第15話 お姫様
「はぁーーー。やっとここまで来たねー。地下牢にお姫様がいるよ。きれいな人だねー。やっぱり、別嬪さんだねー。くるくる縦ロールの金髪のお姫様って、凄いねー。さあ、鍵開けて、助けようね」
「どけっ! バキッ」
「痛ってててててててて。何、蹴ってんの! レベルマックス超えてる蹴りって痛いんだから、って、そうじゃない! 何、神様を蹴ってんだ、このバカ新居浜! まったく、腹立つねー。いい場面のひとり占め狙いだね。これは!」
「姫様。勇者ビカムが、来たからには、もう安心してください」
「ポワン♡ なっ! そ、そんなこと言ったって、わ、わたくしは気を許しませんわよ」
「あーーーぁ。神様に蹴りを入れてまで、まーた、はじめたねー。やっぱりだねー。予想通りだねー。もう慣れたからいいけどね。でも、お姫様の態度が少しおかしいね?」
「いえいえ、そのようなことは。私は、通りすがりのしがない勇者」
「ポワン♡ あ、あ、あんたみたいな庶民は、わたくしとは、つりあわないんだからね」
「ええ、もちろんでございます。さ、姫、お手を」
「ポワン♡ き、汚い手で、王族のわたくしに触ろうだなんて。なんて破廉恥な」
「なんか、つまんねぇー。ダメだなこりゃ」
「なーに言ってんのかなー。何がダメなのか神様には分からないけど。そうじゃないからね。それにお姫様がポワン、ポワンしてて、気が気でなかったんだけど。これ、あれでしょ。あれ、あれ、分かってるよね?」
「ゴンドラ?」
「そそそ、運河とかで、使われている小さい船ね、って、ちゃうちゃう、ちゃうちゃう、ちゃうちゃう犬だよ。なーんちって。違うからね。それね、どっかおかしいから。違うよ。それは、ツンドラのもじりになってるから」
「寒いね」
「そうだねー、寒いねー、って、話しがどんどんおかしな方へ行っちゃうよ。もう、その話はなし、なし、なしね。いいね。忘れようね」
「ち、ちょっと、あなたたち。わたくしを無視しないでくれますか!? 早く準備しなさい。お父様に挙式の相談に行きますわよ」
「えーーーーーーーー。誰、誰、だれー。誰が誰と結婚するの? 神様、初耳だよ、猫耳だよ、犬耳だよ。なんちゃって、とか言うしかないよ。それって、やっぱりポワン3連発のせい? それにしても、お姫様、あんた、なに言ってんの?」
「はーい。はーい」
「って、ビカム君はビカム君で、何、元気に手を上げているの? 挙式だよ。挙手じゃないよ。分かっててやってんのかなー。この顔は絶対分かってないね。あ、タクシーでも呼ぼうとしてるんでしょ。うんうん、それだね。その顔だ」
「あ、ばれちゃった」
「ばれちゃった、じゃないんだけどなー。まーた、収拾つかなくなっちゃうよ。これ、どうするの? 神様、訳が分からなくなって、頭が痛くなっちゃったよ」
「ほ、ほんとに怒りますわよ。無視ばかりして! それで、子どもは何人がいいかしらね。あ・な・た♡」
「あちゃーーーーー。どんどん最悪な方へ行ってるよ。もうお姫様の頭のなかは、結婚したも同然になってるよ。ビカム君はタクシー呼んでたみたいだし。もう、誰か変わってください! 神様、こんなの無理」
「ビカムの子いるよ」
「えっ! 結婚してるんですの?? なら、その女ここに呼んでください! すぐに別れさせますわ」
「おーい、おーい、ハチャメチャが加速してるぞーー。とんでもないところに行ってるぞーーー。ダメだね。このお姫様とビカム君で話しをさせては、ダメってことが分かったよ。こうなったら仕方ないね。この前も使ったけど、これしかないね。やるしかないね。それでも、お姫様は、どうにもならないけどビカム君だけでも寝てもらおうね」
「ぐぅーぐぅーぐぅー」
「すーすーすー あ・な・た?」
「え、え、え。何、何。ビカム君は当然だけど、なんでお姫様が、寝言いいながら寝てるの? なんなのこの人たち……。似たもの同士なの? お似合いの夫婦なの、って、そんな訳ないよね。どうしよう? まあ、ビカム君を起こそうね」
「ビカム君、起きて、朝だよー。本当は朝じゃないけど、お姫様は、お休み中だよー、寝言で君を呼んでるよー」
「あっ、もう着いたの?」
「それって、どこに着いたのかなー。神様、タクシーの運転手じゃないからね。違うからね。早く起きてね。お姫様は寝てるから、このまま一緒に、いったん、お城に戻るよ。君が背負っていくんだよ。いーい!」
「なんだ、着いてないじゃん。じゃ、ま、そういうことで。お休みなさい」
「だからー、そうじゃないって。今回、神様、疲れすぎて、もう突っ込む気力もないんだから。そういうのは、やめようね。ほら、行くよ!」
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