第2話 派閥
「そういえば、お名前はなんていうんです?」
少女に連れられて
「ん? 名前?」
そういえば、
聞かれなかったし、
だが、聞かれたのなら
少年はそう考え、軽く
そして、少女を
「俺はタクト。タクト=カミシロだよ」
と、名乗るなんていつぶりだろうなぁ~……とか思いながら、そう言った。
それに少女が、
「タクト……カミシロ?」
スッと、
少女はさっきまでの笑顔を消し、タクトを見つめる。
それにタクトは、
「あ、やっぱり気になる? 黒いなりしてカミシロかよって」
「え!? い、いえ、そんな!」
少女は
「い~よ、い~よ。それも
と、タクトはなんでもないという
「んで? 君は?」
「え? あ、ああ、えっと……わたしはクレープ。クレープ=フォカートです」
「クレープね……」
なんて馬鹿なことをぼんやり考えていると、クレープが足を止めた。
(あれ? もしかして、考えてることばれた?)
タクトはそう思ったが、そうではなかった。
「カミシロさん、
「職員室? ああ、ほんとだ。なんかプレートにそう書いてある」
タクトが
「では、わたしはこれで」
そう言って、クレープがぺこりと頭を下げた。
そして、
「あ~、ちょっと待って」
それを、タクトが引き止めた。
クレープは立ち止まって振り向く。
「はい。なんです?」
「えっと……俺のことは、できれば名前で呼んでほしいなぁ~、なんて……」
「名前、です?」
クレープは不思議そうに言う。
タクトはうなずいた。
「うん、そう。名前」
それにクレープはしばし
「……わかりました」
と、どことなく
が、それも
クレープはすぐに優しげな笑顔に
「それではタクトさん、またお会いしましょう」
「そうだね、また会えたらいいね~」
なんて、クレープにヒラヒラと手を振り、職員室の扉に手をかける。
「……さて、行きますか」
小さく
◆◆◆
「君がタクト=カミシロだな?」
職員室に入って
それにタクトは、
「え? あ、はい。そうですけど……」
と、少し引き気味に答える。
それを気にすることなく、女性は一つうなずき、言う。
「
「へ~」
リヴェータ=マルチネス。
そう名乗った女性は、女性にしては少し短い
「…………ん?」
と、そこでタクトは首をかしげた。
(いま、なにか
タクトは口元に手を当ててうつむき、さっき思ったことを心の中で
(えっと……女の人にしては短い黒髪に、紺色の瞳…………紺色の、瞳?)
違和感の正体に気づいたタクトは、バッと
「すげぇ、初めて見た……」
「ん? ああ、この
「マジっすか!?」
タクトは
混属性。
それは、
純属性と並ぶ
一般に混属性の魔法は、その人の努力と素質次第で
だが、その分習得が難しく、また、それを使いこなせたとしても、純属性には
しかし、この世界はその人の持つ強い属性ほど色に現れる世界。
つまり、
さすがは世界
「ちなみに、君が一人で
いきなりの話題
それにタクトは、
「えっ? と、
と、
すると、
「四十二……想像以上だな」
リヴェータは目を見開き、驚いたような、感心したような顔でタクトを見た。
それにタクトは、
「まぁ、運がよかっただけですよ」
なんて、へらへらと笑う。
それにリヴェータは、
「しかし、そうか……試験もなしに入学とはどういうことかと思ったが、なるほどなるほど……」
と、
「まぁ、私は最高で
「はぁ!? 六十!? バケモンじゃないですか!!」
タクトは思わず
難度六十。
それは、ニンゲンが一人で攻略できる
ただそれは、そういう
実際は数百人
それを、たった一人で攻略した。
そんなの、こんなとこにいていい人じゃない。
学園に失礼かもしれないが、はっきり言って、こんな場所にいるべき人物じゃない。
(なんで、そんなバケモンがこんなとこに……)
そんなタクトの
「はっはっはっ。まさか
なんて、満足そうに笑うリヴェータ。
話題を変えたのは自慢のためか。
タクトはそう思い、げんなりとリヴェータを見つめ、
「…………」
姿勢を、
なぜなら、リヴェータが少し、真面目な顔をしていたから。
リヴェータはそのまま、どこか
「ここはビレイヴ
「……なるほど」
タクトはうなずき、さっきの考えを
世界中から見込みのある子供を集めても、好き勝手されたら、たまったものではない。
