第1章 水無月学園と俺 001

「お兄ちゃん? 二度寝なんてしてないよね? まさか、まかさ、マッカッサー、一度起こしたのにまた寝るなんてことを私のお兄ちゃんがするわけないよね?」

「うおおっ!? まてまて、まて瑠璃るりちゃん待って!」

 入学式前日の俺は頭上から振り下ろされるバールをかわして目を覚ました。ていうか髪の毛少し持ってかれた気がする。

「瑠璃ちゃん、それはどうかなと思う――というか枕じゃっかん貫通してるじゃねえか!」

「おはよう、お兄ちゃん。心優しく一度起こしていたのに布団に恋しちゃっていたのかな? まさか2度寝をしてたなんてことはないよね?」

 俺の妹、如月瑠璃きさらぎるりちゃんは笑顔でそう言っている。

 だけど、その笑顔は恐怖でしかない。

「まさか、瑠璃ちゃんのお兄ちゃんの俺が、妹に優しく起こされたというのに2度寝をかますなんてことがあるわけないじゃないか」

「そうだよね、寝ていたらかわせるはずないもんね」

「そのとおりだとも」

 人間の防衛本能っていうのは熟睡してても働くものなんだな。

「とりあえず、明日の準備でもしたら。買い物してこなきゃ駄目なんでしょ?」

「そうだった、ありがとう。瑠璃ちゃん……ところで春陽はるひちゃんは?」

「朝のランニング行った後に出かけていったけど?」

「そっか。まあそういうことならいいか――」

「おっはよう、兄ちゃん!!」

「ごふぉっ!!」

 僕は普通の壁だったらヒビが入る威力で蹴り飛ばされる。

 春陽ちゃんも帰ってきたのね。

 俺は肋骨が折れて肺に絶対突き刺さってる状態でかすれた声で元気に挨拶だ。

「おは……春陽ちゃ……」

 肺に穴が開いてるせいか声がしっかりとはでなかったのは当たり前だ。

「春陽ちゃん、やりすぎだよ」

「おっと、これはいけない。ところで瑠璃ちゃんはなんで兄ちゃんの部屋の前にいるんだ?」

「お兄ちゃんがなかなか降りてこなかったから、起こしに来てたの」

 この2人は俺の自慢の妹2人である。

 大きい方が春陽ちゃん、身体能力抜群でさらに身体強化エンハンスの魔法持ちだ。

 そして小さい方が瑠璃ちゃん。俺と同じ魔法を持っているらしいけど、上手くは使いこなせていないらしい。ただ、使う機会がないのが一番である。

 というか学園行く前に魔法を使う必要があることになるとは思ってもいなかったよ、春陽ちゃん。

「よ、よしっ」

「兄ちゃん大丈夫? カルシウムとったほうがいいぞ」

「いや、春陽ちゃん。魔法をつかったら岩砕く威力で使わなくても岩にヒビいれる威力の蹴りを入れられたら俺じゃなくても肋骨は折れるからね」

「アタシは折れないぜ!」

「それは筋肉が硬いだけだ!」

「そんな馬鹿な!」

「あ、いや胸は柔らかいか」

 目の前に会ったのでとりあえず数回揉んで見た。

「この変態があ!!」

「顔はまずい顔は!!」

 その後、体が元に戻るまで30分を要したらしい……ただ、こういう場合俺の亡骸に瑠璃ちゃん追い打ちかけてること多いらしいから、実際は15分くらいで治ってた可能性も無きにしもあらずだ。

 そう、つまり俺と瑠璃ちゃんの能力は単純な体などの再生っていうわけだ。


 ***


 俺は再び起きた(ていうか再生した)後、妹お手製の朝食兼昼ごはんを食べてから自転車で外へとでかけた。

 筆記用具が足りてないんだよねっていうのと、その他にも小物が足りてなかったりもしてるからだ。

 自転車で20分程度の所にショッピングモールがあるという好立地の寮というシェアハウス(3人ようで妹2人と俺だから実質は家のようなものだ)なのは良かったと言える。

 学園まで自転車で30分くらいだけど。

 まあ、とりあえずショッピングモールについてまずは文具店に立ち寄った。

「えーと、HBHBと」

 俺は何故かHBのシャーペンが無性に好きなのだ。Bは鉛筆でマークテストとか用に用意している。

「よう、如月。久しいな」

「ん? ……えーと、水無月理事長」

「水無月さんとかでいいよ。私は理事長と呼ばれるのは好かないんだ……かしこまった場ではそう呼べよ」

「わかってますって。推薦入試の面接以来ですね」

「そうだな……お前の魔法というか根性には驚かされたよ。それで今日はどうかしたのか?」

「筆記用具とかそういうのを揃えないといけないので」

 この人は水無月学園の理事長の水無月香織みなづきかおりさん。黒のスーツのクールビューティ系の人だが、何故かいつも棒付きキャンディというかチュッポチャッパスを舐めている。

「まあそうか。もう明日からだったな……はぁ、挨拶面倒くさい」

「せめて一人の時とかにしません。それ」

 一応俺も明日から生徒なわけだし。

「まあそうだな……あぁ、そうだ。お前のクラスには留学生が入るから良ければ日本のことを教えてやってくれ」

「男ですか?」

「女だが問題あるか」

「俺的には問題ないですけど」

 普通そういうのって女子同士のほうか絶対よくないかって思わないでもない。

「どこかの国の王女だか皇女様らしいから丁重にな」

「何サラッと個人情報暴露したうえで適当すぎて、どんな人かさっぱりわかんねえ!?」

 はっはっはと笑いながら理事長は帰っていった。

 何しに来てたんだあの人。

 この後、特に劇的な展開もなく買い物を済ませて俺は家に帰った。

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