第24話 嬬恋村へ

 それから色んな事があった。



 ダンジョンで全く魔法が効かないハニワ型のモンスターと遭遇し、片っ端から割って回ったり。


 

 また別のダンジョンでは、言葉が話せるゴブリンと何故かクイズ対決をする羽目に。

 勝利後、賞品として、その対象が攻撃して来なくなる代わりに、倒しても獲得出来る経験値とGが減少するという、Dランクアイテム[勝者の証(ゴブリン)]を取得。



 ゴブリンはこれからもバンバン狩ると思うし、売却価格を見たら、結構良い値段が付いたので、ダンジョンから出た後、直ぐに売ってしまったが。





 またある日、急所モグラというボスモンスターが出現。

 特徴は、自身の背丈程もある大きな爪。

 それを使い、地中から男性プレイヤーの急所、そう、金的目掛け急襲を繰り返す。



 攻撃力はあまり高くなく、死者こそ出なかったらしいが、何人もの男性プレイヤーに地獄を見せた。

 通常の戦闘では、痛みを感じる事も殆どないのだが、この相手はそういうスキルでも持っていたのか、攻撃は現実と変わらぬ程のそれがあったようで。



 倒した後も、プレイヤーがその場から移動するのにはかなりの時間がかかった。

 ある意味とても恐ろしい相手だったらしい。



 らしいというのは、幸か不幸か、出現場所が離れていたので討伐に向かう事は無かったが、後日、それに参加プレイヤーから聞いた話だからだ。



 正直、このボスモンスターには参戦しなくて本当に良かった。心底そう思う。

 地中を進むスピードも結構速かったらしいし、こんな男特効みたいな攻撃を一回でも受けたら、戦闘不能になるのは目に見える。



 そりゃ、HPはあるだろうよ。数値の上ではピンピンしてるだろうが……。

 金的をくらって尚、戦える奴がいったいどれだけいるんだ。



 俺を含め殆どの男は、くらった時点で戦力外確定。

 そのまま何も出来ずに戦闘終了までうずくまる事になるだろうし。



 そうなると、当然報酬も無く、単に金的を貰いに行っただけという、それはもう凄ぶる格好悪く、間抜けな話ではないか。

 ……願わくば、こういうタイプのボスモンスターはもう出て来ないで欲しいものだ。








 またまたある日、回復アイテムや料理を各自出来る限り用意し、夜通しE級ダンジョンをひたすら突撃を繰り返したり。



 この頃には既にレベルも二十を越え、E級ならレベル差、ステータス差の暴力で、サクサククリア出来るぐらいにはなっていた。


 

 D級ダンジョンも一度クリアしたのだが、敵はそれなりに強いし、攻略に時間もかかるし、それでいて報酬もDランク中心では、現状見合うだけの物ではない。

 そう判断し、なら質より量だということでE級突撃を行うにいたったのだ。



 ついでという訳ではないが、夜間にクリアした後、フィールドに戻される度に、そこで出現するモンスターを少しずつ【分析】していた。

 やはり昼間と比べると明らかに強く、一番弱そうな奴相手でも、勝つのは少なくともレベル二十代は無いと苦戦しそうだ。



 途中、何回かこっちに気付いて襲おうとする奴も居たが、出る度に速攻でダンジョンへ入っていたので、その辺の被害は出ずに済んだ。


 

 調べれた中で一番ヤバかったのが、腐竜というあちこちの筋肉が溶け、骨が露出していたドラゴンモンスターだ。



 大概のゲームで強敵扱いされているドラゴンだが、スマホゲームだった頃のアナザーワールドでも例に漏れず、かなりの強さを誇る。



 腐竜は竜系統の中でも弱い部類の位置付けだが、腐ってもドラゴンなだけあってステータスが高く、あれと戦うなら、全員二次職で何とかなるレベルの相手だろう。



 というのも足や翼といった、速度に直結するであろう部位も腐っていたので、素早さは一桁しか無かったのだ。



 もし素早さも他のステータスと同じぐらいなら、少なくとも倍の人数がいないと、戦いを挑むという選択肢すら出てくるまい。





 それにしても、夜はどいつもこいつも、ボスモンスターより強いのばっかで恐ろしいわ。

 夜だけならまだしも、昼間もそういう奴がいるんだろうか?……まあ、いるんだろうな。



 しかし、それはまいったな。幸運な事に、まだそういう奴と戦闘になってないが、もし戦う事になったら苦戦するのは想像に堅くない。というか、まともに戦いになるかも怪しいな。

 もし挑む事があったとしたら、その時はトップクラスのプレイヤーが結構揃っている状況で、その人達と一緒に戦おう。

 それが一番良い方法だろうな。 







 そんなこんなで一週間もあの拠点で過ごし、レベルは25、料理スキルもDまで上がった。



 そしてDになった事で、ついに!ついに副作用が無くなった!

