第6話 1日目終了

 部屋は六畳ほどの広さだろうか。

 通りに面する様に出窓があり、そこから村の中心の広場が見える。

 窓の側に固い寝心地の悪そうなベッドが配置され、その隣には腰程の高さの飾り気のない小さなタンスが備え付けられていた。

 そして、そのタンスの上にこれまた小さなランタンがあり、その下に一枚の紙が挟まれているのを見つける。


 確認すると、[宿屋の機能説明]らしい。どれどれ。

[自分が取った部屋にいる限り、HP及びMPが回復する]

[拠点レベルが高くなれば回復量上昇]

[現段階である村レベル1だと1時間あたりHP:50、MP:5回復]

[ベッド上では睡眠コマンドが選択出来、指定した時間迄意識を飛ばす事が可能]

との事だ。


 ――ポン。

 見終わるとほぼ同時に左腕の装置から音が聞こえた。柳さんからの通信だ。

 許可ボタンを選ぶと、目の前にSound onlyと表示された画面が出現。


『立花殿、少しお時間よろしいですかな?』

 柳さんの声が明瞭に聞こえてくる。通信による音声の劣化とかはないようだ。


「どうしました?」


『宿屋の機能によりますと、午後五時まで休めばお互いほぼ回復が完了しましょう。その後、またモンスターを倒しに行きませぬか? 初日の内に出来る限り力をつけておきたいのですが』


「確かに早めに強くなっておけば、色々と楽になるのは確実です。ではまた五時にお会いしましょう」


『聞き入れていただき有難う御座います。それではこれで一旦失礼させていただきます』


 通信が切れ再び部屋が静寂に包まれる。


 ベッドに横になり休もうとするが、これからの事を考えると寝付ける筈も無く……。


 ……少なくとも今のところは上手く行っているとは思う。

 柳さんも仲間に誘えたし、あの人柄では俺が裏切らない限り襲ってはこないだろう。勿論、俺としてもこんな弱っちいステータスで、パッシブ持ちを敵に回す程バカじゃない。

 むしろ、姉さんと合流する為にはあの人の戦力は必須だと思う。村から出るまでとはいわず、そこから先も組める様に、今の信用を損ねない様にしないとな。






「立花殿、起きておられますか?」

 控えめにドアを叩く音と共に声が聞こえてくる。慌てて時間を確認すると、既に約束の午後五時を指している。あれこれ考えて込んでいる間に時間になっていたらしい。


「すいません。待たせてしまって」


「お気になさらず。さて、どこに行きましょうか?」


「昼間行った森林にしますか。あそこは周囲の草原地帯よりモンスターが多くいたので、経験値稼ぎに良いですし」


「承知致しました」


そうして、俺達は再び森林地帯へ歩みを進めた。






「ゴブッ!」「ゴ…ブ」「…キ、キ…」


「うーん、楽勝楽勝!」

 今回は、ゴブリンの釣りにわざとかかり数を増やした所を狩っていく。……主に柳さんの手によって。

俺も倒しはするが、柳さんと比べると倍近く数の差があった。


その後も森林入口付近のモンスターを屠り続け、はや数十分が経過。

結果、付近にモンスターの影はなくなった。まぁ、結局直ぐにリスポーンするのだろうが。




[経験値を100獲得]

[104G獲得]

[レベルが4に上がりました]

[レベルが5に上がりました]

[レベルが6に上がりました]

[HP:+3MP:+3攻撃:+3防御:+3魔攻:+3魔防:+3器用:+3敏捷:+3運:+0]

[能力Pを30獲得]

[スキルPを9獲得]

[ファイアを取得可能になりました]

[アイスを取得可能になりました]

[サンダーを取得可能になりました]

[ウィンドを取得可能になりました]

[アースを取得可能になりました]


計算すると、俺が倒した数より少しだけ多く経験値が貰えた。やはり、取得出来る経験値やGはPTを組むと均等に分けられると見ていいだろう。



さて、モンスターがいない今の内にP振り分けとスキル説明でも見とくか。



【立花 操人】

【一般人】lv.6/10

経験値:135/168

所持G: 109

─────

HP: 133/350

MP: 5/60

攻撃:20【内装備品+2】

防御:30【+4】

魔攻:10

魔防:15

器用:18

敏捷:21

運:3

─────


─────

【ファイア】

[アクティブ:魔攻]

