第1章 水無月学園と俺 005
朝のホームルームから十分ちょっと、俺は現在第4訓練場にいる。
何個訓練場があるかは知らない。
他のクラスとも合同のようで七々原の姿も見えた。あいつも俺と同じ中学出身だからそりゃ知らないだろうな。
授業開始のチャイムが鳴り終わると、担当の女性教師が話し始める。
「えー、まずは魔術についてだが。正直、座学は後で別の授業でやるし簡単な部分しか教えん。まずは第一に今回教えるのは魂武装の具現化――つまり顕現だ」
魂武装はたしか、個人個人で形が違うらしい。
「ちなみに魔術は基本的には魂武装を顕現させている状態でしか使えん。魔法は何も持っていなくても使えるが、やはり魂武装があったほうが効率や魔力消費を抑えることができる――ということで自分の魂武装を知ることからスタートだ」
全く関係のない話だが、俺はこれでも剣術を一時期していた。剣道とは別の流派的なものだから実践でも使えるはずだ。その上で足については春陽ちゃんに付き合わされてボクシングのフットワークと空手の基礎の動きだけできる。
ただし、春陽ちゃん相手にはほぼ全て通じない――ここはかなり重要。
簡単にまとめれば剣として顕現してくれると嬉しいってわけだ。
「とりあえずやれそうな奴は自分でやってみろ。全くわからない奴らはこっちに集まれ」
魔法を使っていて魔力の感覚はつかめている――俺はとりあえず自分でやってみることにした。
…………。
うん、無理。
「如月さん! 調子はどうだ?」
「見ての通りだよ」
「私はできたぞ!」
「なんだと!? ……ってどこにあるんだ、その武器は?」
「これだ」
言わずがなも七々原が俺を見つけて近づいてきたわけだが、七々原の手元が小さく光るとそこから刀の柄が現れる。
そしてそれを抜き放つ。
「どうやら小刀、もしくは忍者刀の類の形らしい」
単純に詳しくないからそう言ってるんだろう。まあ俺にもどっちかわからないけど。
「どんな感じでやるんだ?」
「魔力というより思考を集中させて、手元に集める感じだ。一度だしたらその後は形がわかってる分想像もしやすくなると、今判明したぞ!」
そうか。一度出せればその後はむしろ楽というわけか。
「…………」
だけど、どう思考を集中させればいいんだ。魔力コントロールだって普段は……傷を治すって意味で痛みとか傷に集中することで治してる。
「なあ、集中するときなにかこう、武器的なの想像したりしたか?」
「いや、していないぞ! むしろ今日発売の新作のライトノベルの展開を想像していた! 早く本屋へと向かいたい!」
つまりは本当に好きに集中すればいいんだな。
「解放!!」
とりあえず武器を抜き放つイメージで叫んで居合をしてみた――そしたら日本刀がでてきた。
柄は黄色で鞘は赤という謎のセンスの日本刀が。
「鞘までセットの日本刀か。なかなか良いじゃないか! さすがは如月さんだ!」
「だせたよ……ええと、しまうときは」
「普通にしまうようなイメージで武器を手放すと消える」
やってみたら本当に消えた。
もう一度出そうと思ったが、なるほど。
たしかに七々原が言ったとおり日本刀という形がわかるだけで想像もしやすく、顕現させやすくなった。
「如月さん!」
「おう!」
俺は七々原ととりあえずハイタッチした。
やればできるじゃないか。俺は攻撃を食らうだけの魔法使いではなくなったぞ!
