第32話 最高峰の冒険者

 場所は変わり、迷宮の最奥さいおう


 ボスがする、最後の部屋。


 そこは、凄絶せいぜつだった。


 そこは、激烈げきれつだった。


 常に轟音ごうおんが鳴り響き、衝撃しょうげきに暴風が吹きれ、あちらこちらでせいが飛び交う。


 床には大量の死体が転がり、赤や緑、それらが混じったのか、ところどころが、みにくい黒に染まっている。


 そんな部屋の真ん中に、ボスがいた。


 その戦場の中心に、古ぼけた大樹がいた。


 緑の少なめな、少しわびしい頭頂部。


 巨大な人の顔のような模様のついた、古ぼけながらもしっかりとしたみき


 そこから二本、まるで腕のような位置に、太い枝が生えている。


 そいつは自在にその枝を伸ばし、あやつり、辺り一帯をたたき、なぐり、ぎ払う。


 さらにその周囲には、あのはちのような魔物がうじゃうじゃと飛んでいて。



 それに、彼等は――




 そんな世界で、冒険者たちは――





「はっ。その程度で、このリヤルゴ様を止められるわけねぇだろうがよぉ!! 特攻者アタッカーは魔法準備!! 援護者サポーターは俺以外の奴等をまもれ!!」


『うおおおおおおおお!!!!!!』


「こちらも向こうに合わせますわ! 特攻者アタッカーのみなさんは準備を!! 援護者サポーターは負傷者の治療と蜂の足止めをお願いしますわ!! みなさんできるだけ、わたくしのそばを離れないように!!」


『了解です!!!!』


 ぜんと、立ち向かっていた。


 ぜんと、立ち向かっていた。


 怪我人はいるが、負けてはいない。


 負傷者は多いが、負けてはいない。


 疲労は濃いが、負けては、いない。


「隊長! 双方そうほう準備オーケーです!」


「よし。次俺が受けたら、一気に叩き込めッ!」


『了解!!!!』


 リヤルゴの言葉に、男たちは一斉いっせいに声を上げ、


『――――――――!!!!』


 大樹が腕を、大きく振りかぶった。


 そしてそのまま、勢いよく振り下ろす。


 それはまるで、家が落ちてくるがごとき、一振り。


 それが一直線に、彼等を叩きつぶそうと、


「《ブライト・テンペスト》!」


 エリスがさけんだ。


 すると、エリスの、エリスとその近くにいるすべての冒険者たちの周囲に、きらめく暴風が吹き荒れた。


 それはドーム状に展開され、彼等のまわりを包み込む。


 さながら小さな嵐のごとく、轟音を上げてうなり狂う。


 そしてそれは、とてつもない重量を秘めて振り下ろされた大樹の腕を、泰然たいぜんと、受け止め、


きなさい」


 その腕を、こなじんに切り裂いた。


『――――――――!!!!』


 大樹は声にならないせいを上げる。


 だが、腕はもう一本ある。


 大樹はそれを、今度は横薙ぎに打ちつけようと、


「おい。テメェさっきから、どこ見てやがんだ?」


 リヤルゴが、その前に立ちふさがった。


「目の前にいる俺を、無視しやがってよぉ」


 リヤルゴはてきな笑みを浮かべながら、悠々ゆうゆうと、大樹に近づき、


めんじゃねぇぞ?」


 スッと、目つきが変わった。



 ――瞬間。



『――――――――!!!!!』



 大樹は一際ひときわ大きな奇声を上げて、腕を大きくしならせた。


 それはおそらく、防衛反応だろう。


 本能から来る、生存願望だろう。


 なぜなら、目つきが変わったリヤルゴの全身から、すさまじいまでの殺気さっきが、き出していたから。


 それはもう、相手次第ではそれだけで殺せるのではないかと思えるほどに、強烈きょうれつな、殺気で……


 だからこそ、大樹は標的をリヤルゴに変えた。


 だからこそ、大樹は一撃で仕留められるよう、腕を大きくしならせた。


「はっ。はなからその気で来いっつーんだよ」


 当たったらひとたまりもないであろうその一撃に、リヤルゴはかいそうに、口をゆがめる。


 腰を落として、どっしりと構える。


 そのまましっかりと、大樹を、その腕を、え、



「ふんッ、ぐゥ……ォォオアラァッッッ!!!!!」



 受け止めた。


 恐ろしいほどの殺意が込められた、受ければ確実に死ぬであろう、一撃を。



『――――――――!!??』


 それは困惑こんわくか、驚愕きょうがくか。


 大樹はいままでとは違う、不思議な奇声を上げ、


「よし、やれぇッ!!」


 リヤルゴはそのまま、部下たちに叫ぶ。


『うおおおおおおおおお!!!!!!』


 彼等はリヤルゴを気にすることなく、大樹に魔法の集中砲火をびせる。


 エリス派たちもそれに合わせ、部屋はあらゆる魔法でめ尽くされた。


 蜂は大樹を護るように一ヶ所に固まるが、すさまじい魔法の嵐にまれて、その数を一気に減らし。


 大樹は蜂が防ぎきれずに撃ち込まれた魔法のごうに、低いめいのようなものを上げて。


 その雨が止んだ頃には、蜂はすべて殺し尽くされ、大樹は跡形もなく、吹き飛ばされていて……






『うおおおおおおお!!!!!!』






 彼等は一斉に、勝ちどきを上げた。

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