第5話 決闘

 ここは、校内のはしに位置する施設。


 闘技場とうぎじょう


 コロシアムを思わせる、半径五十メートルほどのフィールド。


 そのまわりには、観覧かんらん用と思われる席が段上に並んでいる。


 屋根はどうやら開閉式かいへいしきのようだ。


 いまは気持ちのいい青空が見える。


 そんな施設の中心に、男が立った。


 短くそろえた茶髪に、野性味あふれる茶色のひとみ


 全身にはち切れんばかりの筋肉を宿やどす、ゴツい男。


 リヤルゴだ。


 そいつがぐるりとり向く。


「さて、ぶっつぶされる準備はいいか?」


「いいわけないだろ? そんな準備、誰がこのんでするんだよ」


「はっ。ここまで大人しくついて来といて、よくもまぁんなこと言えたもんだなぁ」


「ついて来なければ、あのままあばれるつもりだったのでしょう?」


 エリスが辟易へきえきした様子で言う。


「まぁな」


 それをリヤルゴは、ニヤリと笑って肯定こうていした。


「さて、俺はこれから、このくそ生意気な後輩に学園ここのルールを教えてやるつもりだが……」


 リヤルゴはちらりと、エリスを見る。


「わたくしの目の前で、そんなことができるとでも?」


「はっはぁ。まぁ、そうなるよなぁ。でも……あれ、な~んだ?」


 そう言ってリヤルゴは、自分の背後を見る。


 エリスたちもそちらに視線を向け、


「…………ッ!?」


 そこにはいたのは、屈強くっきょうな男たちにらえられた、数名の生徒。


 それを見たエリスは、一瞬目を見開き、くちびるめた。


「校内一の勢力が、あだになったなぁ」


 そう、エリス派は校内一の大勢力。


 つまり、ほとんどのクラスに存在しているということ。


 さらには、リヤルゴのぞくするアレックス派は、校内二位の勢力だ。


 それはつまり、アレックス派とエリス派の混在こんざいするクラスもあるということだ。


卑怯ひきょうですわよ、リヤルゴ!」


 エリスがえた。


 それにリヤルゴは、いやらしく笑う。


「卑怯? なにを言ってやがる。相手の弱点をくのは、勝負の常套じょうとう手段だろ?」


「くっ……!」


 エリスはリヤルゴをま忌ましそうににらみつける。


 が、リヤルゴはそれをまるで意にかいさず、タクトに目を向けた。


「ってことで、これでエリスは手出しできねぇわけだが……どうする? お前を仲間にする気はもうねぇが、こいつの仲間にならねぇってなら、今回はのがしてやってもいいぜ?」


 ニヤニヤといやらしく笑うリヤルゴ。


 それにタクトは、


「なんで? 別に逃げる必要なんてないでしょ?」


 と言った。


 肩をすくめ、平然とそう言った。


 それにリヤルゴはたのしげに笑う。


「へぇ、ずいぶんと余裕じゃねぇか」


「まぁね、このまま俺とやり合えば――」


 そこまで言ったタクトはたん



「君は必ず、後悔することになるよ?」



 スッと、目つきが変わった。


 だが、それも一瞬。


 タクトはすぐに、やる気の感じられない、普段の表情に戻った。


 しかし、さっきの言葉はうそではない。


 タクトに喧嘩けんかを売った奴の、そのほとんどが、後悔をすることになったのだから……


 一瞬ではあったが、タクトのそれを目の当たりにしたリヤルゴは、


「くっ……ははッ……! おもしれぇ!」


 思わず、笑いだしていた。


 それは、久方ひさかたぶりに感じた高揚感こうようかん


 身体からだしゃぶるいをしている。


 だからリヤルゴは、


「なら、後悔させてみろよ。純無魔導師バハムートぉぉぉぉぉ!!!!」


 この興奮が冷めないように、思い切り駆け出した。


「うわぁ~お、いきなり? なんか始める合図とかないの?」


「実戦なんて、そんなもんだろ?」


「まぁ、そうか」


 タクトは高速でせまるリヤルゴを、なおも余裕をくずすことなく、のない顔でえる。


(はっ! まばたきどころか、動揺どうようすらしねぇか!)


 そんなことができるということは、やはり、タクトの実力は相当なもの。


 それはもしかしたら、以上なのかもしれない。


 だからリヤルゴは、


(こいつぁ久しぶりに、面白い勝負ができそうじゃねぇか!)


 き上がる高揚こうようを抑えきれず、獰猛どうもうな笑みが溢れるのを感じていた。


(さぁ、たのしませてくれよ、純無魔導師ぉ!!)


 その感情にしたがい、リヤルゴは思い切り、こぶしを振り抜いた。



「…………」




 ――それが、後悔につながるとは思わずに……






 ◆◆◆




 走る。


 走る。


 走る。


 その最中に見つけた生徒をつかまえ、ついにエリスの居場所がわかった。


 だから走る。


 全力で。


 一直線に。


(あの馬鹿……なんでいきなり、決闘けっとうになっとんねん!)


 しかも、相手はナンバーツーの勢力。


 その、特攻者部隊の隊長、リヤルゴ。


 これはもう、本当に馬鹿としか思えない。


(……アイツは確か、難度三十二を攻略したっちゅーたか?)


 難度だけで判断すれば、エリスのが上だ。


 一対一サシの攻略勝負であれば、エリスのが上だ。


 だが……


(エリスとじゃ、相性最悪やな……!)


 それは、の、それもだった場合の話。


 リヤルゴは勝利のためなら手段を選ばない奴だ。


 自分の実力を、よく理解している奴だ。


 そして、そういう奴は強い。


 特に、エリスのような、足手まといすらもまもろうとする奴には。


「…………」


 彼は思わずいやな想像をしてしまい、顔をしかめる。


「ワイが行くまで、始まっとらんでくれよ……!」


 彼はそうつぶやき、闘技場へ、駆け込んだ。

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