第4話 純地魔導師
校内。
静かだ。
いまこの場には、二人しかいない。
その中の一人が振り向いた。
「そういえばタクトさん。
長い金髪をたなびかせながら、エリスが言った。
まるで時間が止まったと
タクトはそれをぼんやりと
「いや? たまたまそういう流れになっただけだよ。俺は
タクトの言葉に、エリスは
「
「いや、あいつらのこと知らないし」
「そういえばそうですわね……。ですが、見ず知らずの方を助けるために行動するというのは、誰にでも出来ることではありませんわ」
「いやだから、俺は逃げようと……」
タクトは
「さっきから俺のこと
「わたくしは本当のことを言っているだけですわよ?」
エリスの変わらぬ
それに、
「……まぁでも、そうですわね」
今度はエリスが、ため息を吐いた。
「正直にお話すると、初対面でわたくしにそんな態度をする
少しなのに大目とはこれいかに。
タクトはぼんやりとそんなことを考えながら、エリスに言う。
「だったら俺のこと褒めんじゃなくてさぁ、なんか
「特典、ですか?」
「そうそう、例えば仲間になれば強くなれる~とか、より
タクトの言葉にエリスは少しの間考え込み、やがて口を開いた。
「……タクトさんはやはり、迷宮攻略のためにこちらにいらっしゃったのですか?」
「ん~……ちょ~っと、違うかな~?」
「では、なぜ?」
「
「人捜し?」
エリスが
タクトはそれにうなずいた。
「うん。仲のよかった
「……なぜ、その
「なんかねぇ、あの子が消える前、俺にこんなこと言ってきたんだよ」
タクトはそう言うと、あの日消えた彼女の言葉を、言われたままに口にした。
――もしもまたアタシに
「――――ってね?」
「……ずいぶんと、その…………」
エリスはなんと言っていいのか、気まずい顔を浮かべる。
「あはは、変わってるでしょ?」
それにタクトは、笑ってみせる。
「でも……いや、だからこそ、俺はあの子に救われたんだ」
「もう一度、逢いたいって思えるぐらいにね」
どこか
「だから、俺はその言葉通りにここに来た。もう一度あの子に逢うために」
決意に
それにエリスは軽くため息を吐き、
「……なるほど。それなら
少し
「え? なんて?」
首をかしげるタクトを無視し、エリスは取り
「なんでもありませんわ。さぁ、そろそろ時間もないでしょうし、わたくしの仲間に――」
そして、手を差し出そうと、
「よぉ、久しぶりじゃねぇかエリスぅ」
それを、男の声が
「……そろそろ時間もないでしょうし、わたくしの仲間になると言っていただけませんか?」
こともなく、エリスはさっきの言葉を
「おい! 無視すんじゃねぇ!」
「う~ん……他の
「おい!!」
「それなら、わたくしの派閥に入っていただければ、より多くの仲間ができますわ。なにせ、わたくしの勢力は校内
「お、それは結構いい話かも」
「ちょっと、一旦話止めない?」
「でしょう? そう思うのでしたら、いますぐわたくしの――」
「でもさぁ、俺ってこんな色してるじゃん? 反発する奴のが多いと思うんだよね~。普段の学校生活ならともかく、もしも迷宮内でそういうことされたら――」
「わたくしの仲間に、そんなことをする方はいませんわ!」
「わっかんないよ~? 校内一の勢力ってことは、裏を返せば敵が
「…………」
「それに、君だって常に仲間を見てられるわけじゃないだろ? その
「それは……」
「それともう一つ、君をいまいち信用できない理由がある」
タクトはじっと、エリスを見つめ、
「君、なんでそんなに
「ッ…………!?」
エリスは
タクトの表情はさっきと変わっていないのに。
さっきと変わらず、へらへらと笑っているはずのに。
その全身から、
タクトはへらへらと笑って続ける。
「校内一だって言うなら、そんなに焦る必要はないはずだろ?」
「それは……」
「……おい、そろそろいいか?」
「もうちょい待ってよ……てか、あんた誰?」
さっきからちょくちょく聞こえてくる声に、タクトが振り向く。
