第19話 明日のために
――そこは、
三十
そこにはすでに機能性に
さらにアレックスの言っていた通り風呂が備え付けられていたとして、他にもいくつか
(一人一人にこれって、どんだけ金かかってんだろ……)
なんて、計算したら軽く絶望しそうな光景に、タクトはげんなりとしながら中へ入った。
そして、置かれていた荷物を
「……あ、俺
「
「いや、そこまでは大丈夫です」
「そうか。それでは俺はこれで失礼する……と、そうだ。一応言っておくが、
「了解で~す」
タクトの返事を聞き、アレックスが部屋から出ていく。
そして、
「…………お、手紙……」
一枚の、手紙を見つけた。
手紙を開き、中を確認する。
そこにはこう、書かれていた。
――――――――――――――――――――
学園には無事に入れたでしょうか?
変に
たまらないと言えば、アタシがあなたの前から姿を消した日。いきなり編入を知ったあなたの反応が、たまらなく面白かったです。
特に登校日が明日だと知ったときのあなたときたら…………やだ、思い出したら手が
……まぁいいわ、それは特別に許してあげる。
とりあえず、いまの学園には色だけで人を判断するような
まぁその時は、二度とアタシに
心配はしていませんが、もしもそうなってしまったら寂しいので、お守りを
気に入らなかったり、必要ないと思うのなら、売っぱらってかまいません。
それではまた、あなたに
あなたの
言っとくけど、荷物だのなんだのでアタシを見つけ出そうったって無駄だから。そんな無駄なことする
それと、売っぱらってもいいって言ったけど、女の子にプレゼントとかしちゃ駄目よ。お互い複雑な気分になるから。
――――――――――――――――――――
その手紙を一通り読み終えたタクトは、
「……あの子らしいなぁ…………」
なんて、どこか優しげな笑顔を浮かべ、
「……そんで、これがお守りってやつかな?」
そう言いながら、手紙と一緒に入っていたモノを手に取る。
それは、小さな
それは
タクトはそれをまじまじと眺め、
「……これ、どんな効果があるんだろ? 使い方とか書いてないかなぁ……?」
今度は手紙をすみずみまで眺めてみるが、お守りについては特になにも書かかれていなくて、
「まぁいいや、とりあえず持ち歩いとけばいいだろ」
そう言って
「ん~……こんなもんかな?」
タクトは腰に手を当てながら部屋を眺め、
部屋の内装や設備には驚かされたが、収納スペースもタクトには充分過ぎるほどにあり、そもそもの荷物が少ないのも相まって、ほんの一時間程度で荷物はスッキリと片付いていた。
荷解きを終え、タクトは一つ伸びをすると、
「……にしても、ほんとすごい場所だよなぁ~」
と、
実際、ここは『すごい』とか、『とんでもない』とか、『頭おかしいんじゃねぇの?』とか、はっきり言って、デタラメな場所だった。
小さな町ほどもある広大な
そこには様々な
その中には
それらが日々
そんな学園の校舎の地下には、人工的に造られた迷宮なんてものもあって。
それは難度や魔物、構造や環境までも自由に設定できる上に、一定のダメージを受けたら即座に保健室に転送され、攻略に失敗しても決して死ぬことはないなんていう、これまたとんでもない施設で。
さらには個人個人に部屋が用意され、庭までついてる学生寮まであって。
そこには『ふざけてんの?』と言いたくなるほど豪華な設備が備わっていて。
さらにそんないかれた学園の大半を占める、巨大な迷宮も存在してて。
いつの間にか、明日はそこで大貴族たちと攻略勝負をするなんてことになっていて……
「…………」
明日の勝負のことを考え、タクトは
先ほど見事なまでの案内をしてみせたアレックス。
明日はあんな化け物
「…………」
しかもこちらは、自分を合わせてもたった四人。
あげくの果てには、学内最大勢力のエリス派まで
「…………」
タクトは眼を細め、明日はどう動くべきかを考える。
「…………」
だが、アレックス派もエリス派も、タクトには戦い方がわからない。
対策がわからない。
「…………」
しかし、タクトが加勢する派閥のリーダー――ケインは、学内のツートップを相手にして、余裕そうに、ヘラヘラと笑っていた。
彼の作戦通りに動けば、恐らくは勝算があるのだろうが……
「…………」
それでも、用心に越したことはない。
ならば、ケインのもとに行ってみるかと考え……
――コンコンコンッと、玄関の戸が叩かれた。
タクトは考えを一旦止め、玄関に向かう。
そして、扉を開き、
「やぁ」
「…………」
タクトは、眉をひそめた。
なぜならその相手は、
「お久しぶり……と言うには、少々早いですかね」
先ほど出会った無属性魔道師、ルーベルだったから。
「……なんの用?」
めんどくさそうに顔をしかめるタクト。
ルーベルは心外だとでも言うように肩をすくめた。
「おや、寮長の部屋まで案内して差し上げたというのに、ずいぶんと冷たいじゃないですか」
「…………」
「ちょっとちょっと、同じ無属性同士、もっと仲良くやりましょうよ~」
「…………」
「……まぁ、無理にとは言いませんが――」
ルーベルはしょぼんと肩を落とし、
「無属性だけにね!」
「…………」
「…………」
「…………」
――――バタン。
「……って、ちょっとちょっと、なんでドア閉めるんですか!? 開けてくださいタクトくん!」
「…………」
――――ガチャ、と、タクトは
「……………………で?」
「へ? ……ああ、用件のことですか」
ルーベルはそのわずかな一言でタクトの言わんとすることを理解し、
「なんてことはないですよ、ただ――」
ニヤリと、怪しく笑って、
「一緒に食事でも、どうかと思いましてね」
その
「……君は――」
「言わなくとも結構ですよ?」
「…………」
「明日のために、話を聞きたいのでしょう?」
「……期待して、いいのかな?」
なんていう問いに、
「
と、ルーベルは
だからタクトは、
「じゃあ、よろしく」
「ええ、こちらこそ」
ニヤリと、互いに不敵な笑みを交わし、
「では、食堂まで行きましょうか」
「そうだね」
ルーベルに連れられ、タクトは食堂へと足を運んだ。
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