第3話 村の外へ

 村の中央通りには、村を囲っている城壁もどきと同じぐらいの高さがあるアナログ式の時計が拠点のシンボルかの様に建っていた。

 その下と宿屋街前にある広場の二ヶ所に、それぞれ数十人規模の人だかりが出来ていた。



 何だ何だ? もう作戦会議みたいな事してるのか? 有益な情報もあるかも知れんし、俺もちょっと聞きに行くか。

 情報収集は出来るだけやっといた方が良いしな。

 とりあえず近いし宿屋の方から行こう。


 近付いてみると、その中心には小太りの四、五十代とみられる大阪弁の男性と、サラリーマン風の男性が話をしていた。



「では、村の中に居れば死ななくて済むのですか?」


「せや、ルールにもそう書いてあったやろ。[モンスターは村以上の拠点には侵入しない]って。せやから、村から出ぇへん限り儂らは安全っちゅうこっちゃ」


「……ですが残念ながらそれでは、家族や友人を助けに行く事は叶いませんな」


「そらそやろ。これはあくまで自分の身を守る為の方法やからな。

それに、運が良ければ村スタートなんやから自分らの大切なモンもそうだと願う他ないわな。まぁどっちにしろ、天涯孤独の儂には関係あれへんけどな」


 こっちはどうにも村から出ない方向の話の集まりだったか。

 確かに自身が生きる事だけを考えたらここから出ない事が最も安全なんだろうが、姉さんとの合流を目指す以上、その手はとれんな。

 まだ話は続いているが、俺の役に立ちそうな情報はなさそうだ。もう一方へ行ってみよう。






 時計周辺の人だかりにはセミロングの黒髪にモデル顔負けのスタイルでありながら、胸部に凶悪な凶器を持つ女性を中心に話が行われていた。


 …すっごい。そこいらのグラビアアイドルより素晴らしい物をお持ちの様で。いや、しかし本当にすっごいわ。

 少し動く度に揺れ動くそれを目で追ってしまう。これは男なら誰だってそうする、俺だってそうする。そうとも、これは仕方のない事なんだ。決して俺が変態とかそういうのじゃないのは強く明言しておきたい!

 それにボロ服がその主張をより一層強めているしな。これは最早、追わない方が失礼というもの。



 最初は一人で稼ぐつもりだったが、彼女の方針次第では一緒にというのも悪くないかも知れないな。



「先程試した所、PTは最大で十人まで加入出来、フィールドにおいてPT内のプレイヤー同士によるダメージは発生しない事が分かりました。但し例外として、自分自身に攻撃した場合、僅かながらダメージが発生するのでご注意ください」

「それとやっぱりゲームの時と変わらず、PT人数が多いほど経験値の配分は少なくなるようです」

「……そこで提案なんですが、初対面の人と少数PT組むのは怖い、でも一人でモンスターを倒す自信もないという人は、一旦私にフレンド申請を送ってもらえないでしょうか?」

「後で申請してくれた人達を少なくとも五人以上になる様なPTに分けますので。これならレベルアップこそ遅いものの危険度はあまりないですし、組んでいる内に互いの信頼関係も築けるのではないでしょうか?」


「それいいっすね」

「確かに」

「我輩も異論はないですぞ」



 なるほど。確かにモンスターにやられる可能性はグンと下がるし、確実にレベルアップが期待できる良い案だと思う。だが、経験値やGの分配方法がゲームの頃と変わっていない以上、ソロと比べるとそれに圧倒的な時間がかかる。


 最初こそ数で押せるかもしれんが、時間が経過するほど他のプレイヤー、特にPKを当たり前の様に行う奴等と覆せない差が出来そうだ。

 そういう奴等とちゃんと戦える様にしておきたい以上、この案は俺にとって受け入れ難いかな。


 もう少しPT人数が少なければ良かったのだが、流石に五等分だと入る経験値が少なすぎるしな。

 彼女と行動を共に出来ないのは少し惜しい。惜しいけど、やっぱ俺は一人でモンスターを狩りに行くか。

 

 

 



 門の高さは約三メートル。

 数人程度なら並んで入れる程の大きさで、村の東側と西側の二ヶ所に設置されていた。

 また、門の両脇にはNPCの門番が立っている。


 何故NPCと判断出来るかというと、彼らは与えられた役目を忠実に守る為に決まった動きしかしない。

 プレイヤーの不規則な動きと比べ、違いは誰の目にも明らかだ。






「外へ出るのか?」

 いざ外へ! と門へ近付いた途端、門番が話し掛けて来た。


 NPCの方から話掛けて来るのか!