その視線の先には、男がいた。
短く
それを見たタクトは、
(……へぇ、
と、少し
それは、茶色の髪と瞳をした、地の
その
さらには、他の純属性魔導師よりも
その男が口を開く。
「ようやく聞いてくれたな。もう少しで泣くところだったぞ?」
「
だが、タクトはそんなものに興味はなかった。
即座に視線をエリスに戻す。
「すまん、すぐに終わらせるから聞いてくれ」
「……なに?」
タクトは
男は親指を自分に向け、野性的な笑顔で言う。
「俺はリヤルゴ。エリスんとこに
それはその名の通り、敵への攻撃に
その戦闘スタイルは
この男は外見だけで判断すれば、武器主体の近距離タイプだろうか。
だが、見た目だけで判断するのは三流のすること。
タクトはつまらなそうな顔で男を眺め、
「へぇ、初めて聞いた」
「今朝は俺の部下が失礼したみてぇじゃねぇか」
「それより、いま授業中じゃないの?」
「……その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
タクトのあまりに
「まぁ、ぶっちゃけお前らの
「だろうね」
たまたまリヤルゴのクラスの前を通ったか。
でなければ、単なるサボりか。
まぁ、タクトにしてみれば、そんなことはどうでもいい。
タクトは相変わらず、興味がなさそうに
リヤルゴはそんなタクトに
「でだ。その
「わぁ~、なにこれ? これがモテ期ってやつ? 全然うれしくな~い」
リヤルゴの
だが、なんとか怒りを
「リヤルゴさん。なぜそれがお詫びになるのか、聞いてもよろしいかしら?」
したが、その前にエリスが、少し
エリスの問いに、リヤルゴは自慢げに答える。
「な~に、簡単なことだ。お前の勢力は確かに校内一だが、実力は校内一ってわけじゃねぇ。中には落ちこぼれもたくさんいる。それに比べて俺んとこは、全員が俺か他二人の試験を受けて合格した奴だけだ」
「へぇ~……で?」
リヤルゴの額に青筋が浮き出た。
しかし、なんとしても
「だから、俺の仲間になった方が得だって言ってんだよ。
「ふ~ん」
リヤルゴの……以下略。
「ふ~んってお前、俺の話聞いてたか?」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。俺たちの話、聞いてただろ?」
「……ああ、敵がいるかもってやつか。それなら心配いらねぇよ。さっき言ったとおり、仲間には試験に合格したやつしか――」
「その試験って、なにすんの?」
「あ? そりゃあお前、実力を調べるために俺様が
「それだけで敵がいないって、どうして言える?」
「そりゃあ……」
「確かにあんたの言うとおり、強い奴とは一緒のがいいだろうけどさぁ――」
タクトは笑う。
「俺はね、色が
「ッ…………!?」
笑いながら、その全身から異様なプレッシャーを放つ。
が、それも
すぐにまるで
「確実に……いや、少なくとも、迷宮内では味方してくれる奴じゃないと、困るんだよね~」
「……つまり、俺の仲間にはならねぇってことか?」
「そうだと言ったら?」
やる気の感じられない表情のまま
それにリヤルゴは、
「……いまから
タクトを
「ぶっ
怒りに
◆◆◆
走る。
走る。
走る。
消えたアイツを捜して、走る。
遅刻ぎりぎりで教室にたどり着いたと思ったら、今日来た
さらに、その案内役を買って出たのが、よりによってアイツだと言う。
どころか、アイツの仲間になってしまうかもしれない。
だから、彼は走っていた。
(……ちゅーか、編入生ってどういうことやねん!)
彼は編入生がやって来ることなど、まるで聞いていなかった。
いま思えば、
そういえば、今朝もそうだ。
だからこそ、こんな時間の登校になった。
(くそっ……アイツ、パンになんかしおったな!)
消えたアイツを捜して。
(
編入生を連れて教室から抜け出した、エリスを捜して。
彼は全力で、校内を
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