第4話 譲れないもの

 言いながら、その場の全員に資料を手渡す。


「……俺もか?」


「ワタシにもあるネ」


 そう疑問符を浮かべる、リヤルゴとユーチェン。


 アレックスはうなずいた。


「ああ。風紀委員そちらでも事にあたってもらいたい。というか、これはどちらかと言えば、風紀委員おまえら側の問題だ」


 アレックスの言葉通り、リヤルゴとユーチェンは風紀委員。


 アレックス、アケビ、ラウルの三人は、生徒会の人間だった。


 アレックス以外の四人は、手渡された資料をペラペラとめくっていき、


「おっ、と……?」


「ふむ……」


「アイヤ、これは……」


「……おい。これ、本当なのかよ?」


 と、一様に眉をひそめた。


 アレックスはの背もたれに寄りかかってうでを組み、ため息じりに言う。


「可能性の話だ。……俺はそうだと、確信しているがな」


「……そうか。なら、こいつは俺が担当する」


「アイヤ、いいアルか? 委員長はワタシアルよ?」


「そりゃそうだが、この件は俺の責任でもあるし、なにより……」


 と、壁にかけられたカレンダーに目をやり、


「もうすぐ、試験だからな」


「オー……もうそんな時期アルか……」


 たんに青ざめ、頭を抱えだすユーチェン。


 リヤルゴはそんなユーチェンを親指で指し示し、


「とりあえず俺はこれをどうにかすっから、テメェ等はこの極楽ごくらくトンボをどうにかしとけ」


 そう言って、きびすを返した。


 そしてとびらに手をかけ、


「リヤルゴ」


 と、アレックスが声をかけた。


 リヤルゴはゆっくりと振り返って、言う。


「……なんだ?」


「今回は、さわぎのが――」


「少しおかしいってか?」


「…………」


「確かに読んだ感じ、なんとなく変だわな」


「なら――」


「だからこそ、特攻者アタッカー部隊の隊長として、風紀委員の副委員長として、しっかりしねぇといけねぇだろ?」


 リヤルゴはそう言って、せいあふれる堂々とした笑顔を浮かべる。


 確かに、この件は隊長であり風紀委員副委員長。


 そしてアレックスの右腕でもある、リヤルゴの担当とも言える。


 だが、いやな予感がするのも、確かだ。


 だから、


「……ならせめて、を――」


 アレックスは注意をうながそうと、


「嫌だね」


 が、リヤルゴはそう断言だんげんした。


「リヤルゴ」


 アレックスはしっかりとリヤルゴのえ、言い聞かせるように言う。


 それにリヤルゴは鼻をらし、


「はっ。さすがはヴァルフレア家のあと取り息子様ってか?」


「……どういう意味だ」


 スッと、アレックスの視線がするどくなった。


 リヤルゴはおおぎょうに、ひどかいそうにわらって、


「だからよぉ、こんなみんにもいちいち余計な気をかけてくださって、ありがた迷惑めいわくだっつってんだよ」


 ギロリと、それだけで人を殺せそうなきょうれつさっはらませ、アレックスをにらみつけた。


「…………」


 アレックスは無言で、しかしわずかな殺気を込めて、真っ正面からそれを受け止める。


 リヤルゴは軽く鼻で笑うと、扉に手をかけ、


「言っとくが、はテメェの矜持きょうじに関わるシロモンだ。下手に首突っ込んでっと、ただじゃすまねぇぞ?」


 横目でアレックスを睨めつけろうに出ると、バタンッ! と、壊れるのではないかというほど勢いよく扉を閉めた。


 その去りぎわに、おそろしいほどの殺気を放って。


『…………』


 部屋に、重い空気が立ちこめる。


 そんな空気に嫌気が差したのか、ラウルがあきれたようにため息を吐いた。


「まったく、あいつも変わんないねぇ」


 あーやだやだと面倒めんどうそうに頭をるラウル。


 アレックスは気持ちを整理するように、一つ、ため息を吐いた。


「それほどに、強い思い入れがあるんだろう」


「ただくやしいだけだと、オレは思うけどね」


 ラウルはつまらなそうに言うと、口にを放り込み、ひまそうに椅子の背もたれに寄りかかる。


 アレックスはなんとも言えない表情で軽くため息を吐き、


「ラウル」


「んー? ……ああ、そういう……」


 呼ばれてちらりと視線をしたラウルは、なにかをさっしたようにうすく目を開くと、どこかつかれたような顔つきに変わった。


 アレックスはしょうに口を開く。


一応いちおう、な」


「ったく、アレクは甘いんだから」


たのめるか?」


 アレックスのうかがうような視線にさらされること、数秒。


 いたたまれなくなったのか、ことわれないことを知っているからか。


 ラウルは仕方なさそうに嘆息たんそくすると、呆れたこわで言う。


「あー、まぁ、めんどいけど了解りょうかいしりぬぐいはそっちにまかせるけどね」


「それでじゅうぶんだ。助かる」


 ねんを一つ解決できたからか、酷く面倒そうにため息を吐くラウルを横目に、アレックスはホッとしたように表情をゆるませ、


「ねぇアレク。さっきからちょっと気になってるんだけど……これ、他の役員の子には話さないの? 例えば、エリスちゃんとか」


 と、アケビがいぶかしげに問いかけてきた。


 アレックスは何事なにごとか考えるように口元に手をやり、


「……そうだな。話してもいいが、時期が時期だし、そもそもアイツには向かないだろう。それにリヤルゴがあの調子だ。下手に協力者を呼ぶと、余計面倒になる」


「そうねぇ……風紀委員から出すにしても、一年には荷が重いし、二年は怖いし、肝心かんじんの三年はあれだし……」


 ちらりとユーチェンに目を向けると、たましいでも抜けているのかと疑うほど、一目で落ち込んでるとわかるオーラを放ちながら机に突っ伏していた。


 アレックスはなんともいえない顔で嘆息し、


「……まぁ、アイツがやると言ったんだ。ひとずはそれでいいだろう」


「そうね。じゃあ話戻すけど、週末のどっちかにさん――」


「ユーチェン。早速勉強を教えてやろう。わからないことがあったらなんでも聞いてくれ」


「私は昼間でもいいけど、どうしても見つかるのが嫌なら夜中の人目につかないところでもかまわ――」


「さぁユーチェン! わからないのはどこだ! わかるまでてっていてきに教えてやるぞ!」


「アレク、なんでそんなにやる気アルか……」


「……かたない。じゃあラウ――」


「ああそうだ! オレ家からいくつか仕事頼まれてたんだった! ってことで鑑定かんていいってきますッ!」


 なんて、仲間全員から完全に無視されたアケビは、


「…………これはこれで、ちょっといいかも」


 ぶるぶると身体からだふるわせ、新たな快感かいかんに目覚めつつあった。

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