第39話 暗黒眼鏡
「さすが、とでも言っておきましょうか」
アレックスは声の方へと視線を動かし、
「……なんの用だ?
「よし、そんじゃあ
「みんなお疲れさまネ。帰ってゆっくり休むといいヨ」
それを受け取った男女が仲間たち全員に聞こえるように言い、そのまま彼らを引き連れ、その場を後にする。
その背中がある程度遠ざかってから、暗黒眼鏡――ルーベルが、肩をすくめながら口を開いた。
「なんの用かなんて、聞かなくともわかっているでしょう?」
「…………」
アレックスは無言のまま
ルーベルはちらりとその横に目を向け、
「それより、あなたは帰らなくてもよろしいので?」
「はっ。話を聞かなきゃ、俺が
アレックスの
リヤルゴは鼻を鳴らして言うと、
「聞いたところで、納得できるかは別だと思いますがね」
ルーベルは肩をすくめると、一つ
「さて……にしても、さすがは学園の最強候補
「……だから、なんの話だ?」
「なんの話って、わかってるくせに~。さっきの迷宮攻略のことですよ~」
「…………」
「いや~、実に
「…………」
「これであなたは、より優秀であると、まわりに示せることでしょう!」
「…………」
「いや~、実に素晴らしい! 本当にすごいことですよこれは! なにしろこの僕のオーダーを、これ以上ないほど完璧にこなしてくれたんですから!!」
なんて
「オーダー?」
と、リヤルゴが
ルーベルは相変わらず
「さっき言った通りですよ。僕は彼に、『なるべく実力のない一年だけのチームで
なんて、とんでもないことを言ってのけた。
実際それは、一歩間違えれば、いや、普通に考えて
しかし、アレックスはそれを実行に移し、なおかつ完璧にこなしてみせた。
それは自身の力を、そしてなにより、
会って間もないタクトでさえも見事なまでに理解し案内してみせた正確な観察眼と、
リヤルゴは一つため息を吐き、アレックスに目を向ける。
「ったく、それでアイツ等を連れてったのか」
「ルールは違反していないだろう」
「確かに違反はしてねぇし、別に悪かねぇが……らしくねぇとは思ったな。たぶんそう感じたのは、俺だけじゃねぇだろうよ」
「だろうな」
アレックスは当然といったように軽く笑う。
それは、彼らを含めたチームで参加したことだけでなく、わざわざ大広間で足止めを行ったこともだろう。
実際にケインは
リヤルゴは
「それにアイツだけハブとか、あとでなに言われっかわかったもんじゃねぇよ」
「それは……」
と、アレックスは痛いところを
リヤルゴは頭に手をやりながら、ダルそうにため息を吐いて言う。
「……つってもまぁ、ある意味まるわかりなんだけどな」
「……そうだな。アイツは俺がなんとかしよう」
「はっ。たりめぇだ」
深いため息を吐いて言うアレックスに、リヤルゴが鼻を鳴らす。
そんな二人の会話の
「そしてその代わりに、“地下迷宮の情報”と、“一部の方が持つクレープさんの落ちこぼれというイメージを
それに、
「クレープってお前、そういうことだったのかよ」
と、
「……
アレックスは申しわけなさそうに言う。
リヤルゴはつまらなそうに鼻で笑い、
「はっ。すまないで
「……すまない」
そう言って、頭を下げるアレックス。
リヤルゴはもう一度鼻を鳴らすと、不満げな顔のまま、ルーベルに目を向ける。
「……で? テメェが待ち
「いえいえそんな。使えるかどうかもわからないようなものを報酬にしようなんて、僕は
「じゃあなんだよ?」
それにルーベルは、スッと、真剣な顔つきに変わり、
「あなた方は彼を、タクトくんを、どう思います?」
「どう、って言われてもなぁ……」
リヤルゴはなんとも言えない顔で、ちらりとアレックスに目をやる。
アレックスはしばし
「……まぁ、まだ知り合って間もないんだ。これから理解を深めていけるんじゃないか?」
「そういう意味ではありませんよ」
「あ゙? ならどういう意味だよ」
「もう少し、具体的に言ってくれないか?」
眉をひそめる二人に、ルーベルは少し考える
「そうですね。では――」
とても爽やかな、人好きのする笑顔を浮かべ、
「あなた方の崇拝する純無魔導師と比べて、どう思いますか?」
その、言葉に、
『…………』
その場が一気に、張り
(……これはさすがに、
ルーベルは背中に冷や汗を浮かべながらも、爽やかに笑い続ける。
いや、動くことすら
「……そうだな。はっきり言って、あの人とは比べ物にならん」
だが、それも数秒。
アレックスの
ルーベルは内心で
「と言うと?」
「あいつは能力を使った後、倒れて自力では動けなかったそうだな」
「……みたいですね」
「あいつの技は、負担がありすぎる。あの人と違って、そう
「だから、比べ物にならない?」
「同じ
「……まぁ、それもそうですね」
「話はそれだけか?」
「……リヤルゴさんも、同じ意見で?」
そう言って、ルーベルはリヤルゴに目を向ける。
「あー……」
リヤルゴはぐしゃぐしゃと髪を
「方向は違うっつーか、なんとなく似てなくもねぇが……まぁ、比べ物にはなんねぇよ。ただまぁ、どっちも相当なぶっ
「なるほど」
ルーベルは一つうなずくと、スッと静かに一歩下がり、
「
二人に向かって、
それに、
「では、こちらからも少しいいか?」
と、アレックスが言った。
「なんでしょう?」
「…………」
「……ふむ」
アレックスの視線に
それを確認したアレックスは、一つ息を吐くと、真面目な表情に変わり、
「俺に権力を持たせて、なにをさせるつもりだ?」
「それは相応の権力を持ってからおっしゃってください」
なんて、平然と、笑顔で返すルーベル。
アレックスは鼻を鳴らし、
「ふん。ならもう一つ。なぜそうまでして、
「…………」
「ただの
「…………」
ルーベルは人好きのする笑顔で固まったまま、なにも答えない。
「…………」
しばらく待ってみても、それは、変わらなくて……
「…………」
まるで微動だにしないルーベルに、アレックスは
「……まぁいい。誰にも秘密の一つや二つはあるものだ」
「ご理解いただけて
爽やかな笑みで言うルーベルに、アレックスはもう一度鼻を鳴らした。
「ふん。では、俺はこれで失礼する」
「俺も帰らせてもらうぜ」
そう言って、二人はスタスタと、寮の方へと歩いていく。
ルーベルはその背中を、見えなくなるまで見送り、
「……やはり、大した情報は得られませんでしたね」
そう言って、肩をすくめた。
そして、ゆっくりと振り返り、遠くを
そこには、綺麗な青空が広がっていて……
しかし、
「…………」
その
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