第1章 水無月学園と俺 003
さて、理事長室の前についたけど。
俺はどうでもいいかもしれないことで悩んでいた。
目上の人に対してのノックって何回だっけ。面接試験の時はなんか3回だったから3回でいいのかな。
まあ、そんな風に扉の前をうろうろしてたら扉が開いて中から理事長がでてきた。
「扉の前で何をしている……まあ、入れ」
「失礼します」
家に帰ったら調べて置いたほうがいい気がする。
「まあ、座れ」
「はあ……失礼します」
失礼しますって挨拶だろうけど、こうも短時間で使うとうるさいって感じたりしそうッて思うのは、まだ俺が未熟だからなのかそれとも実は大人も思っているのか。
「それで早速、話に入るんだが」
「はい」
「お前の寮にもう一人追加というか入寮させてもいいか?」
「……は?」
いや、だってうちの寮一応3人用ですよ。まあ一部屋開いてるんだけどね。
「ちなみにお前の妹2人には式後にあってきて、許可をもらっている」
オリエンテーションまあ長かったし会えなくもないかもしれないが、それでも手間のかかることをするなこの人。
「ええと、そもそも何故そんなことに。たしか寮は足りてたんですよね」
まあ、一応寮の類の一つだから希望者がいれば受け入れるって話は前々からしてた――らしいけど、それでも入学式前はいなかったんじゃ。しかも式後から入るってなるのもまた若干特殊だよな。
「それがだな……うちの寮の一つが放火にあってな。幸い生徒の多くが実家に帰っていたり、避難がすぐにできて怪我人はでていないんだが、新入生だけでなくもともと入っていた人たちも移動が必要になってな……要するに部屋が少し足りない」
「それで、一人うちにってことですか」
「そういうことだ。ちなみに女子な」
さて、わざわざ性別を明かしてきたぞ。これをどう考える如月伊織。
女子が入ってくることになれば必然的に男は俺一人になるが、そこについての人格試験はパスしていると考えていいわけなのか。
こう見えても俺だって男としての本能は働いているから他所の女子がきたりなんてしたらどうなるかわかったもんじゃないんですよ、理事長。
「ちなみに、何かありそうになったら妹に対処してもらうって話もつけている」
信用されてるんじゃなくて防衛装置がいるからって理由だったようだ。
下手に手を出したらまた普通の人間じゃ死ぬ傷を与えられてしまうじゃないか。
「まあ俺はいいですけど」
「そう言ってくれて助かる。今日からだから荷物運びを手伝ってやってくれ。昨日言っておいた留学生のお姫様だ。身体能力テストだけ入国の関係でやれてなくて今日やっているがそろそろ終わるだろう」
「そういえば昨日そんなこと言ってましたね……あれ? でもそんな人いましたっけ」
「リリア・レイハートだが、いなかったか?」
「……ああ! あの金髪美少女!」
「その認識はいささか問題がいつか出てきそうに感じてしまうが、多分その子だ」
「了解です……えっとそれじゃあ」
「うむ、行ってやってくれ」
「では、失礼しました」
俺はそう言いながら理事長室を出て、とりあえず自分の鞄をとるために教室へと戻った。
時間はすでに夕方になっていて、廊下の窓から入ってくるオレンジの光が綺麗とか思わないでもない。
そして律儀に閉まっている教室の扉を開けた。
「…………」
「…………」
やばい、中に人がいた。しかも金髪美少女だった。
なんで着替えてんの?
「い――」
まあ、そうだよな。
「いやあああぁぁぁあああ!!」
「……いや、まて叫ぶまでは予想通りだったけど。それはまてぇぇええ!!」
金髪美少女は叫ぶだけじゃなく、炎の塊を――とかだったらてっとりばやかったんだが、そんなんじゃ生ぬるかったのか炎の鉄拳をお見舞いしてきた。
めちゃくちゃいてえ。
「はぁ……はぁ……――え? あれ? 如月? クラスメイト? や、やばいっ!?」
そして攻撃した瞬間にやり過ぎた的な反応をしているレイハート。
だが、俺は見逃さなかった。テンパってるせいでまだ下着しか身に着けていないその体を頭のなかに焼き付けてやった――違った。焼き付いてしまった。
決して故意ではない、偶然だ。
「おいおい、何だ今の轟音は……ん?」
そして登場、理事長。
俺の焼け焦げた状態とテンパってる下着金髪美少女を見て、状況を把握したらしい。
だからとりあえず助けて――
「服を着ろ。レイハート」
くれなかった。
003
俺の秘技を見せてやる。章変え!