制御や指導のためには、教員にもそれなりの実力が求められる。
だからこそ、攻略難度六十なんて人物がいなくてはならない。
つまりはこれが、世界最高峰と呼ばれる理由の一つなのだろう。
そして、タクトにこれを話したのは、自慢ではなく、
変なことをすれば、ただではおかないという、警告。
「まぁ、私以外の教員は、せいぜい
「…………」
違った。やっぱりただの自慢だった。
タクトはげんなりとため息を吐く。
リヴェータはそんなタクトを
「それで、君には今日から
と、
(いや、会って数分で珍しいもなにもないけど……)
なんてタクトは思ったが、声には出さない。
リヴェータは
「私のクラスは……というより、校内のほとんどで、勢力争いが起こっている」
「勢力争い?」
(なんか、いきなりめんどくさそうな話になったな)
なんて考え、続きを待つ。
「特に知っておいた方がいいのは、校内で最大の勢力を
(気をつけるのは、主に三つか……)
エリス派。
ケイン派。
レクター派。
タクトはしっかりと、その三大
「ちなみに全て、私のクラスだ」
「気をつけようがねぇッ!!」
思いっきり叫んだ。
そんなタクトを、リヴェータは鼻で笑う。
「言っただろう。『特に知っておいた方がいい』と」
「確かに言ってたけども、まさかそんな理由なんて思わなかったよ!」
タクトは取り乱したように声を
しかし、対するリヴェータは落ち着いている。
「教員の中では私が最強なんだ。
(あれ? いま、押しつけられるって言おうとしなかった?)
「まったく、あのバカップルと昼寝
(ねぇ、いま押しつけてくるって言わなかった?)
「ん? どうかしたか?」
「いえ、別に」
「…………」
タクトの様子を不安と
「安心しろ。勢力争いとは言ったが、いざという時には協力もするし、普段だって仲が悪いというわけでもない」
「あ、そうなの?」
(なんだ、思ったより安心じゃん)
タクトはホッとした顔をする。
が、
「私のクラス内ではな」
リヴェータはそう
「……それはつまり?」
タクトの問いに、リヴェータが
「言っただろう。『校内のほとんどで勢力争いが起こっている』と。私のクラスは大して心配いらないが、あのハゲど……
「そうなんですか」
いま絶対ハゲ共って言おうとしたな~、なんて思いながら、タクトは
リヴェータは
「ああ。自分の生徒をきちんと指導できないとは、なんとも残念な奴等だ。君もそうは思わないか?」
(職員室でなんて面倒なことを聞いてくるんだこの人は……!)
なんて、タクトはまったくやる気の感じられないぼけっとした顔で考え、
(……でも、さっきのあれも、もしかしたら……)
と、先ほどの出来事をぼんやりと思い返した。
複数の男たちに絡まれていた少女――クレープ。
あれも
(弱い
なんて、
「…………」
上の空になったタクトを、リヴェータは答える気がないと
「まぁいい、とりあえず君は
強引な手段。
リヴェータはそう言った。
「君なら心配いらないとは思うが、万が一ということもある。どこに属するか、あるいはどこにも属さないか。早めに決めた方がいいだろう」
「勢力、ねぇ……」
タクトは呟く。
そして、
(それ以前に、俺を受け入れてくれる奴がいるのかどうか……)
なんて考え、頭に手をやる。
そこには、黒があった。
それはすべてを
「…………」
そして、いまこの世界を
「…………」
タクトの色は、
それは、
「…………」
だからタクトは、呆れたようにため息を吐く。
そして、
(こんな俺を、いったい誰が……)
「敵に回すぐらいなら味方に取り込んだ方がいい。そう考える奴は少なくないと、私は思うぞ?」
と、リヴェータが言った。
まるですべてを察しているかのように、そう言った。
それにタクトは、
「……そう、ですね…………」
と言った。
どことなく
確かに、
でも、ここに来たのは仲間を作るため。
そんな考えの相手を、はたして仲間と呼べるだろうか。
「…………」
タクトは無言で考える。
「さて、そろそろ行くか。君も来なさい」
リヴェータはそう言ってタクトの
だからタクトは、
「…………」
その背中を、
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