第6話 ケイン
「…………
なぜなら、
「…………」
一切余裕を
「…………」
目前に迫る
「…………」
「…………」
「…………」
いまの一撃で倒れたまま、動かなくなったから。
「タクトさん!?」
エリスが
「…………」
しかし、タクトはまるで動かない。
「タクトさん、しっかりしてください!」
エリスはタクトの
「…………」
タクトはまるで動かない。
「……んだよ、
リヤルゴは
「……こんな
「リヤルゴッ!!」
確かな怒りを
『…………』
少しでも衝撃を加えれば、すぐに爆発してしまいそうな、
そんな張りつめた空気が、闘技場全体を包み込み……
「な~んやワイのおらん間に、ずいぶんとおもろそうなことになっとるやないか」
『ッ…………!?』
それを起こしたのは、闘技場に現れた、変わったしゃべり方をする男。
自信に満ちた赤い瞳。
無駄のない筋肉に、
その男はゆっくりと、リヤルゴたちの方へ近づいていく。
「テメェは……!」
リヤルゴが鋭い
それだけで人を殺してしまえるような、酷く、鋭い
だが、男はそれに
「エリス、後で
「……わかってますわよ」
顔をそらし、ぶっきらぼうに答えるエリス。
男はリヤルゴから一切視線をそらさずにそれを聞くと、
「さ~て、どうする? 正直ワイが加勢すれば、
ニヤリと、いやらしい笑みを浮かべて言った。
それにリヤルゴは、苦々しい表情で舌打ちをする。
「…………チッ! お前ら、
「相変わらず、見た目よりは
「ふん。どうせその男は使い物にならねぇんだ。お前らをまとめて相手取ってまで関わる理由はねぇ」
「ああそうかい。ほな、こいつはワイが
男はヘラヘラと笑いながら、リヤルゴたちが闘技場から出ていくのを見送る。
そして、その姿が完全に見えなくなった頃、ゆっくりとその口を開き、
「おい、いつまで寝たふりしとんねん。自分、起きてんねやろ?」
「……え?」
男の言葉に、エリスがタクトに目を向ける。
「…………」
だが、タクトは相変わらず倒れたまま、ピクリともしない。
それに男が、軽くため息を吐き、
「ったく、しゃーないのぉ……エリス、ちょっとどいとれ」
男はそう言い、拳を握る。
「おい、三秒以内に起きんと――」
そして、それを振りかぶり、
「死ぬで?」
男はそのまま、タクトめがけて全力で拳を振り下ろそうと、
「うわぁ!? ちょっ、マジじゃん!! 起きる、起きるからストップ、ストーーップ!!!!」
「え!?」
エリスは突然の出来事に目を丸くした。
さっきまでピクリともしなかったタクトが、急に起き上がったのだ。
「タクトさん、大丈夫なんですの?」
「ん? ああ、だいじょぶだいじょぶ、あのくらいじゃ死なないよ。あの子の一撃に比べたら、硬球を思いっきり投げつけられるようなもんだし」
「……それ、結構痛くありませんか?」
「さぁ、どうでしょ~?」
タクトはエリスの言葉を笑って
「でも、よくわかったね。いまのが寝たふりだって」
それはタクトだけでなく、エリスにとっても、
タクトはリヤルゴに
それこそ、完全に
それなのに、男はそれを寝たふりだと判断した。
タクトは少し興味深そうに男を
すると、男は馬鹿にするように鼻を鳴らし、
「はっ。ほんまに気絶しとる奴が、あない見事に気配消せるわけないやろ」
「あ~、なるほど。逆に不自然だったわけか」
タクトは納得したようにうなずき、
「んじゃ、今度からは気をつけるよ」
「……今度からも、気絶したふりするんですの?」
「その方が楽だからね~」
エリスのツッコミを、タクトは笑いながら肯定し、
(……にしても、あの
なんて、ぼんやりと
「ほんならワイは先に教室戻っとるさかい、このままエリスに案内でもされとけ。詳しい話は、教室でゆっくりと聞かせてもらうわ」
話が終わったと思ったのか、男はそう言いながら、闘技場の出口へと歩いていった。
それを眺めながら、タクトはエリスに話しかける。
「……あれが、ケインって奴?」
「……ええ、そうですわ。彼がケイン=イーガン。一部では、校内最強とも言われている方ですわ」
「へぇ~」
タクトは適当に
(あれが最強か……ちょっと、意外だったな)
そう、思った。
タクトがそう思ったのには、もちろん理由がある。
ケインの色は、銀と赤。
すなわち、雷と炎。
それはあまりにありふれた、普通すぎる
(最強はてっきり
なんて、タクトがボケッと、
「まぁ、本人は否定していますけれどね」
と、エリスがどこか不満げに、そう言った。
「え? そうなの?」
「ええ」
エリスは相変わらず、不満げにうなずく。
(つまり、あれよりも上がいるのか……)
タクトは考える。
(正直編入なんて気が進まなかったけど――)
相変わらず、ぼんやりと。
ただ、
(これなら、あの子への仕返しとかも、できるかな……?)
口元にわずかな笑みを、浮かべながら。
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