第4話 初戦闘

 なんでゴブリンが剣と盾持ってんだ? 元々、装備していたのか?

 ――いや、ゲームだと最初は素手のはずだし、HPゲージが既に約半分、さっきの鼻歌と何かを拾う動作。


 考えたくはないが、他のプレイヤーの装備品を使っている可能性が高いか。

 となれば、元の持ち主はこいつにやられたと思った方がいいだろう。

 


 やられるの早くない? 相手がゴブリンだからって油断でもしたのか? 

 ……それとも複数に襲われたか。それだと面倒だな。

 今のステータスだと囲まれたらまず勝てないし。


「キキッ…キキッ…」


 こっちの存在はもう知っているだろうに、逃げるでも襲ってくるでもなく、奴はその場で佇み、まるで新しい獲物でも見つけたかのような不敵な笑みを浮かべていた。


 …? 何もして来ないのは意外だな。てっきり攻撃か逃げると思ったのに。当然、それに対応出来る様に意識は割いていたが。


 それにしても随分薄気味悪い笑い方だ。体力も既に半分しかないのに、襲っても来ず逃げもしないとか明らかに罠の気配がするし。

 あからさま過ぎてあれだが、ここは奴の誘いに乗ったフリをし、襲ってくるであろう伏兵を叩く。既にヤツの仲間が近くにいると考えたら今から逃げれる可能性もさほど高くないだろうし、それが一番勝算があるか。


 肝心の伏兵は、……奴との間に生えてるゴブリンが簡単に隠れれそうな幹の太い木の裏と、そこから少し離れた茂み辺りが怪しい。



 初めての戦闘だってのに、不思議と落ち着いて考える事が出来た気がする。

 ――さて、では油断せずに仕掛けてみるか。


 一つ大きく息を吐いてから剣を構え、じりじりとゴブリンとの距離を縮める。

 ゴブリンは未だに不気味に笑いながら、俺との距離を保ちつつ後ずさりしていく。

 そして、木の直ぐ側まで来ると大きく踏み込み、目の前のゴブリンをフルスイングするように見せ掛け、その勢いのまま一気に伏兵がいると睨んだ木の方へ身を翻した。


「ゴブー!」

「やっぱりな!」



 俺の方へ飛び掛かって来るゴブリンに対し思いっきり振った剣が腹にめり込み、もう一匹とは逆方向に吹っ飛ばす事に成功。

 呆気に取られ釣ろうとした奴には目もくれず、あっという間に瀕死になり這いつくばっているゴブリンに一気に詰め寄り、その胴体目掛け剣を降り下ろす。

 元々あまりHPがないのと、俺の攻撃がカウンター気味に入ったせいなのか、一気にゴブリンのHPゲージを0にさせる事ができた。


「ゴ、ゴ……ブ……」


 短く声を発した後、ゴブリンの体は光に包まれ霧散した。


 よし!

 だがもう一匹いる以上まだ油断は出来ない。

 素早く向き直り体勢を整えるが。


「ゴーーブーー」


 仲間がやられた事で動揺でもしたのか、一転すっとんきょうな声をあげながら既に逃走していた。


[経験値を10獲得]

[10G獲得]

[レベルが2に上がりました]

HP: +10

MP+5

攻撃:+1

防御:+1

魔攻:+1

魔防:+1

器用:+1

敏捷:+1

運:+0

[ステータスPを10獲得]

[スキルPを3獲得]

[アナライズを取得可能になりました]


 おいおい仲間を見捨て自分はトンズラか。ゴブリンらしいっちゃらしいが。

 だがまぁ、そんな鈍足じゃ逃がす方が難しいぞ。


 ステータスPも振らず、勢いそのまま追いかけようとした時、妙な違和感を感じ足が止まる。

 ……なんであいつ、剣と盾を持ったまま逃げんだ?

 本気で命惜しさで逃げる気なら普通荷になるのは捨てるだろ? そっちのが速く逃げれるし。


 頭の中でその疑問が大きくなっていき足を止めたままでいると、距離が二十メートル程開いた所でゴブリンが此方を振り返る。


「……ぺッ」


 追ってこないのを理解したのか、唾を吐き、歩いて森林の奥へ消えて行く。

 それに続く様に、逃げたゴブリンの側の茂みや木に隠れていたゴブリン達が姿を現し、俺を睨み付けると奴の後を追って行った。




 ――あっぶねぇ! あの逃走も罠だったのか。

 もう三体程伏兵いたし今のレベルで追っていたら、間違いなくやられた。

 最初のが失敗しても次の罠がもう仕掛け済みだったとか、ゴブリンってこんな狡猾だったか?

 モンスターはNPCと違って、それなりの知恵があるって事だろうか?


