第27話 疫病神

 エリスとリヤルゴがボス部屋で争っている頃。


「さて、そろそろ五分といったところか?」


 ゆっくりと、アレックスが立ち上がった。


 それにクレープは微笑ほほえんで、


「残念ながら、まだ出れませんよ」


「ほう? 五分というのは、うそだったか?」


「いえ、嘘ではないです」


 クレープは、ただ、と続け、


「もしもあなたが、脱出をもくんだ場合の時間というだけですから」


 てきに、笑った。


 それにアレックスは、身体からだをブルブルとふるわせ、


「……く……くくくッ……! ははははははは!!!! やはりお前はそうでなくてはな!! やくびょうがみ、クレープ=フォカート!」


 五分。


 それはアレックスが加勢に行けるであろう、ギリギリの時間。


 だからこそ、無駄な体力と魔力を消耗しょうもうするべきではないと、なんの抵抗もせずに、捕まっていた。


 だが、それすらもわなだったとなれば、もはや笑うしかない。


 アレックスはひどかいそうに笑い、大仰おおぎょうに手を広げて、


「いやしかし、だからこそしいな! 下手をすればケインや死神以上に食えないはずのお前が、あんな仲良し集団に属していることが!」


「……わたしの友達を、馬鹿にしないでください」


 クレープの視線がするどくなる。


 アレックスは構わず、愉快そうに笑う。


「友達。そう、友達だ! 共に攻略を目指す仲間ではなく、ただのお遊び! お前らのやっていることは、自己中心的なリーダーによる、単なる人形遊びにすぎないッ!!」


「あなたは……ッ!」


「俺に意識を向けている場合か?」


「っ!?」


 気づけば、囲まれていた。


 広間の一帯に、魔物が集まっていた。


 クレープはそれに気づくと、顔をしかめてアレックスに背を向け、つえかまえた。


 アレックスはあやしく笑う。


「ここに来るまで殲滅せんめつしてきたとはいえ、全滅ぜんめつさせた訳ではないんだ。……さて、俺を閉じ込めたまま防ぎきれるかな? 疫病神」


「くっ……!」


 目の前に広がる絶望的な光景に、クレープは苦々しげに顔をゆがめる。


 アレックスはあざけるように口のを持ち上げ、


「この結界をけば、身の安全は保証してやるぞ?」


「必要ありません! わたしだって……わたしだって、やればできるんですからぁッ!!」


 クレープのさけびにおうするかのように、その髪がやみいろかがやき、


(……入ったな)


 アレックスは目を細めて、その動向どうこうを見つめ、


「《ダーク・ワンダー》!!」


 クレープが、となえた。


 そして、


「…………む? なにも、起きない?」


「そ、そんな……!」


 部屋に、静寂せいじゃくおとずれて……


「……いや、なんだ、あれは?」


「え?」


 アレックスの視線の先、そこには、直径十センチほどの、灰色はいいろの球体が、あった。


 それはふよふよと、ちゅうただよっていて……


 それはゆっくり、ふわふわと、地面に落下してきていて……


「なんですか、あれ……わたし、あんな魔法、使ってな――」


「おい疫病神! いますぐこの結界を解け!」


「え? そんなことしたらあなたが――」


「うるさい早くしろ!! 死にたいのか!?」


「え? え!?」


「あれからはとんでもない魔力を感じる! 早く結界これを解いて俺の元に来い!」


「だからわたしはあなたの元には――」


「だっからばつの話じゃ……くそっ、もういいッ!」


 アレックスはめんどくさそうに吐き捨て、


「《セカンド・ステップ》!!」


 瞬間、アレックスの全身が金色にきらめいた。


 そのまま大剣を振りかざし、


っけぇぇぇぇ!!!!」


 それはさながら光速こうそくの勢いで大剣を振り回し、結界を容易たやすく切り裂いた。


 アレックスは即座に結界から脱け出し……


 だが、すでに灰色の球体は、すぐそこまでせまっていて……


「《サード・ステップ》!!!」


 アレックスが、叫んだ。


 その姿は、神々しいまでの黄金色に輝き、


つかまれッ!」


「はわわわわわ!?」


 アレックスは一瞬の内にクレープに駆け寄り、なかば無理やりにその手を取って、


「【ゼロデュアル】!!!!」


 その叫びは、球体の爆発に、かき消された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る