第25話 港町

 「港に来たねー! なーんか知らないけどお姫様を救うだけで大変な目にあったよねー。もう二度と帰ってきたくないね、この国は。次だよね。海だよね。ワクワクの大冒険だよね。どう? どう? 大海原に出発だよ」


 「お船だー。ウサ耳船長いるかな?」


 「そうだねー。船だね。これから冒険だね。ワクワクだよねー。でも、ちょーっと違うかな。ウサ耳の船長はいないなー。残念だけど、それはないなー。船長さんは、海の男だから。もっとイカツイ海の男だからね」


 「ラビットキャプテン」


 「だから、何それ? 何を言ってんの? 船長はね、アイパッチしてたりフック型のかぎ爪してたりね。そういう人だから。ラビットキャプテンはいないからね。そんなの出さないよ。もう、いいでしょ。バニーは吸血姫だけで十分だね」


 「キャプテンラビット」


 「バカだねー。もう、バカすぎるね。本当にバカすぎるね。やっぱりミジンコだったねー。ほら、船員さんが来たから、って、ち、ちょっと。なんでバニーガール? 何してんの、それ? 嫌だよ。ハーレム船とか、やめてよね」


 「勇者様、キャプテン・ラビットのうさぎ船にようこそ」


 「おいおいおい。なに、とんでも船を出してきてんの? それ違うでしょ。ねぇ、ねぇ。あんたもバカなの? いい加減にしてくんないかなー。ちゃんと生き方を考えようね。ウサギは海にいないから、野山を駆け回っててくんないかなー」


 「やっぱ、いたねー。神様の負けだね」


 「いやいや、勝ちとか負けとかじゃなくてさー。うさぎ船って弱そうだよ。すぐ沈みそうだよ。ダメだよね。そんなおもちゃの船みたいな名前のやつには乗れないよねー。ねっ。それくらいは分かるよね。違う船を探そうね」


 「負けたから悔しいんだー。神様って、小っさ」


 「なーんか誤解しているね。そういうことじゃないんだけどなー。ぜんぜん違うよねー。うーん、とにかくダメ。うさぎさんの船には乗りません、乗れません、それでは大海原は乗り切れません。以上! 反論は許しません」


 「えいっ! えいっ!」


 「おいおい。今度は何をしだしたの? それ何? 何のつもりですかー! って、えーーーー。何、何、港にいる男の人が、みんな凍ってるよ。ブリザードドラゴンでも呼んだの? こらこら、とりあえずやめようね、危険だからさ!」


 「えいっ! えいっ!」


 「まーだやってるよ。って、どんどん凍ってる人が増えてるよ。あちゃーー。それスキル『男はいらね』かー。それかー。あたたたた。これはまいったね。って、封印の村もお前の仕業かー。とんでもない真犯人がいたよ」


 「これで、うさぎ船だね」


 「お前なーー、ふざけんなよな。アイパッチの船長さん凍ってるよ。どうすんの? 船の選択肢をうさぎ船しかなくすって、無茶苦茶なことをしてくれるね。それに凍った人たちはどうすんの? ねぇ、ねぇ、君、傷害罪で逮捕だね」


 「おおお、ラビットミニスカポリス」


 「もう、それ突っ込めない。無理。……とりあえず、スキル『男はいらね』の効果を確認するよ。なになに『ちょっと凍るだけだからへーきへーき。なんともないから、すぐ戻るから』って、このマニュアルもふざけてんのかーー」


 「わーい、うさぎ船だ」


 「本当に君は、どこまでも、どこまでも、とんでもないね。って、今までひとつも成長してなかったってこと? ちょっと、ついでにレベルを見てみるよ。って、えーーーー、MAX+MAX+48、って、なに、なに。これなんなの?」


 「神様の愚かさをよそに、日に日に成長していくビカムであった」


 「おいおいおい。なに小説風に語ってくれちゃってるの? それセリフじゃねーよ。しかも神様を愚かとか平気で言ってくれちゃってるし! うさぎ船で、わーいとか言って喜んでいるやつは、成長してねーよ。衰退だよ、幼児化だよ」


 「そろそろ、行くよー。みんなー、うさぎ船に集まれーー」


 「はーい! はーい! 行きまーす」


 「ねぇ、ねぇ。こんな船に乗っていいのかな? これ勇者の大冒険じゃないよね? どーーー考えても違うよね。でも、もう神様、疲れたよ。これ以上は抵抗できないね。みんな、ごめんなさいだよ」


 「神様、置いていっちゃうよー」


 「はいはい、行きますよ。行けばいいんでしょ。なんか、ビカム君が元気に神様を呼ぶなんてさー、はーーぁだよ。でも、神様もお仕事だから、本当は嫌だけど頑張るよ。じゃ、ま、そういうことで。ほら、行くよ!」

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