その後も指示があるまでしばらく出したり閉まったりしていた。
「さて、では次だ。基本の魔術を教える。魔術を構成するのは――えーと、こう言霊とかそういう感じのやつと魔力だ」
この教師、全力で感覚タイプの人だな。
「とはいえ得意不得意があるからな。まず全員これを受け取れ」
俺と七々原は後ろの方にいたので回ってくるのは遅かったが、なにやら白い紙が回ってきた。
「それに魔力を送ると、わかりやすい属性適正がわかるからやってみろ。反応でわかると思うが、もしわからなかったら私の元へ持って来い」
この紙に魔力を込めればいいんだな。
「うおっ!? 如月さん! 凍ったぞ」
まさかのお前が氷属性かよ。心のなかはいつも燃えたぎってるかエロスティックな癖に。
「…………あれ? 全く反応しない」
「ちゃんと魔力を送れているのか?」
「そのはずなんだけど……ちょっと聞いてくる」
俺はとりあえず教師の元へと向かう。こういう時に恥ずかしがる俺じゃないぜ。腹が痛い時はちゃんと自己申告してからトイレにいくからな。
「これは無属性だな」
無属性なんてあるのか。
「とはいえ、あくまで一番の適正だから他にも使えると思うし、無属性は別に利点がないとかではない。むしろ無属性が得意じゃないと使えない魔術も存在するからな。今後の授業で教えていってやろう」
よくある無属性は落第生とかそういうパターンじゃなくて、無属性には無属性の利点があるのか。それならよかったよ。
「どうだった?」
「無属性だそうだ」
「ほほう。成り上がりや俺強い系の定番属性だと私は思うが、実際はどうなのだろうか?」
「あの人がいうには無属性には無属性の利点があるっていってたし、優劣はないんじゃないか? むしろ水と火みたいな明らかな優劣あるよりは使いやすいかもな」
「いやいや、如月さん。そもそも水と火が敵対にあるようなことをいうが、条件が揃えばむしろ火に水は火を強くするんだぞ」
「それ油が燃えた火限定じゃなかったか」
「その通りだ! よく知っているな」
多分、下手すりゃ小学生の頃に物好きな理科教師がいたら知ることだし、少なくとも中学で発覚すると思うんだが。
今日のこの先生の授業は終了となるが、そのまま次の指示が出された。
「次の授業だが、魔法持ちとそうでないもので別れて行う。魔法を持っているものはこのまま待機。持っていないものは魔術の授業を第5訓練場にて行う。以上。おつかれ」
全員で挨拶をしてそれぞれ移動を開始する。
魔法持ちと持たないということは俺はここで待機になるわけで、七々原もここで待機だ。
様子を見てると新規生のうちの半分は魔法持ちのようだ。
「しかし、魔法持ちの中に混ざるのは若干気が引けるな。如月さんはどうだ?」
「まあ俺もあんまり混ざりたくはないな」
だって、かなり地味だから。それこそ雷とかの魔法を持った奴は大技を使ってみろ。俺のこの地味すぎる魔法は影にすらならないだろう。
そんなことを言っているうちに、ゾロゾロと入れ替わりで生徒が入ってくる。その中にはクラスメイトの姿もある。
「神楽ちゃん!」
「では、如月さん! 私は呼ばれたので行ってくる。何かあったらすぐ呼んでくれ」
「クラスの友達も大事にしろよ~」
さて、俺は友達まだできないし、知った顔レベルの奴の所に混ざる――
「魔法の授業だっけ? オレの炎が火をふくぜ」
「ボクの水に比べればその程度、鎮火させるけどね」
よし、絶対混ざらねえ。
あんなもん混ざったらいくつ俺の体があっても足らない。
「おら~。固まれてめえら~」
そしておそらくこの魔法授業の担当教師であろう、白衣男性教師が現れた。
「授業始まる前に2人一組作れ。そしたらそれでしばらくやってもらうから自己紹介でもしろ。ちなみにしばらくってのは半年くらいのことな」
すごい、長いじゃねえか。
それを聞くと周りもざわざわと動き出して、授業開始のチャイムも鳴り響く。
「…………」
そして誰にも誘われなかった俺は隅にポツンと立っている。まだ、全員が組み終わったわけじゃないし、大丈夫大丈夫。
更に数分後、訓練場の影に膝をついて倒れている男が一人いた。
というか俺だった。
マジで誰も誘ってくれない。これどうすればいいんだよ。
だが、そんな俺に救いの手を差し伸べる存在が現れた。肩をつつかれているこの感覚、俺はその主の方を見た。
「…………」
「…………」
目の前にいる金髪というよりは黄色髪のツインテ少女。目があってしまって、つい無言になってしまう俺。
