、話してませんし、覚えられていないのも無理ないですかねぇ」
男は肩をすくめて
「私はルーベル=マルトフ。二年の三大
そう言って、流れるようにお
それにタクトは、
「へぇ、レクター派……」
そう、呟いた。
レクター派といえば、リヴェータが言っていた、特に知っておくべき派閥の一つだ。
わずか三人にして、参加した迷宮攻略では一切の怪我人を出さずに攻略するという、化け物派閥。
タクトはその一員だという男――ルーベルを見つめ……
(…………中々
なんて考えてると、ルーベルが口を開いた。
「それで? 君はこんなところでなにをしてるんですか? ……もしや、入学早々女子と待ち合わせなどとは言いませんよね!?」
鼻息を
タクトは
「違うって、俺の部屋がどこなのかわかんないだけだよ」
「部屋、ですか? ……リヴェータ先生なら知っているかもしれませんが、いまから戻るのもあれでしょうし……ここは
「寮長?」
タクトはそんなものがいるのかと思ったが、よくよく考えてみればいても当然かと思い直し、言う。
「その寮長ってどこにいるの?」
「そうですねぇ……。この時間ならたぶん、部屋にいると思いますよ」
「へぇ、なら早速会いに行こうかな」
そう言って、タクトはゆっくりと立ち上がり、
「……しかし、このタイミングで彼に会いに行くというのも、なかなかに面白いですよねぇ」
「……彼って、寮長のこと?」
「ええ。男子の寮長なら、君もさっき会ったでしょう?」
「さっき会った?」
「学園
というルーベルの言葉に、
「ああそれ、教室でも気になったんだよね」
なんて、タクトは思い出したように言った。
「なにをですか?」
ルーベルが首をかしげる。
それにタクトは、
「いや、ヴァルフレアってどっかで聞いたことあるなぁって。ついでに言うと、カデンツァってのも」
なんて、
それにルーベルは、
「…………君、気づいてなかったんですか?」
「なにを?」
相変わらずぼへ~っとした顔でタクト。
それにルーベルは呆れたようにため息を吐き、
「ヴァルフレアって言ったら、
「え…………? 王国騎士団って、あの……ッ!?」
今度はタクトが、目を見開いた。
王国騎士団。
それは、王国が
王国の
さらにその中でも、騎士団長は
恐るべきことに、彼等は全員、ニンゲンが一人で攻略できる限界とされる、難度六十を超えているというのだ。
しかし、驚きはそれだけにとどまらない。
そのため、いまの王国騎士団は
そしてその一角であるヴァルフレア家は、代々優秀な冒険者や騎士を
「ちなみに、カデンツァも騎士団長にいますよ? ……まぁ、あの人が入るまでは大して有名でもなかったので、知らなくてもしょうがない気が多少はしますけど……」
そう言うルーベルはしかし、そんな気はまったくないという顔をしていて……
「……俺、そんな相手からスカウトされてたの?」
タクトは
それに、ルーベルが気まずそうに口を開いた。
「確かにそうですが……少々
「まぁ、そりゃそうだろうけど……俺の色こんなだし」
タクトはそう言って頭に手をやる。
そこにあるのは、王国騎士団長に
「…………」
タクトの言わんとすることを理解してか、ルーベルが肩をすくめて
「色だけで判断していたら、ケイン君だって評価はされてませんよ」
「……そういえば、そうだね」
タクトはうなずいた。
ケインの
すなわち、雷と炎。
それはあまりに、ありふれた
それこそ、
それでも
(……俺が好意的に
なんてタクトが考えていると、
「それでタクト君、寮長の部屋まで案内しましょうか?」
そう、ルーベルが言ってきて、
「あ、うん。お願いします」
それにタクトはうなずいた。
すると、ルーベルが背を向けて歩きだした。
ついてこいということだろう。
タクトはルーベルの後につき、
(……にしても、明日はそんな二人とやり合うのか……アイツはかなり自信あるっぽかったけど、こんなん勝ち目なんてないんじゃないか……?)
なんて考えながら、寮長のもとへ向かった。
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