 もう状態異常で死にかける事も、隙だらけになる事もないのだ!

 これでようやく、戦闘中でも使える物になったな。



 見た目は所々焦げてたり、形が悪かったりと、ちょっとアレで、味もまだ少し不味い。

 それでも今までのと比べると余裕で完食出来る代物。



 いよいよ次のランクには、美味しい料理が作れるようになるのでは?と思うと、今から気分が高まる。

 出来るだけ早くそういう料理は自前で用意したいし、これからより一層、数をこなさねばな!



 短剣スキルが上がらなかったのが残念だ。だいぶ意識的に使っていたから、もうそろそろ上がっても良いとおもうのだが。











 本来ならもう少し早く移動する予定だったが、彼等と行動を共にするのは楽しかったし、何より経験値、G、アイテム。ダンジョン攻略はこの全てを稼ぐのに凄く便利なのが大きな理由だ。



 立地も拠点近くに塔やビル等の全難易度が揃っているダンジョンがあるなんて、凄まじく神がかっている。

 正直、状況が許すのなら、大半の人がこの拠点で延々と、目標のレベルまでレベリングしていたい、と思うだろう。



 実際、この一週間で拠点の滞在者数は増加していたのだ。

 その分、新しく来たプレイヤーは宿屋の確保に頭を悩ませていたようだが。

 その大半は拠点のすぐ側でテントを張ったり、料理等で回復をしていた。





 だが当然、合流を優先したい立花達はそうもいかず、今朝、拠点を出発する事に。



「行くのか」

「はい。短い間でしたが、お世話になりました」

「それはお互い様だって! それよりゴメンね? 一緒に行けなくて。戦士と騎士が合流出来たら、追いかけるから」

「期待はしてますが、あまり無理はしないでください。――では、僕らはこれで」

「達者でな!」「またね!」


 

 ――見送られながら馬を走らせる。

 彼等はきっと大丈夫。またいずれ、必ず会う日が来るだろう、と理由はないが確信に近い何かを立花は感じていた。

 







 というわけで。

 再び立花と柳の二人旅で嬬恋村つまごいむらへ向かっていた。



 陽射しを遮る雲は無く、空はよく晴れている。

 まさに快晴というに相応しく、適度な陽射しと心地よい風を受けながら、馬を走らせていた。

 


 道中出会うモンスターも、今までは襲って来ていたのが、レベルに差があるせいか、こっちを認識すると一目散に逃げるようになっていた。

 進む分には都合が良いが、これではフィールドで経験値稼ぎがしにくくなると思うと面倒だな。





 多少の採取を行いながら進み、空が茜色に染まる頃――。

 大きな窪地にまるで隠れるようにすっぽりと入っていた拠点、嬬恋村つまごいむらへ到着。



 滞在者は三百人近く。

 これなら宿屋の確保も問題無く出来そうだ。なんて思い馬を降りると、

「ぉーぃ! おーい!」と遠くでこちらに手を振りながら近付いて来、

「そこのお二人、チョッッット待った」と両手をめいいっぱい広げ、進路を阻むように立ち塞がった。



 栗色のボサボサ頭にメガネをかけて、身にまとっているローブの上からでもはっきり分かる程、たわわに実った二つの果実が目を引く女性が、杖を支えに呼吸を整えている。



「知り合いですか?」

「いえ、立花殿は?」

「僕もさっぱり」



 いったい何の用だろうか。こういうのは大抵ろくな事じゃなさそうなんだが。と考えながら待っていると、呼吸を整えたようで、ゴホンと大袈裟に咳払いをし言った。



「ギルドに、興味ありませんか?」

「ないです。それでは」

 


 なんだ。只の勧誘だったか。少し警戒しすぎたか。



 入ったら他のメンバーもいるだろうし、戦力が一気に増えるとか、多少メリットがあるんだろう。

 代わりに、彼等の方針に従う事になるわけで。そうなると、思うままに動く事も叶うまい。



 と考えると、西への移動を優先したい俺としては、現状、ギルドに入るメリットがほとんどない。





「ちょ、ちょっと待って! あ、明日! そう明日だけで良いんで協力してください!」


「……明日だけ、ですか。一体何があるんです?」


「タマゴをとりに行くんですよ。ドラゴンのタマゴを――」


「正確にはタマゴの殻、じゃがな。すまんのう、うちのもんが呼び止めたようで」


「リ、リーダー!?」



 女性の横に立つリーダーと呼ばれた男は、情熱をたたえるように燃える真紅の瞳。

 斧を背負い、金属製の鎧を身に着け、角が二本生えた兜を被り、兜からはみ出る赤みがかった茶色い髪と、頬から顎の大半を占領している髪と同じ色の大きなヒゲが目立つ。


 何より一番特徴的なのは、その背丈。

 立花の半分も無さそうな程小さく、見た目とあいまって、さながらファンタジー世界に出てくる、ドワーフ族を彷彿とさせるものだった。



 随分小さいな。

 確かにそういう風に作る事も可能だろうが、メリットは何だ?

