Report.4

僕らは電車の地獄を再び味わって東京に帰ってきた。田舎のようにのんびりした雰囲気も好きだが東京の忙しい街に流されるのも悪くないと思った。遼太郎の住むアパートに戻ると遼太郎は着替えてきますと言ってすぐに隣の部屋に行ってしまった。男同士だがそこまで監視する必要もないと思い僕はその場に座り込んだ。もはや友達の家に来たような感覚だった。

しばらくして遼太郎はラフな格好になって部屋から出てきた。そしてそのまま洗面台の方へ向かった。少し間が空いてウィーンという機械音が聞こえてきた。みすぼらしく見える原因にだった無精髭を剃っているのだろう。そんなことを考えているといつのまにか隣におじさんが立っていた。話を聞くと、余った出張費を取りに来たのだそうだ。事前におっさんに帰ることを伝えておいたがここまで早く徴収するのか。とはいえ今回使ったのは交通費のみなので給料からは引かれないはずだ。おじさんはお金を受け取るとさっさと出て行った。


遼太郎は僕の元に戻ってきた時、僕は昨日のレポートを書いていた。だが僕は遼太郎を見た瞬間、手に持っていたシャーペンを落とすほど驚愕した。




イケメン。




ただ、ここまでとは思っていなかった。

顔立ちはやはり整っているし、遼太郎が猫背のせいであまり気にしてなかったがかなり身長も高い。このまま二次元に放り込んでもいいんじゃないかと思うほどだった。

呆然とした僕を遼太郎は気遣ってくれた。どうして遼太郎に彼女が出来ないのだろう。遼太郎に出来なかったら僕になんかできるはずもない。

あ、遼太郎は自殺未遂をする前はいたんだったっけ。憎らしいが、紳士的なために憎めない。憎々しいほどいい奴である。うん、人として大好きだよ。


もう日が傾き始めた頃だったがハローワークに向かうことにした。足が棒になりそうなので明日にしてほしいがそんなことは言えなかった。彼はとても真剣に仕事を探そうとしていたので邪魔しては悪いと思った。


遼太郎はインターネットで近くのハローワークの住所を調べ、そこへ向かった。遼太郎は例え辛くても2人の為と思えば頑張れる気がすると言っていた。


遼太郎の事を舐めていたのかもしれない。僕は仕事を探すのには時間がかかると思っていた。遼太郎は一度就職して、やめてしまっている。バイトなら出来るだろうが正社員になるのはかなり遠い道になるだろう。そう思っていた。





ハローワークへ向かっている途中のことだった。

「ちょっと君!!!」

スーツ姿の男に呼び止められた。僕が見えてるわけもないので間違いなく遼太郎に呼びかけている。漫画をジャンル問わず読んでいた僕は考え方が根本的に腐っていたのか、僕が知らないだけでこういうホモのナンパかと思った。





僕にはホモの気持ちを知ることは出来ない。だが、それは恋であることに間違いはない。人は恋をして、それを愛に変えて生きていくものだ。なので同性愛者だからと言って軽蔑することはない。寧ろ性別の壁を越えてまで愛し合う彼らに敬意すら感じる。




何度も言うが僕が好きなのは女の子だ。




言うまでもなくそんな事ではない。

「君、どこか事務所に所属してる?」

勝手に想像してた内容は吹っ飛んでいった。僕には何の話かさっぱりだった。遼太郎はきっと理解していると思い顔を覗き込んでみると遼太郎はキョトンとした顔のままピクリとも動かなかった。わざとやってるのかと思うほど動かなかった。

「ごめん!説明足りなかったね!俺はこういうもので〜〜〜〜……。あれ?名刺がないな……」

この時点で僕の中でのこの男の印象はどん底に近い。僕は社会に出てはいないが礼儀くらいはわきまえてるつもりだ。名刺はいつでもスマートに出せないと意味がないと思う。


社会に出ていない時点で僕が偉そうに言える事でもない。

「あったあった!はい、どうぞ」

名刺はかなりシンプルなものだった。男の名前に興味などないが事務所と言うからにはモデルか何かだろうか。

そこには誰でも一度は聞いたことがあるような、とても有名な芸能事務所の名前が書かれていた。ぼくは心の中で大いに疑った。

「君、どこにも所属してないならうち来ない?俳優はすぐには無理だろうけどモデルなら君ならすぐ採用されると思うよ!」

獲物を逃すまいと言葉一つ一つに熱を込めていた。暑苦しいこと極まりない。

これが噂のスカウトか。ドラマやらその辺の話かと思っていた。真偽はともかく、まさか目の前で見られるとは感動である。いささか遼太郎が羨ましい。その遼太郎はちゃんと話しを聞いていたのか心配になるくらいにポカーンとしていた。

「ダメかな?」

ここで遼太郎はようやく意識を取り戻したようだ。

「是非やらせてください!!」

と叫んだ。周りの通行人から一気に注目を浴びた。遼太郎は気付いてないのか、それとも無視しているのか知らんぷりでその男を見つめていた。気付いているのなら視線をよく浴びる俳優やモデルにも合ってるんじゃないかと思う。

「よーし、んじゃまず事務所行こっか」

ん?このパターンどこかで見たぞ……。



そうだ、おっさんと会った時だ。おっさんは比べ物にならないくらい強引だったが。僕は半信半疑ながらも2人についていった。途中、遼太郎がこっちに向かって振り返り、満面の笑みで小さくガッツポーズした。




しばらく歩くと男の言っていた事務所が見えてきた。僕の予想は外れた。ホモだという予想ではなく、本当は大手事務所ではない、という予想の方だ。ちゃんと事務所の名前が書かれている。監視対象とは言えこんなに近くにスカウトされる人がいるとは思ってもいなかった。



中はとてもお洒落な空間だった。おっさんの事務所は見渡す限りファイルなので比べ物にならない。見てて飽きない空間だった。外装も内装も完全に負けているおっさんの事務所だが立地条件は圧倒的におっさんの事務所が上だった。この事務所から最寄り駅まで歩いたら何分かかることか……。立地条件やら時給やら、いつの間にか僕はいやらしいことばかり考えるようになっていた。やはり安い人間である。

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