備考その6 雑な心配
品出しを終えると彼女は大きく伸びをした。彼女は主に上の方の品出しをしていた。要するに、僕は下の方の品出しを任されていた。というよりかは押し付けられたのだ。品出しなどやったこともないが、彼女が並べ方など色々教えてくれたおかげで困ることはなかったが伸びもできないほど腰が痛かった。運動不足と体の硬さを思い知らされた。
「いやぁ、疲れましたね」
彼女はニコニコしながら話しかけてきた。いいご身分だことだ。
僕と彼女はコンビニ店員用の控え室に向かった。彼女はメガネの子に軽く耳打ちするとメガネの子は了解ですと小声で応答した。
「取り敢えずメガネの子にレジはお願いしときました。今日は平日なんでお客さんも少ないと思いますし」
僕が平日休日関係なくこのコンビニに通っていたことを、彼女は忘れているようだ。
「えーと、自己紹介しましたっけ?」
「いえ……」
「んーと、私は葉山英里。多分仁志君より年下だけど、仁志君より先輩だからね」
英里は誇らしげな笑みを浮かべた。
控え室に着くと彼女はストンと椅子に座った。
「疲れたー」
品出ししかしてないくせに……。
「さて、何から話しましょうか」
「えーと……」
聞かれると何も思いつかない。
「まああの人がどこまで説明するかわからないから全部説明するね」
おっさんが信用されてないことはよくわかった。
彼女の説明はおっさんの説明とそれほど変わらなかった。新しく知ったことといえば、僕はアルバイトではなく正社員となっていることと、9ヶ月のフリーな期間の勤務体制くらいだった。まず、僕が正社員ということについては英里にもよくわからないらしい。他の職に就くあてもないのでこれは忘れることにした。
9ヶ月のフリーな期間については、前に説明された通り、色々な職になって働くもよし、監視で稼いだ金で夢を追うのもよし、ダラダラ過ごしたりするのもよしと、本当に何をしてもいいらしい。ただし、監視人になった時は監視補佐を誰かに頼まねばならないらしい。基本的に監視補佐は2人体制で、1人は僕でいうあの弁当のおじさんで僕に直接関わってくる監視補佐。そしてもう1人はその監視補佐、弁当のおじさんが風呂や食事の時に代わるらしい。こちらは監視人と関わることがあまりないため、基本的に事務員がやってくれるらしい。これほどまで監視人に付きっ切りなのにも理由があり、監視補佐が目を離した際に監視人が監視対象に暴行した場合や逆の場合などに即座に対応するためだという。大抵は監視人と仲のいい人が監視補佐に回るのだが、監視補佐が固定になる特例があるらしい。ただ、それも英里は知らないらしい。
ここまでダラダラと説明をしてくれたのはいいが、僕はこれを半分も理解してない気がする。彼女も僕が理解していないことを薄々気付いているようだ。
「まあ習うより慣れよ、ですよ」
確かにその通りだ。色々考えるよりいつも通り、周りに流された方が僕も動きやすいかもしれない。
「あとさあとさ」
彼女はニコニコしながら話しかけてきた。
「あのおっさん……じゃなくて昌平……先輩?んーと、上司なんだけど、どんな階級か知らないな……。まあそんなのは置いといて、あのおっ……あぁーーーもう!おっさんでいいや!あのおっさんどう思ってる?」
随分と1人で盛り上がったな。
「どうって……」
「ほら、適当とか!他人に無関心とか!無性にムカつくとか!」
この人からこんな言葉が出るとは思わなかった。だが英里の言ったことは全て同意出来る。彼女の盛り上がりに乗じれば、英里……先輩?違和感だらけだ。
「まあ確かにそんな感じですね」
「やっぱり」
彼女は再び誇らしげな笑みを浮かべた。
「でもあの人意外と優しいし、心配性なんだよ」
聞いてないし興味もない。
「まあ仁志君も、あのおっさんに人間的に惚れるよ、いつか」
僕が生きているうちにその日が来ればいいが。
「あくまで人としてだけど」
彼女は真顔で呟いた。
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