[対象に火の玉をぶつける【威力:極小】]

消費MP:3

必要スキルP:1

【アイス】

[アクティブ:魔攻]

[対象に氷の塊をぶつける【威力:極小】]

消費MP:3

必要スキルP:1

【サンダー】

[アクティブ:魔攻]

[指定した場所に小さな雷を落とす【威力:極小】]

消費MP:3

必要スキルP:1

【ウィンド】

[アクティブ:魔攻]

[対象に風の塊をぶつける【威力:極小】]

消費MP:3

必要スキルP:1

─────

残りスキルP:13


うーん、なんかバランス取れてるというよりは、器用貧乏感がする。

それも結局は一般人の間だけなんだが。

1次職になれば嫌でも特徴出てくるしな。

今回の魔攻スキル取得は、魔法系統には行かないし1種類覚えれば良いだろう。アースは被るからそれ以外にするとして。…帰ってから選ぶか。



陽が沈みつつある中、なんとか閉門時間までに村へ戻る事が出来た。



─────

17:52

群馬県:太田村 411


帰還後、柳さんが装置を確認した途端、表情が強張る。好奇心から何かあったのか聞いてみると、


「私が最初に確認した時、この拠点には500近くの人がおりました。…が、今はそれも400近くまで減っております。他の拠点に移動しただけの人もおりましょうが、恐らく大部分は……」

やられた。つまり現実でも死んでしまった。そう言いたいのだろう。初日で勝手が分からない人も多い状態だったろうが、少し数が多すぎる。


「そんなに犠牲者が…、彼等の様にならない為にも、こらからも気を抜かずにやっていかなければなりませんね」

「左様ですな。…さて、私は宿に戻りますが、立花殿は如何なされます?」

「俺はちょっと武器屋と道具屋を見に行ってきます」

「では、明日は午前5時前に西門にて合流でよろしいですかな?」

「はい。今日はお疲れ様でした」


門付近で別れまずは武器屋へ赴く。





…この品揃えは酷いな。

いざ見てみると、武器と盾は最初の木シリーズ、衣服も布シリーズしか並んでいなかった。

店主に事情を聞くと、素材を持ってこない限り村ではこの品揃えが限界との事だ。また素材は

モンスターを倒した際に取得出来る物と、フィールド上で採取出来る物の2種類あり、その両方にある数値が関係しているらしい。後者にいたってはその数値を上げない限り取得する事すら不可能の様だ。



ある数値って多分、運の事だよな。次のレベルアップで5…いや念のため10まで上げてみるか。

装備解放もだが、早めに採取物による金策もしておきたい。




道具屋は武器屋と比べ、多少は使えるアイテムが陳列されている。

品揃えとしてはHP回復と状態異常回復が大半を占め、テントと馬というゲームだった頃には無かった物が追加されている。

また、MP回復は残念ながら置いていなかった。

時間が余っている今の内にその効果を確認しておこう。


─────

【テント】

レア度D

消耗品

[夜間のフィールドで使用可能。テント内にいる間はモンスターに攻撃されない。ただし、内部の灯りを点けている間は他のプレイヤーに視認されやすくなる。1時間当たりHP:50MP:5回復。収容可能人数:4人]

─────

【馬】

レア度C

乗り物

[最大時速20kmで走行可能。日に40kmまで可能。搭乗可能人数:2人]

