第24.5話 小さい理由

 どうしようか?

 やっぱり少し気になるし、何よりこの場を逃したら、もう聞く機会がないような気がする。

 ――よし。聞くだけ聞いてみるか。



「…少し良いですか?ちょっと聞きたい事がありまして」

 柳と握手を終えた男に伺うように話しかける。



「なんじゃ?作戦で疑問でもあったかの?」



「いえ、作戦とは全く関係ないんですが、…何でそんなに小さいアバターなのか気になりまして」



「…別に話しても構わぬが、ここではちょっとのぅ。――どれ、少し散歩でもどうじゃ?」


 

 不特定多数には聞かれたくないのか?まぁ、話してくれるみたいだしついて行くか。



「お供します。――ではこれから、ちょっと別行動で」

「明日午前十時に、時計塔の前に集合じゃ」

「承知しました」

 柳と女性に別れを告げると、小さな歩幅でヒョコヒョコと歩く男についていく。



 


 村の端。人通りもほとんど無く、陽当たりの悪いいかにもな場所で男は止まり、周囲に他の人が居ないか確認すると、その豊かなヒゲを撫でながらもう一方の手で手招きし、口を開いた。



「お主、女体に興味あるかの?」


「へ…?あー、一応、俺も、そういう多感な年ごろなので、……興味ない、って言えば、ねぇ、嘘になりますね」


「そうか!そうだよな!あー、良かった。違ったらどうしようかと思ったぞ」



 立花の返事に安堵したように、一つ大きく息を吐くと、男は砕けた口調に変わり、小さい理由を話し始めた。



「ローアングラーって知ってるか?」


「ろーあんぐらー、ですか?……何か聞いたような気はしますが、よく分かりませんね」


「ほら、ハロウィンやコミケとか、コスプレする人がよくいるイベントで、際どい格好の女性コスプレイヤーを、その人の下から見上げるように撮影する者達のことだ」


「それってつまりパンツとか、そういうのを狙って、ということですよね?」


「そうだな。言ってしまえば変態、変質者の類いだな。かくいう俺もそうなんだが。それをより自然に、簡単に撮れるよう、こんなに小さくしたんだ」


「そうなんですか。でも、それならもっと小さくすれば、さらに楽に撮影出来たんじゃないですか?」


「そうなんだが、生憎いじれる範囲ではこれが限界でな。そりゃ出来るならもっと小さくしてたさ」


「それは確かに。ところで、この世界に来てから結構経ちますし、かなりの数撮れたんじゃないですか?」


「いや、……こんな状況だし中々、な。勿論最初はバンバン撮る気だったよ!それこそレベル上げなんてそっちのけで、撮る事だけ考えていた。だが、デスゲームだと知らされた以上、そういう訳にも行かねえし。何よりこの状況では、俺が撮りたい物が撮れないのが無念で仕方ない。俺はただパンツが撮りたいんじゃない!勿論パンツも大事だ!だが、何より重要なのは、際どい格好のコスプレイヤーが笑顔を浮かべながらも、内心キモいだのなんだのと、悪態をついているであろう状況に、この上ない興奮を覚えるんだ」


 

 高揚しているのか、顔が少し赤くなるほど熱く語っているが、つまりこの人はあれだろ。変態の類い。それもかなりの筋金入り、ド変態というに相応しいレベルの。


 とはいえ、男である俺には害は無いだろうし、レベルも20を越えているんだ。

 少なくとも戦闘面では頼りになるしな。

 

 しかし、この人の言ったとおりだと、こっちじゃほとんど撮れてないんじゃないか?

 少し聞いてみるか。別に興味があるとか、あわよくば見せてもらいたいとか、そんなんじゃないぞ。これはそう、ただ純粋に疑問に思ったから聞くんだ。



「貴方がどうしようもない変態だという事はよく分かりました。にしても、話を聞く限り下手したら一枚も撮れてないんじゃないですか」


「撮りたい物は、な。今は妥協して、ちょっとした隙に無防備な姿を隠し撮りして発散してるな。何気ない瞬間に訪れるパンチラや、モンスターに吹っ飛ばされた時に良い位置だった瞬間にパシャリ、とな。…正直これはこれで実に良い。――ま、こういう変態だが、明日はよろしく頼むぞ」


「こちらこそ。…流石に明日は撮るの自重してくださいよ」

 明日の相手は強敵だからな。いちいち言わなくても大丈夫だとは思うが、念のため釘を指しておかないと。


「ああ、勿論。善処しよう」

 善処、か。出来れば絶対にしないという約束が欲しかったが。これはきっと撮るだろうな。…まぁいい。ヤバい状況だとせんだろうし、そこは大丈夫だろう。




 それから少し話した後、それぞれ明日の準備の為別れた。

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