第7話 宿屋 夜
「さぁー、さぁー。ビカム君がお待ちかねの宿屋さんだねー。やっと1日が終わったよね。神様、今日は本当に疲れたよ」
「早く寝ようね!」
「これから、夜の街に繰り出すぞ、おー! みたいに目をランランと輝かせて言うセリフじゃないね。それに、たくさんお昼寝してたような気がするのに……、もう、凄いね」
「あれがいい。スイートルーム」
「いや、いや、いやーーーー、それはちょっとダメかなー。1泊、10万ゴールドって、ないわー、高杉晋作だよねー。なんちゃってだよね。冒険者が泊まるところではないよ。そこは新婚さんとかが泊まるところだから」
「うん、早く行こ。スイートルーム」
「だ・か・らー。ダメっていってるでしょ。そこじゃなくて、ほら冒険者は1泊1ゴールド。これ、これ、これがいいよね。ねっ、ねっ、そうしよう。ほら言って『じゃ、ま、そういうことで』って。そしたら決まりだからね」
「あら、ビカム様♡」
「おお、我が麗しのギルドの猫耳娘よ」
「ポワン。……素敵っ。勇者さまぁ~♡」
「うんうん。そうか、そうか、よしよし」
「ほぇーーーーーーー。って、あれれれれれ。ちょっと、ちょっと、おーい、おーい、何してんの? いきなりのラブラブって、聞いてないよ。あまりのことに、神様、呆然としちゃったよ。読んでる人も何があったのか分からないよ」
「ええい、下がれ、じい!」
「ビカム君、もうね、いい。ルールなんてどうでもいい。こらっ! 新居浜! 誰が『じい』じゃ! ……でも、その変わりようは、なんでかなー。君はそういう人じゃなかったよね。さっきまで、『じゃ、ま』とか言ってたじゃん」
「下がりなさい、下郎! 勇者さまぁ~、これからどちらへ」
「下郎って、あーた。もうね、神様、さすがに、相手が猫耳お姉さんでも、イラッときたねー。これは、イラッときて正解だよね。みんな、うん、うん、うんの納得三重丸だよね。どう考えてもないよね!」
「うーんとね、寝に行くの」
「戻ったねー。やっぱり、そんなには持たなかったねー。それ、それ、ビカム君はそうでないとね。神様、もう訳が分からなくなっちゃったけど、少し安心したよ。ほっとしたよ。あーーーー良かった!」
「それなら、私と、ここのスイートルームで……」
「あれっ、れれれれれれ。なんか、とんでもない展開になってるよ。ギルドのお姉さん、切符買われて、仕事邪魔され、恋しちゃったよ! 神様、このあと何を信じて生きていけばいいのか、分からなくなってきたよ」
「さっき10万ゴールドだから、ダメって言われちゃった」
「可愛いーーー♡ もちろん私がお支払いしますわ。勇者さまぁ~」
「あちゃーーーーーーーーー。神様やらかしちゃったよ。それ、スキル『恋のキューピット』だね。まいったねーーー。お姉さん、♡マークがびよよーんって出てるもんね。どうして気付かなかったのかなー。一生の不覚だよ」
「そう? 悪いねー」
「ちょっと、ちょっと、待って、待って、ビカム君。これR15指定してないんだから、キャッ、キャッ、ウフフとかアウトーだからね。神様、冷や汗と脂汗と鼻水が、一緒に出てきちゃったよ」
「さ、参りましょ。勇者さまぁ~♡」
「じゃ、ま、そういうことで。バイバーイ」
「なし、なし、なし、なし。それ、なしだから。特にその白い歯キラーンっていらないから。目障りだから。腹立つから。殺意湧くから! バイバイとか言ってるしね。もう怒ったね。さすがの神様も怒ったよ。我慢の限界を越えて、宇宙までいっちゃったよ。もう、奥の手を使うよ、最終手段だね。熟睡するまで、しゃべり続けるからね」
「ぐぅー、ぐぅー、ぐぅー」
「よっしゃー! R15阻止、成功! ガッツポーズだね。やったね、みんな拍手だよね。はぁーー、良かった。って、お姉さん、なに抱っこしてんの? 想定外だよ、お姫様抱っこ逆バージョンって、『恋のキューピット』の力を舐めてたよ」
「いい子、いい子」
「なんか、頭を撫でられてるよ、もふもふお姉さんに頭を撫でられて……。あーーービカム君、今、奇妙に寝返り打って、微妙に胸の方へ顔向けてるよ。とんでもねぇーーー。やっぱ、ダメじゃん。神様、R15してくるよ」
「うーん。ぱふぱふ」
「うふふ。可愛い♡」
「はぁ、はぁ。戻ってきたよ。もうR15はセーフ。あれ、でも、なんか寝言いいながら、とんでもないことしてるよ。もう、まいったね。しかも今、ちょっと薄目開けたよ。お姉さんは撫でるのに夢中だし。さいてーーーーな、シーンだね」
『じゃ、ま、そういうことでね』
「なんか、セリフのかっこを変えて、語尾に『ね』とかつけて、抱っこされたまま行っちゃったよ。もういいよ、いい、いい、いいよ。どうせ、すぐ寝ちゃうんだろうしねーーーーー」
「あんたは、泊まるのどうすんの?」
「はい、泊まります。1Gの部屋、お願いします」
「1G? ちっ。なら、そこだよ、その玄関脇のタコ部屋ね。はい、まいど」
「…………あれれ、神様なんで泣いているんだろ? でも、泣いていいよね。ねっ、ねっ、ねぇ。いいよねーー。って、誰も聞いてないか」
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