「……よろしく」
「お、おう。よろしく」
改めて、立ち上がって握手する。それにしても身長低いな。
俺の身長は女子の中では大きめ春陽ちゃんより若干低いくらいなわけだが、その俺の肩に頭の頂点が平行になる身長とは。
「
「あ、あぁ。如月伊織だ。クラスはDクラス」
ちなみにこれは術式師としてのランクではなく、単純な学校のクラスだ。
この後、教師がきてしばらく授業で組むこととなったわけだが、この子は一体どんな子なんだ。いや、子なんて言っちゃうけど見た目がそう思っちゃう見た目なだけで同い年なはずなんだけどさ。七々原みたいな飛び級少女じゃないかぎり。
「そんじゃあ、これから魔法を用いた模擬戦を行ってもらう。といっても全員が一斉にこの場で行ったら洒落にならないことにしかならないからな。幻覚魔術による幻覚内でのことだ。お互い相手の魔法くらいは分析するように」
そう言うと、手を素早く動かして魔術を発動させたようだ。
気づけば俺は訓練場じゃなく、どこかの教室のような場所にいた。そして少し距離のある正面には稲光の姿。
『それじゃあ、それぞれはじめ』
空間内に声が響く。
「開始って言われてもな……どうすれば――っ!?」
少し意識を逸らした瞬間に、目の前から稲光が消えた。
ちょっと待てよ、どんな魔法使ったっていうんだ。ていうか、もしかして中等部からの上がりで魔術も使用できるやつだったりするわけか。
「よそ見厳禁ね」
至って冷静な声が後ろから聞こえる。だが、振り向くことはかなわず。あの身長からは想像できない威力の蹴りで俺は教室の壁にたたきつけられた。
「いってぇ!」
ていうか、見えないんじゃ対処方法がねえじゃねえか。
とりあえず、骨が折れるとかそういう重症になってないから、立ち上がるけども。
どうするかな。考えろ、俺。
フットワークをしながら考えろ。
ステップしながら考えろ。
「っぶねえ!?」
また後ろからくると警戒してたら、顔狙いの拳が飛んできたよ。
ギリギリでかわせたけど。
「反射はすごい……」
「すごいのはこっちのセリフだっての。それがお前の魔法か? テレポーテーションとかそういう系のやつかよ」
「違うわ。移動速度については魔術も関わっている」
つまり二重の強化ってわけか。さて、そうなると身体能力強化と見るのが自然な気がするけど、どうかな。
「そっちも魔法を使ったら」
「俺の魔法は攻撃用じゃ、残念ながらないからな」
だって、再生だし。異常と言われるレベルでの再生だし。
「そう……じゃあ、まだこっちのターン」
「ターンって、どこぞのカードゲームか――よっ!」
よし、かわせた。
「じゃあ、次こそ魔法の力見せてあげる」
「さてね。どんな能力かな」
「もう終わった」
「……は?」
違和感を感じて、右手を見るとなくなっていた。
「くそっ、いってえええええぇぇええ!!」
時間差で血が大量に流れるのは言わずがなものことなわけだ。
「幻覚の中でも夢の類だから大丈夫……!?」
くそっ、マジでいてえ。
だけど、何したかやっと理解したぞ。後ろに転がってる焦げた椅子のお陰でな。
「お前の能力は苗字通りの雷か。さっきのは
「貴方……その腕」
俺は話しながらも、魔法を腕にたいして集中させる。
そしてなくなった腕はゆっくりと治っていく。制服までは直せねえけど。
「これが俺の魔法だよ。いったろ、攻撃用じゃないって」
「……そういうこと。わかった、ならまだまだ行く!」
「こいよ!」
ボクシングのフットワークでかわせるのは物理攻撃のみで、超電磁砲はこの後も何度もくらったが、その度に治していった。
気づけば20分やり続けていたらしく、幻覚がとけたときには俺の魔力は底をつきかけていたわけで、地面に横になってた。
「おつかれ……」
「……ああ、おつかれさん」
稲光が頭の近くにしゃがみこんでそう言ってきた。
「面白い魔法。なかなかいない」
「妹の一人も同じだぜ。いや、少し違うけどな」
「これからよろしく」
「ああ、改めてよろしくな」
さて――パンツが見えてるってことはいつ教えてやればいいんだ。思ったより大人っぽいな。
「…………」
「いや、稲光。落ち着け、今生身だから、雷とか人間の体焦げちゃうから」
ていうかバレてた。
「貴方の魔法は面白い」
「ああああああああぁぁぁああ!!」
その後、雷に焼かれたのはお察しの通りである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます