第36話 罠

 「次の村はいねがー。次の町はいねがー。なんちって。って、どこにあるんだろうね。どこまで行っても村も町もないんだけど。どうなってんだろうね、この大陸。そろそろバカどもが騒ぎそうだし、これは困ったねー」


 「やっぱ、サキエルってキモイね」


 「い、いきなり、なに喧嘩を売ってるだすか」


 「全裸だし、キモキモ言ってるし」


 「賛成! 勇者に1票。へっ、シャムネコのお返しだ」


 「キモキモなんて言ってないだすよ! このぉ……、しかもシャムネコまでいい気になりやがって……。うぐぐぐぐぅ」


 「あーーーぁ、やっぱやってるよ。ビカム対サキエル第一ラウンドはじめてるね。もうさ、どっちか滅びて、残ったほうが魔王倒してくれればいいね。ほんとそれでいいわ、神様。ぐうたら男でもキモ天使でもなんでもいいや」


 「もう怒っただす。ビカム決闘だす。手袋投げただす。ふざけんなだす」


 「フッ」


 「あーーームカつくだす。けちょんけちょんにしてやるだすよ」


 「ホントにやるみたいだねー。って、まっ、いっか。どうせビカムが勝つだろうしね。サキも殲滅されちゃうってことはないでしょ。はい、どうぞー。勝手にやって、勝った方が魔王と戦うのね。よーい! はじめ!」


 「うわっ。やられたー」


 「もうだめだす。降参だす」


 「ビカム早っ! って、おいおい、お前らそれ戦ってないじゃん。どっちも一瞬で倒れてるじゃん。なんなんだよ。どんな決闘だよ。先にやられたほうが勝ちって、しょーもな。真面目に相手をした神様がバカだったよ」


 「やるだすなー、勇者ビカム。仕方ないだす。魔王討伐の手柄は譲るだすよ」


 「僕のほうが早く負けたね。お前逝って来い」


 「違うだすよ。うちのほうが早かっただす……。って、なんだすかその逝って来いって、天使を昇天させようとするなんて、とんでもないバカ勇者だすね。キィーー。悔しいけど、しょうがない、シャムネコの勝ちでいいだす」


 「おい、お前。なんで、俺が出てくんだよ。ふたりで勝手にやって、いきなり人に押し付けんなよなー」


 「良いんだすよ。そんな細かいことは!」


 「細かくねーよ。神様ぁー、こいつバカなんですけど」


 「はいはい、どっちもアホね。ビカムも含めて3バカね。よーく分かったから、よーく知ってるから。へーきだよ。って、いったい、いつになったら物語が進むんだよ。どうなってんだよ。って、あっ、人がいた」


 「おんしら、どっから来て、どこへ行きなさるんじゃ」


 「うーんとね。ハーレムから来てハーレムへ行くの」


 「やっぱ、こいつバカだすなー。これじゃ神様は早死にするだすよ」


 「そうだなー。次の神様探さないとなー。プー天使なんてモテないもんな」


 「うるさいっ! バカ天使は黙ってろ。って、バカビカムはなに言ってんだよ。違います、違いますよ、おじいさん。魔王の手がかりを探してるんです。それにしても村とか町とかなくて困っていたんです」


 「お前に、じじい呼ばわりされる覚えはないぞ。わしは15歳だ」


 「そうそう、こいつ失礼なやつで。で、ハーレムはどこ?」


 「へっ!? えーーと、15歳には見えないけどなーー。物語が進まないからビカムはスルーね。じゃ、ま、そういうことで。おにいさん、この近くに町とか村とか、ないですかね?」


 『ギャハハハハ、じじいがじじいに、おにいさんって言っただすよ』


 『プフフフフッ、笑うなサキエル。聞こえたら殲滅されちゃうぞ。しぃーだ!』


 「なんか失礼な声が聞こえたようだが……。まあ、いい。で、ハーレムだな?」


 「ちゃうちゃうちゃう。それ違いますから。そうじゃなくて、村か町です。この辺の村か町の情報を知りたいんです。知っていたら教えてください」


 「それも違います。ハーレムですよ。カッコイイおにいさん」


 「ぶむ。わし、カッコイイか。そうか、そうか。うーん、ハーレムかー。おっ、そういえばこの先にハーレムがあったような……。なんでも狐耳娘の隠れ里があると前に噂になっとったなー」


 「そこ! そこ行きます! 教えてください」


 「おいおいおい。何、張り切って色欲の情報集めしてんだよ。バカビカム! 狸の次は狐とか、何ベタな展開にずっぽり嵌ってんだよ。ふざけんなよなー。まだ懲りてねーのかよ。どーすんだよ。また、罠だったら」


 「えっ! 罠? 罠? 猟師の罠はどこ? そ、そ、それはまずいコン」


 「あっーーーーーーーーー。何、今の『コン』って何? こいつまた手先かよ。そんでもって、こんな分かりやすい手先いねーよ。ビカム君だめだよ、こいつらまた何か企んでるよ。しかし、これも魔王の罠かねー?」


 「コホコホ。では、わしが案内いたしましょう。勇者殿」


 「うん! じゃ、ま、そういうことで。狐耳娘だね」


 「そういうことじゃねーよ。ハニートラップにかかり放題の勇者って、どんなやつだよ。こんなやつだよ。って、言ってる場合じゃねーよ。行っちゃうよ、どーすんだよ。バカ天使ども、なにか知恵出せよ。ほらっ、ほら!」


 「なんか生意気だすなー。このじじい」


 「そうだよなー。人に物を頼む態度じゃねーよな。これじゃー、若い者はついていかないねー」


 「あーーー分かったよ。これは神様が悪かった。ごめんなさい。天使君たち何かないかい? いい知恵があったら、貸してくれないか? じじいじゃないけどね。もう、ビカムがついて行っちゃったから、早く教えてね!」


 「ないだす」


 「ない」


 「…………、って、てめーら。たいがいにしとけよな。もう殲滅ね。ふたりまとめて処理してもらうよ。神様、特務機関とパイロット全員呼んでくるよ。いらねーよ、お前ら」


 「またまた~、冗談がわからない上司はいやだな~。付き合いにくいな~。ちゃんとあるだすよ。とっておきの秘策が」


 「ほんと、ほんと、洒落が分かる大人じゃないとダメだよなー。俺たちは天界の超エリート高、ハーレム学園・恋愛学科のスーパーエリートですよ。ほら、分かるでしょ? 最大の秘策!」


 「おーーーー。そっか! それがあったな! 神様、忘れてたよ。ギャハハハハハハハハハ。それは利きそうだなー。あのバカビカムに目にもの見せてくれるわ! クックックック。ワッハッハッハ!」


 「なんか、ここに魔王がいるだすよ」


 「ほんとだなー、こんな身近にいるとはなー。やっちまうか!?」


 「うるさいっ! バカ天使! さっさとバカビカムの後を追わないと、また、HP削られて、瀕死になっちゃうよ。遊んでないで、ほら、行くよ!」

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