だが、場面はさほど変わらない。
皮膚が黒く焼け焦げた体を治して、新しい制服をもらった俺はそのまま昇降口まで移動して待機する。
あの後、荷物を昇降口に持っていくらしいので待機していろと言われた。
「あ、あの……さっきはごめんなさい」
後からきたレイハートは俺に謝ってくる。
「いや、俺も悪かったし。むしろ責任を取らせてほしいくらいだ」
「責任?」
正直に白状しよう、俺が入った瞬間はまだブラもつけていなかった。どうやら運動するときはブラも変えるタイプらしい。ようするに下の最終防衛ラインしか存在していなかったのだ。
ただそんなことは知らないと言わんばかりの純粋な目で見てくる。
「責任ってなんで?」
「いや、まあ教室の扉閉まっていたのに確認もせず開けた俺にも非はあるっていうか」
むしろ、俺からすれば天国並の何かだったって後から思える程度ではあるし。
体は焼かれたけど。
「いや、学校の教室だしそれはないと思うけど」
そう言う。
自己責任能力は結構な高さを持っているらしい。
さすが留学できるレベルの人だ。
俺は周りにあの妹2人に七々原みたいな奴がいるせいかもしれないが、最高の人格者じゃないのか。
「でも、まあそうやって言ってくれるのを無碍にするのも日本だと無礼にあたるとかいうし、なるようにしてくれればいいけど……具体的にどうやって責任をとるの?」
「結婚しよう」
「ぶっ!」
おっと、レイハート選手吹き出した。
「な、ななな、なに言ってんの!? け、けけ、けけけ結婚!?」
「事故とはいえ、体の8割ぐらい素肌見ちゃったし」
「段階すっ飛ばしすぎでしょ!? そ、それにあなたと私はまだ今日であったばっかりだし、そういうのは早過ぎるというか」
顔真っ赤だな。
「それもそうか……すまん。でも、なにかで責任はとりたいと思ってるから何かあったら言ってくれよ」
「う、うん」
この後、レイハートの顔から赤みが消えるまで1時間くらいかかったのは別の話だ。
「まあとりあえず荷物運ぶか」
「そうだな。任せろ!」
…………。
「なんで春陽ちゃんここにいるの?」
「困った人がいる所にアタシありだ! といいたいところだが、今回は理事長先生に手伝ってくれと言われたからだ」
まあ一人の引っ越しレベルの荷物を俺とか弱い女子の2人で運ぶとか無茶だもんな。
「あれ? それじゃあ瑠璃ちゃんもきてんのか?」
「いや、瑠璃ちゃんは力仕事じゃなくて頭脳労働係だからな」
「それもそうか……ああ、えっと、俺の妹」
「この人が今日からうちに来る人か?」
「そう、留学生だそうだ」
「ほうほう。アタシは中等部所属の如月春陽! よろしくお願いします!」
「あ、リリア・レイハートです。こちらこそよろしくお願いします」
うん。俺の妹はちゃんと挨拶ができるように育ってくれていて兄ちゃんは嬉しいぞ。
「それじゃあ兄ちゃんアタシは何個ダンボールを持てばいいんだ? この数なら全部一気に持てる自信もある!」
「えーと――」
ダンボールは大きいのは6個か。
それなら簡単に分けられるな。
「4つもっていけ。俺は2つ持っていく!」
「え? あの、私は……というか私の荷物なのに」
「こういうのは男に任せておけ」
「妹さんの方が多く持ってるけど」
「適材適所だ」
だって、こいつなら前が見えないということを気にしなかったらたぶん10個くらいは余裕で持てるし。現に目の前で4つを軽々と持ち上げてるしな。
「じゃあ兄ちゃん、電車にこれで乗るのもあれだし先にいってる! 空き部屋においておく!」
「おう」
そういうと、春陽ちゃんはすごいスピードで視界から消えていった。
「そんじゃ、俺たちもいこうか」
「う、うん」
なんかすごい呆然としてるな……春陽ちゃんのあれはそんな反応するほどすごいことなのか。今度からはきちんと事前の説明をしてから行くべきだな。
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