第4話 王様


 「おお、勇者よ。よくぞ、まいられた」


 「神様正解! 凄いね」


 「いや、いや、いや。そういうこと、ここで言っちゃダメでしょ。正解とか。ほら、王様の眉間に青筋立っちゃってるよ。ここは、嘘でもいいから『はっ! 陛下のご尊顔を~』とかいう場面でしょ」


 「神様って、嘘つきなんだ」


 「だからー、そういうことじゃなくてね。神様は嘘つかないし、オオカミ少年じゃないからね。さらっと、とんでもない毒を吐かないでくれるかなー。この国での神様の地位が、地に落ちちゃうからさー」


 「また、くだらないこと言ってる」


 「言わしているの君だからね。それにどこの部分。ねぇ、ねぇ、どこが、くだらないって言ってるのかなー。オオカミ少年以外のとこだったら、神様、困るよね」


 「じゃ、ま、そういうことで」


 「でたねー。言うと思ったよ。神様は何でも知ってるからねー。ほら、王様呆れちゃってるよ。困るんだよねー。いちおう神様にも、段取りってものがあるんだし。ちゃんと前を向いてね」


 「勇者よ、この伝説の剣エクスカリバーを授けよう。そして囚われの姫を助けてくれ」


 「ほらー、王様も空気を呼んで、一気に物語を進めてくれたよ。王様、凄いね、偉いね。お姫様が囚われてるって、助けないとね。もう神様、この国に力を分けちゃおうかなーってくらい、感動してるよ」


 「やったじゃん。これが働くってことか」


 「おぉぉ。って、違うよ! 君が急に元気に言ったから騙されそうになっちゃったよ。違うからね。なに、満足して、達成感に浸ってるのかなー。それ、全然、働くことじゃないから。まだ、何もしてないからね」


 「じゃ、ま、そういうことで。あとはよろしく」


 「ち、ちょっと、待って、待って。ダメだよ、よろしくされないから。剣ももらってないし、お礼も言ってないのに、どうして帰ろうとするかな。君がもらわないとダメなんだよ。ほら、行ってきて」


 「えーー。神様って嘘つきで、ケチなんだ」


 「またまた、何を言っちゃってるのかなー。さきより毒を増やして。それだと即死しちゃうよ。致死量超えてるから」


 「そこな兵よ、この剣を勇者に授けよ」


 「ほらー、君がもたもたしてるから、王様が気を利かせて、向うから持ってきてくれるって。勇者は、エクスカリバーを手に入れた! みたいな、音楽が聞こえてくるでしょ。やったね。神様、王様の心遣いに泣けてきたよ」


 「嘘つきで、ケチで、泣き虫なの?」


 「さらに毒を増やしてきたねー。大量殺人になっちゃうよ。そりゃ勇者だから、相手が魔族とか魔物ならそれでもいいけどね、君のは相手が神様だから。それに、君は、一部の単語しか聞いてないでしょ?」


 「殺人までするの? びっくり」


 「何を驚いているのかなー。それと、『まで』ってのが気になるよね。誰が殺人とかするのかなー? もうさ、驚いた顔が新鮮とか、そういうレベルじゃないね。王様も頭を抱えちゃったよ。まいったねー」


 「じゃ、ま、そういうこで。いっぱい喋ったなー」


 「いや、いや、いや、喋っているのは、ほとんど神様だから。君は1行以上は喋っていないよ。それも連続で毒を吐いてただけだよね。おもにというか、全部、神様に向けての猛毒だよね」


 「もう、休憩時間だよね?」


 「また話し、ずれたねー。ここは会社でもバイト先でもないから休憩時間なんてないよ。それにどうして、最後の最後まで、王様の前でそんな発想になるかなー。『必ずや姫をお救い申し上げます』とか、キメる場面でしょ」


 「ブラックじゃん」


 「そうだね。黒いね。って、普通はさー、ブラック企業には天罰を与えるのが、神様の仕事なんだけど、君を見てると、そのお仕事を忘れちゃいそうだよ」


 「じゃ、ま、そういうことで。寝ていいよね?」


 「ダメーーーー。ダメだからね。ここで寝ちゃダメ! ここは『冒険に出発だ、オー』でしょ。それに、お姫様を助けないとね。ほら、行くよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る