 まぁいい。今は先ず、他のモンスターが来る前にP振り分けとスキル取得しないと。


立花たちばな操人あやと

【一般人】lv.2/10

経験値:10/24

所持G: 10

─────

HP: 250/270

MP: 10/15

攻撃:14【内装備品+2】

防御:19【+4】

魔攻:2

魔防:9

器用:7

敏捷:10

運:1

─────


[アクティブ]

─────

【アナライズ】

[対象の情報を閲覧出来る]

消費MP:1

─────

残りスキルP:2



 振り分けはこんなもんだろう。

 にしても、レベルアップによる回復は無いのか。これはかなりきついな。最初の振り分けの時は増加分までHP回復したのに、あれはサービスだったのか。


 スキルの【アナライズ】はこれから積極的に使っていこう。

 情報は戦闘を有利に運ぶのに必要な物だからな。


 早速、試したいが実験台いないかね。出来ればゴブリン以外がいいが。



「キュ…」「キュキュ」「…キュ!」


 探していると近くの茂みで、草を食べている複数のモンスターを発見。


 大きさは人の顔程で、体は丸っこく、丸く大きな黄色い目が特徴的で、全身毛むくじゃらのモンスターだ。

 俺に気付いていないのか、今も警戒する事なく一心不乱に草を食べている。


 もじゃポンとはついてるな。

 こいつは某RPGでいう、無害なスライムみたいなもんだからな。

 可愛らしい見た目とあまりの弱さに、一部ではモンスターというよりマスコットキャラクター的な扱いを受けている。



 丁度良い、こいつらで試してみるか。


「【アナライズ】」


 口でスキルを唱えると、自動的に一番近い奴のステータスが表示された。


もじゃポンA

lv.1

─────

HP: 35/35

MP:8/8

攻撃:6

防御:3

魔攻:2

魔防:1

器用:2

敏捷:1

運:0

─────


 流石マスコットキャラクターの名に恥じぬ弱さ。一応、もう1匹見ておこう。


 次は唱えずにメニューのスキル項目から選択すると、複数いる敵の選択肢が表示される。

 どうやら任意に対象を選べるようだ。

 もじゃポンBを対象にしよう。


もじゃポンB

lv.1

─────

HP: 30/30

MP:3/3

攻撃:5

防御:3

魔攻:1

魔防:2

器用:2

敏捷:2

運:2

─────


 微妙に数値にばらつきがある。同じ種類でも個体差が存在するのか。これもゲームの時と同じだな。


 さて、調べ終わったし、こいつらには俺の経験値になってもらうとしよう。

 ゲームの時なら見逃すが、こんな状況だとこいつらも貴重な経験値だからな。

 悪く思うなよ。



 剣を構え、もじゃポン達の直ぐ側まで接近する。

 まだ草食ってるし。何でこの距離で気付きもしないんだよ。

 まぁ、楽だから良いけどさ、っと。


「キュ―!」


 食事中のもじゃポン達に剣を振り払い、まとめて倒した。


[経験値を15獲得]

[20G獲得]

[レベルが3に上がりました]

HP:+10

MP:+5

攻撃:+1

防御:+1

魔攻:+1

魔防:+1

器用:+1

敏捷:+1

運:+0

[ステータスPを10獲得]

[スキルPを3獲得]

[ヒールを取得可能になりました]



 お、回復スキル来たか。回復量はどれぐらいだっけか。こんな初期スキルとか久しく使ってないしさっぱり覚えてない。


─────

【ヒール】

[アクティブスキル]

[対象のHPを20+(魔攻)分回復させる]

消費MP:4

必要スキルP:1

─────

残りスキルP:5


 回復量ちょっと少なすぎない? こんなもんだっけか? 魔攻伸ばさない身としては結構ツラいな、もう倍ぐらいは欲しかった。

 まぁ、貴重な回復スキルだから当然取得するけどさぁ。



【立花操人】

【一般人】lv.3/10

経験値:25/44

所持G: 30

─────

HP: 250/300

MP: 10/30

攻撃:15【内装備品+2】

防御:21【+4】

魔攻:3

魔防:10

器用:9

敏捷:14

運:2

─────

スキル

[アクティブ]

─────

【アナライズ】【ヒール】

─────

[パッシブ]

─────

─────

残りスキルP:4



 中々良いんじゃないか?

 どうせ魔法系統にはならないし、魔攻は無視。

 もう少しレベル上がったら採取やドロ率用に運にも少しずつ振るとして。

 早めにそこそこの稼ぎになりうるモンスターのドロップ品も欲しいな。

 メインの器用さはもう少し後でも大丈夫だろう。


「……っ…!」

「キ………ッ…!」


 ステータス画面を見ながらそんな事を思案していたら、もじゃポン達がいた茂みのさらに奥の方から、交戦中と思われる人の声が僅かに聴こえた気がした。


 どうしよう?

 ここからじゃ姿は見えないし、確認するだけしに行ってみるか?

 楽に経験値横取りとか出来そうだったらしておきたいし。

 もしヤバそうな状況だったらどうしようか? まぁ、その辺は臨機応変にやってこう。――良し、それで行こう。



 そう決心すると気付かれぬよう声の聴こえた方向へ、さっきみたく枝も踏まぬように警戒しながら歩を進めた。

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