第32話 新大陸

 「はぁーーー。やっと着いたねー。新大陸だよ! 新大陸。うさぎ船では、ひどい目にあったよね。でも、ここからが本番だからね。ようやくワクワクの大冒険に戻れたね。本当にここまでくるの、長かったよ」


 「あれっ! ここどこ!? バニーたちとの宴会は?」


 「だからー、新大陸って言ってるでしょ。もうハーレムは終わり。悲しいねー、寂しいねー、楽しかったねーの、さんねー寝太郎だよ。なんちって。ビカム君が三年寝太郎だから、ついつい口走って、スベっちゃったよ!」


 「じゃ、次の狸耳娘は? どこにいるの?」


 「スルーかい。まあ、いいけどさ。狸耳娘なんてのはいないからね。しかも次とか言ってるし。もうないよ! さんざんハーレムして楽しんだでしょ。ここからは勇者の冒険物語だから。じゃ、次の村への情報を集めるよ」


 「それは神様の仕事じゃん。僕、忙しいなー」


 「いやいや。何が忙しいの? なーんもしてないじゃん。君、なーんもしないでタイタニックや悪代官してただけじゃん。たまには自分でやらないとね。あっ! 丁度いいね。あのおばあさんに聞こう。ほら、行ってきて」


 「やだ! 面倒くせ!」


 「何、反抗期してんの! 何、偉そうにしてんの! 何が面倒くさいの! 違うでしょ! そのくらい自分でやりなさい。ダメだからね。もういい加減、勇者らしくしてもらわないとダメだからね」


 「あっ! それ、ビカムの子向きの仕事だね」


 「また出して来たねー。またまた出したねー。その訳が分からないの。そういうのもなしだから。もうさ、あんまり、そんなことばかり言ってると、バニーとのラキスケ晒すからね。いいのかなー? 怖いよー!」


 「きたねぇーー。ちぇっ! しょうがないなー」


 「やっと行ったねー。やっぱ晒されるのは怖いみたいだねー。キャプテン・ラビットたちは、しょーもないやつらだったけど、あの必殺技だけは勲章ものだね。って、ビカムがおばあさんから情報を集めるよ。楽しみだねー」


 「おや、このばあやに何か御用ですか?」


 「はい! これ!」


 「あれっ、なんか渡したねー。何を渡したんだろうねー。って、えーーあいつ、狸耳娘の肩叩き券を渡してるよ。バカだねー。何が、『はい! これ!』だよ。なんで、嬉しそうにそんなもん渡してるんだよ。って……」


 「おやおやおや。それはもしや、狸耳娘肩叩き券。しかも幻の山吹色! ビ、ビップ! 超ビップ待遇!」


 「えへへ」


 「お客さんも好きですなー。大きな声では言えませんが……。ここだけの話、いい娘が揃ってますよーー。もちろんビップですから、お代は必要ありません」


 「いいね、それ!」


 「それでは、勇者様、参りましょう」


 「わーい。楽しみ」


 「ち、ちょ、ちょっと待ったー! おいおい。お前らまた、何してんだ。何がビップ待遇だよ。何が『えへへ』だよ。何がいい娘が揃ってますよだよ。なんで場末の客引き登場とか、訳わかんないことになってんだよ!」


 「ちっ」


 「ちっ」


 「あーーーーー。今、おばあさん舌打ちした! そんでバカも舌打ちした! 神様はそんなの見逃さないよ。なんなのお前ら! バカはしょうがないとしても、あんた、ただのばあさんじゃないね。いったい何者なの?」


 「わ、わたしですか? わたしは、この港に住む、老い先短いばあやです。ゴホッ、ゴホッ」


 「ぜったい信じられないね。まるっきり演技だね。危険な匂いプンプンするね。ビカム君、これはまた罠だよ。罠! こんなばあさん信じちゃダメだよ。絶対にとんでもない目に合うからね。ついていっちゃダメだからね」


 「へーーー、じゃ、ま、そういことで。ちょっと行ってくるね」


 「そういうことじゃねーよ。人の話ちゃんと聞けよな。罠、罠ですよーー。なんで、こんな罠が張られているのか知らないけどさ。どこかに敵の手先がいるのかなー。見張られているのかもしれないね。これは大変だね」


 「そこの人は、何をおっしゃってるのか、ばあやには分かりませんが……」


 「うるさいっ。偽物ばあや。どこかで誰かが見張ってるねーー。早く見つけて根こそぎやっつけてやらないとね。これは一大事だよ。こんなところで、やられる訳にはいかないからね。キョロ、キョロ」


 「勇者様、この人はひどい人ですなー。こんなばあやをいじめて。しくしく」


 「あーー、神様がおばあさんを泣かせたー。ひでー」

 

 「お前らなー。なにがしくしくだよ。それ泣いてねーよ。ふたりでぐるになって、どんなお芝居してんだよ。そんなことより、敵はどこにいるんだろうね。って、ビカム君、何、手を合わせてお祈りしてんの???」


 「魔王様、魔王様! ビカムにもっと、もっとハーレムを!」


 「って、お前かーー。バカビカム! いつの間にキャプテン・ラビットのスキルを奪ったんだよ。それに、何を魔王に頼んでんだよ。とんでもねーな。ろくでなもない事を魔王に頼む勇者って、そんなの聞いたことねーよ」


 「魔王様、魔王様! 神様がうるさいです。天罰を」


 「大バカビカム! なにが神様がうるさいだよ。誰に天罰だよ。ふざけんなよな! ほんとにいいか…………、あぎゃーーーーーーーーーー」


 「魔王様! 魔王様! 神様が大人しくなりました」


 「クックックック。勇者様もやりますなー。それでは参りましょうか。狸耳娘たちのパラダイスへ。クックックック」


 「そうだね。やっと行けるね。バイバイ。神様」


 「……うーーん。あれっ! あれっ! ビカムは? ばあさんは? いないよ。あのバカ、自分で罠張って、自分で嵌りにいったよ。バカすぎるよ! どうすんだよ。これ! って、誰も聞いてないか」

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