第30話 海賊

 「はぁ、はぁ、はぁ。バカビカムのやろう! ひどい目にあったよ。あちこちサメに咬まれちゃったよ。しかも、神様の100年ぶりのモテ期までぶち壊しやがって。って、あれっ、バカ勇者と吸血姫は? どこに行ったの?」


 「あっ、あそこ。船首にいます」


 「うん? って、何、何してんの、あいつら。なんでこんなとこに大型ベッド持ち込んで。それ何? タイタニックごっご。吸血姫様、空飛んでるとか言ってんの? それ違うよ。ぶっ飛んでるのは頭のネジね。間違えないでね」


 「ビカム殿、なんかゴミ虫がうるさいんじゃが」


 「うーん、僕、もう疲れたし。寝るね」


 「そうかのー。仕方がないのー。妾もビカム殿の腕枕で寝るかのー」


 「はいはい、もういい。もう、そのまま、ふたりとも起きなくていいわ。好きにしてればいいよ。って、あれっ、あれっ、なになに、なんか来たよ。ドクロの旗、靡かせて船が来たよ。うさぎ船、ピンチかな?」


 「キャーー、来た! 来た! 海賊・狸耳団だー」


 「キャプテン! キャプテン!」


 「あちゃーー。これは……、やばいのかな? キャプテン失血して、失禁して、失神して、魔王の信頼までとことん失って、夢の中に旅立っちゃってるし。バニーたちだけじゃ対応できないね」


 「キャプテン! わーーん。キャプテンが起きないよー」


 「あーーぁ。どうしようかね。まあ、でもさ。もうさ、狸耳団なんてやつらは、名前で怖くないよね。幼稚園児たちと一緒に日本昔話でもやってればいいんだよね。勇者の大冒険を邪魔しないでほしいよね。あっ、船に乗り込んできた」


 「へっ、へっ、へっ! 上玉が揃っているじゃねーか」


 「キャーーー、浚われる。狸あっち行けー。神様助けてー」


 「あーーーうんうん。でもさーこれ続けるの? いちおうさ、親分狸はアイパッチつけているけどさ。死亡フラグが立った悪役丸出しのセリフだし。バニーたちもアホな騒ぎ方だし。いくら神様でも、これを続ける自信はないなー」


 「狸耳! なんだ、男か。じゃ、ま、そういうことで。お休みー」


 「うーん? ビカム殿? むにゃむにゃ」


 「あっ、バカが狸耳に反応したけど、まあ、そうだね。寝るよね。もうさ、狸耳団、あいつらにちょっかい出さないかなー。そしたらこんなやつら一瞬で終わりだよね。おっ、行った! いけいけー、やれやれー。どっちも滅びろー」


 「…………さーてと、バニーたちを浚って、さっさと退散するぞ!」


 「へい! 親分」


 「あれーー。なになに、ビカムと吸血姫が寝てるのを見て、狸の親分、回れ右したよ。速攻で逃げようとしているよ」


 「こっちは手を出すなよ」


 「へっ? 親分、そっちに何があるんでやんすか?」


 「大声を出すな。いいからあっちに行くぞ。そーーっとな。ここにあるのは、この世の終わりだ!」


 「おお、あいつら、バカのように見えたけど勘だけは鋭いね。鼻が利くんだね。まさか、分かるとは思わなかったよ。神様、ちょっとびっくりだよ。まあ、でも、どうでもいいけどね。狸耳団なんてね」


 「キャーー。いやいや、うさぎ浚い!」


 「うるさい! さっさと来い!」


 「親分。こっちのやつらは、いいんでやんすよね?」


 「おう。ガハハハハ。これで海賊狸に俺はなる!」


 「しょーもな。本当にしょーもな。海賊狸って、何、言ってんだろうね。もう、なってんだろ、お前は! 物語の様式美を考えろ。言うなら海賊王だろ。あーーぁ、もうダメだね。これは、お遊戯以下の展開だよね」


 「神様ぁー。助けてーーー」


 「はいはい。分かったよ。こら! アイパッチの狸ども。さっさとどっか行け! 邪魔だお前ら。って、あれ、船首のほうで狸耳団のやつらが、なんか騒いでいるね。何だろうね。行ってみようね。って、まさか…………」


 「おい、あれはなんだ。空を見ろ! 鳥だ!」


 「ドランゴだ!」


 「犬耳姫だーー!」


 「って、ドカーン! って、あーぁ。すやすや寝てた吸血姫様、吹っ飛んでいっちゃったよ。大丈夫かなー、サメまだいるけど。まあ、嫌な予感はしてたんだけどさー。やっぱり来たねー。登場が遅いくらいだよね」


 「はぁ、はぁ、はぁ。ようやく見つけたわ。ババアめ! 抜け駆けすんなって、ゆうたやろ。何度ゆうたら分かるんや!」


 「貴様ーーー! わんころのくせに……! また、邪魔しにきおったのか。おんしも暇じゃのう。クックックック」


 「おっ、吸血姫様、さすが。すぐに戻ってきたけど、まーたやってるねー。狸耳団の親分はドラゴンを見て立ち尽くして、なんか震えてるよ。バニーたちも腰抜かしてるし。またまた、凄いシーンになっちゃったねー」


 「やかましいわ、ボケ! うちは姫様からの勅命で働いている騎士さんなんや。あんたみたいなノラ吸血鬼とは、格が違うんよ。よう覚えとくんやな」


 「何を言うておるのかのー。妾は、英雄のほこらを守る姫様じゃ。おんしよりも、遥かに格上じゃ。さっさと妾の足の裏でもペロペロするんじゃな。クックックックッ」


 「ギャハハハ。ババアのくせに、姫様とか笑かしよるなー。あんたは、いいとこ、『しめ鯖』やろ! そんでもって、それでも、もったいないお化けが出るわ。ギャハハハハハハ」


 「うーん。ウサ耳姫さまー、まだ眠いよー」


 「あーー。これはダメだね。カオスモードに突入したね。こうなったら、バカだけど、ビカムを起してこないとダメだね。ビカム君、起きて、朝だよー。本当は朝じゃないけど、犬耳姫が来ちゃったよー。嬉しいでしょーー」


 「えっ! 犬耳姫! どこ、どこ!?」


 「起きたねー。速攻で起きたねー。やっぱり犬耳姫は偉大だねー。ほら、またふたりで、いつものやってるから、さっさと、なんとかして。あと目障りな海賊狸もおっぱらうからね。ほら、行くよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る