─────


追加されたこの2つは必須だといってもいいだろう。値段は…、テントが100G馬が500G。

回復アイテムで一番高いのでも50Gもいかないのを考えると、流石に高価だ。

とはいえ、村を出る迄には何としても手に入れておきたい。



「閉門!」「へいもーん!」

道具屋を出て不意に聞こえてきた声の方を見ると、門番が門を閉めている所だった。


同時に空は一気に暗くなり、満天の星空が展開している。

また、建造物以外の人工光源は、門内側の両脇や城壁擬きの側、中央の時計近くに篝火が焚かれる程度であった。


一気に村の雰囲気が変わったな。特に空は昼間は見えなかったのに月?らしき物が3つも出てきてるし。山の頂上から見たら、さぞ絶景であろう。

…このまま帰るのもなんだし、少し散歩でもするか。



散策していると時計の側で、昼間の大人数PTの人達を発見。

側を歩きながら聞き耳を立ててみると、


「今日は犠牲者も無く、全員レベル3に到達。回復スキルも取得したし、明日はもっとレベル上げ出来そうですな」

「このまま順調に行けば今週中に1次職へなれそうだね」



犠牲者無しは凄いが、やはりレベルはそんなに上がってないか。今の体制を続けるなら必要経験値が増えていくし、日が経つ程レベル上げは鈍化しそうだ。


その後も適当に歩いていたが、ぱらぱらとプレイヤーがいた程度で、これといった収穫は無かった。


そろそろ宿に戻ろうかという時、西門付近から声が聞こえた。


「誰か…誰か門を開けてくれ!」

近くに行くと、ドンドンと外側から門を叩く音と男の悲鳴に近い叫びがする。


門番に開ける様に言うが、まるで反応を示さない。慌てて周囲に開門装置がないか探したが、残念ながらそれは無かった。ならばと、手動で開けようとするが、当然ながら門はぴくりとも動かない。


「誰かいるのか!?誰でもいいから奴が来る前に早く門をあぺ」

グチャ


何かが潰れる様な音が聞こえ、それ以降男の声は途切れた。


ズル…ズル…


外からは何かを引きずる様な音がする。恐らくは、プレイヤーを倒したモンスターの物だとは思うが。…だが、昼間はそんなモンスターは居なかった。偶々遭遇しなかっただけなのか、それとも夜はまた別のモンスターが出現するとでもいうのか。もしそうだとしたらレベルが無い今、夜間の外出は命取りだ。



助けられなかったのは後味が悪いが、明日に備え宿に戻って寝よう。……その前にスキルも決めないとだったな。


足取り重く部屋に帰り、ベッドに腰掛ける。


気を取りなおして、どのスキルを取得しよう?

相手の行動阻害と俺自身への行動補助両方出来そうなのは…。


風…かな。相手を吹っ飛ばせそうだし、俺自身に当てる事で距離稼ぎにも使えそうだ。雷に麻痺効果あれば、雷を取っていたんだが。


[ウィンドを取得しました]


よし。

そういえば、武器登録をしていなかったな。だが、残念ながらこのクラスで装備出来る種類は、1次職以降使わないんだよなぁ。短剣あったら話は別だったのだが。なので、これはまだ良いだろう。



…しかし、1日動き回っていたが全く腹は空かんし喉も渇かない。排泄行為もせずに済むってのは楽だが凄い違和感がある。その内慣れると良いが。


さて、明日はレベル10にして1次職になれる様に稼がないとな。

起床時間を4:50に設定。


そのまま睡眠コマンドを選択し、1日目を終えた。



【立花 操人】

【一般人】lv.6/10

経験値:135/168

所持G: 109

─────

HP: 133/350

MP: 5/60

攻撃:20【内装備品+2】

防御:30【+4】

魔攻:10

魔防:15

器用:18

敏捷:21

運:3

─────

スキル

[アクティブ]

─────

【アナライズ】【ヒール】【ウィンド】

─────

[パッシブ]

─────

─────

残りスキルP:12

装備

─────

頭:装備なし

右手:木の剣[攻撃力+2]

左手:木の盾[防御力+1]

腕:装備なし

上半身:布の服[防御力+1]

下半身:布のズボン[防御力+1]

足:靴[防御力+1]

装飾品:装備なし

─────


【柳 十三】

【一般人】lv.7/10

経験値:182/247

所持G: 165

─────

HP:111/300

MP:7/50

攻撃:50【内装備品+2】

防御:20【+3】

魔攻:7

魔防:7

器用:24

敏捷:32

運:1

─────


スキル

[アクティブ]

─────

【アナライズ】【ヒール】【アース】

─────

[パッシブ]

─────

【刀の達人】【両手持ち:A】【カウンター:C】【受け流し:C】

─────

残りスキルP:15

装備

─────

頭:装備なし

右手:木の剣[攻撃力+2]

左手:装備なし

腕:装備なし

上半身:布の服[防御力+1]

下半身:布のズボン[防御力+1]

足:靴[防御力+1]

装飾品:装備なし

─────

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