 これはゲームの頃にはなかった機能だな。折角話し掛けて来たんだ。ちょっと会話でもしてみるか。


「あぁ、少しモンスターを狩りに行ってくる」

「そうか。やられない程度に頑張りな」


 会話も成り立ってるし、これはもしやNPCにも意思があるという事か?

 まさか、な。……試しに、門番の仕事には全く関係無さそうな事でも聞いてみよう。



「朝飯は何食った?」

「……」


 反応無し、と。念のためもう一回試してみるか。


「あんたは結婚してるのか?」

「……」


 なるほど。

 どうやら、役割と関係の無い事には答えないみたいだな。

 一瞬、意思があるかと思って期待したが残念だ。


「あぁ、やられない様に注意するよ」

 そのまま門を抜けようとした時、再び門番の口が開く。


「そうそう。門は午後六時になったら閉めるから、安全に夜を過ごしたければそれまでに帰ってこいよ」


 時間は、……丁度午後一時を回った所か。これならモンスターを狩る時間は十分にあるけど、門限ちょっと早すぎないか? 今どき小学生でももうちょい門限遅いだろ。


「…もし間に合わなかった場合はどうなるんだ?」

「門を開く朝五時まで外で過ごす事になるな」

「それは怖い。じゃあ、閉門時間までには戻るよ」

 怖いどころの話じゃない。これもゲームと同じなら、夜間は出て来るモンスターが強く設定されてるはず。少しレベル上げしたところで殺られるのは目に見えている。

 せめて二次職になるまで門限は絶対に守らないと。

 そう強く決意をし、安全が確保されている拠点からその境を越え外へ踏み出した。



「おぉ~、結構良い景色」


 フィールドへ出ると、門から続く様に真っ直ぐ伸びた馬車道があり、その右手には森林、左手の少し離れた所には廃墟らしき物が小さく見える。



 早速モンスターと交戦中の人もちらほら居るみたいだが、邪魔にならないよう近くにある森林から探しに行ってみるか。





「これは結構、いやかなり深そうなとこだな」


 森林地帯には見渡す限り、高低様々な樹木が生えており、何処までこれが続いているのか入り口のここからだと分からない程。


 まだこの辺りは、木漏れ日も結構な割合であるので視界の確保も可能だが、奥の方はここからでは真っ暗でまるで明かりの無い田舎の夜みたいに何も見えない。


 もし奥まで行きたいなら、松明でも持っていないと探索もままならなさそうだ。洞窟でもないのにな。

 また地面には獣道らしい物も無く、これも迷う一因になりそうだ。



 このまま奥に行ったら迷子になるのは確実だろうな。

 せめて、地図でこの地帯の詳細が分かれば別なんだが。相変わらず拠点の場所しか移さないポンコツぶりだしな。

 …ちゃんと帰れる様に、探すのは街道が見える範囲に絞ろりつつ、小さな情報を見逃さないよう注意していこう。





 あいつは…!


 注意深く探索し始めてすぐ、十メートルほど前方に小柄な緑の肢体のモンスターを発見。と同時に、俺は茂みを前にしバレないよう姿を隠した。


 緑の体に腰にはボロを巻いたモンスター、ゴブリンだ。


 これはまた楽なのが居たな。見た感じ周りに仲間も居ないようだし、まだこっちに気付いた様子もない。簡単に狩れそうで幸先は良いが。



 というのも大半のゲームにおいてそうであるように、このゲームにおいても例外ではなくゴブリンは、序盤に出て来るやられ役。つまり、雑魚の中の雑魚といっていい種族なのだ。そのため、単体であればレベル1で正面から戦っても苦戦をする事は殆ど無い。

 だが、小賢しい事をするので群れている時は要注意だ。


「~~~♪」


 ゴブリンは此方に背を向け、鼻歌を歌いながら何か拾っている様に見える。

 モンスターの頭上にはHPゲージと思われる物が表示されており、何故か既に目の前の奴はそれが半分程まで減少していた。




 周りに仲間もいないようだし、これはチャンスじゃないか?

 ……よし。不意討ち出来そうだしもう少し近付こう。



パキッ


 あ。これはまさか…。

 恐る恐る音がした足もとに目をやると、小さな枝が綺麗に折れていた。

 絶好のチャンスだったのにこんなヘマするか普通? くそっ! 注意してたつもりだったのに!



 枝が折れた音自体はあまり大きくはなかったと思うが、それでもゴブリンには十分聞こえる距離だったらしい。


「ゴブッ!」


 ゴブリンが素早く此方に体を向け戦闘体制を取る。

 その手には木の剣と盾が握られていた。

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