 的が小さく当たりにくいぐらいしかないと思うが。――まぁいい、気になるし取り敢えず話を聞いてみよう。





「どういう事です?」

 促すように問うと、男はヒゲを右手で一度撫で口を開く。



「昨日、北にある荒野を探索中にベビードラゴンを見つけたんじゃ。最近孵化ふかしたのか、側にまだ殻がいくつかあっての。殻は高く売れ、高位の武器や防具の素材になるのは知っておるじゃろ。それが欲しいんじゃが。…彼奴きゃつめ、中々巣から離れようとせんでの。なら倒してしまおうかとも思ったんじゃが、いかんせん戦力が足らぬ。そこで今、強そうな御仁に声をかけている訳じゃよ。協力してはくれまいか?」



「するかどうかはまだ決めかねますが、そんなに強いんですか?」

「うむ、――これが彼奴の能力値のSSスクリーンショットじゃ」




ベビードラゴン

lv.10

─────

HP:1453/1600

MP:200/220

攻撃:123

防御:82

魔攻:86

魔防:82

器用:86

敏捷:168

運:33

─────

【幼竜の飛翔】【竜のウロコE】【エレメントE】

―――――

―――――

【幼竜の飛翔】

[飛行スピードが少し速くなる]



【竜のウロコE】

[受ける物理、魔法ダメージを極僅かながら軽減する]



【エレメントE】

[ファイア、アイス、アース、ウィンド、サンダーを使用可能]

―――――








 ちょっと、いや、かなり強くないか?

 まだベビーなのにこの能力値、ユニークモンスターの類か。

 仕様が変わっていないかヘルプで確認しておくか。




――

 ※ユニークモンスターとは? 

 ボスモンスターとは別の驚異でまれにフィールドに出現。

 能力の高さもそうだが、一番注意すべきは他と違う経験値取得方法だろう。

 本来は敵を倒す事で経験値を獲得するわけだが、ユニークモンスターの場合、攻撃を行う、当てる、受ける、回避する、など戦闘におけるあらゆる行為で獲得を可能にしている。

 


 また、戦闘中であろうと一定の経験値が貯まると進化を行い飛躍的に能力が上昇する。

 ボスモンスターと違い、拠点消滅こそ出来ないものの、自身以外のモンスターも攻撃対象にするので、放置していると順調に進化していき、場合によってはボスモンスターより厄介な存在になるだろう。

 

 もちろん討伐に成功すれば相応の見返りがあるので、自信があるプレイヤーは挑戦してみるといい。

――



 仕様に変更は無し、か。

 まずは良かった。あいつらにも拠点消滅出来たらそれこそ詰んでいたからな。

 

 現状、腐竜よりは流石に弱いが、代わりに飛翔スキルもあるか。

 俺と柳さんは遠距離職じゃないんだ。飛ばれるとほとんど打つ手が無い。

 とはいえ、こうして話を持ちかけて来るんだから、勝算はあるんだろう。






「……かなり強いですね。これと戦うならそれなりの作戦が無いと厳しそうですが」



「とっておきのがあるわい。手練を集め、数の暴力で押し殺す。これ以上のものはなかろうて」



「それは確かに。戦力についてレベルや人数等、もう少し詳しく教えてください」



「レベルは十代後半が大半、人数は二人が参加してくれたら十六人。クラスについてじゃが、遠距離中心に誘い、弓兵、魔法使い、僧侶で十人集めたわい。加えて、全員ギルドに入ってもらうことで、誤射や誤爆が起きてもダメージが抑えられるようにしておる」



「それだけ揃っていれば、討伐もかなり楽そうですね。…柳さんはどう思いますか?」



「参加するかどうかですかな?」

「はい」



「…急いではおりますが、資金はいくらあっても困りませんし、これから強敵と戦う機会も多くなるのは確定的ですからな。故に、今のうちに慣れておいた方がよろしいかと」



「なるほど。…よし。では参加するとしますか。明日はよろしくお願いします」



「こちらこそよろしく頼むわい。頼りにしとるぞい」

 差し出された手を握り、立花と男は固く握手を交わした。

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