第17話 拠点消滅

何処からか鶏の鳴き声がし始める頃、2人は既に起床し外へ出ていた。

テントについては朝になり、中に人が居なくなった時点で自動的に消える仕組みのようだ。



更に進むと、遥か前方、恐らくは橋を渡りきった後に広がる荒れ地地帯にてある物が見える。

小高い丘のすぐ側、それに寄り添う様に建物と柵が本当に小さくではあるが視界に入った。



「あんな所に集落があるとはついてますね」

「真に。補給を行う為にも立ち寄ると致しましょうぞ」

昨日の戦いでGにもかなり余裕が出来たので、彼処で更に回復アイテム等を揃えられるのは有り難い。

こればかりは幾らあっても困らないからな。

とはいえ、あまり滞在出来る時間もないだろうから、昼頃には着ければ良いのだが。




結局、橋を渡りきったのは12時を少し過ぎた頃になった。

道中のモンスターは兎も角、下り坂の途中で何回か道が崩れており、そのせいで徒歩での移動を余儀なくされたからだ。

最初は馬での移動を試してみたが、数歩行っただけで転倒したのでやむ無くその方法をとった。


それにしても、橋だけで1日使う事になるとは思わなかったな。

もし、標高で長さとか決まってたりしたら富士山だとどれだけかかるんだか。

いや、それはもういいか。結局どういう仕組みかなんて分からんわけだし。



そんな事に思案を巡らせながら、集落を目指していると、あのメッセージが再び現れた。


[ボスモンスターが出現しました]


馬を止め、急ぎ確認する。

今回のボスの名は黒衣の集団。

名前からして、また複数いると考えて良いだろう。

周囲にモンスターが居なかったので、もしやと思ったがその心配は杞憂に終わった。

というのも出現した場所が南西。

長野県との県境付近だったからだ。

とはいえ、これだと俺達が参戦しようと向かった所で、再びあの橋を渡らないと行けない。

それだとどう考えても間に合わないだろう。

正直、ボスモンスターに関しては極力参戦したかったので、今回の出現場所は非常に残念だ。


「どうやら今回は縁が無かったようですな」

「みたいですね。…まあ、こればかりは仕方ないので、気を取り直して先に進むとしますか」

地図を消し、止めていた足をまた動かそうとした時。







[拠点が消滅しました]


「……は?」

いくらなんでも早すぎないか?

……いや、運悪くそれだけ近くに集落でもあったということ─




[拠点が消滅しました]

[拠点が消滅しました]

[拠点が消滅しました]


「…何だ?何なんだこれは!?」

まだ出現して1分も経ってないのにこれはないだろ。

まさか4ヶ所もほぼ同じ場所にあったとも考えにくい。


確認すると、予想通り既に出現場所には居らず、5ヶ所にバラけていた。

その内4ヶ所に関しては、地図からその拠点が確認出来ない事から集落だろう。

更に、俺が最初の拠点として滞在していた太田村も地図からその表記が無くなっている。

そして、幸か不幸か馬を走らせて数分の場所にもその反応があった。


「この場所は…!」

慌てて前方に視線をやると、向かっている拠点が目に入る。

まだ柵があるので健在ではあるが、そのすぐ近くで3体の黒い影と複数のプレイヤーが遠目に見える。

どうやら既に交戦中らしい。


「柳さん!」

「ええ。こうなってしまった以上、行かねばなりませぬな」

「間に合うといいですが……」

その影に【アナライズ】を使いつつ、再び馬を走らせる。




黒衣の集団

lv.10

─────

HP:61/125

MP:100/120

攻撃:10

防御:25

魔攻:10

魔防:20

器用:55

敏捷:85

運:2

─────




……、いくら何でもボスモンスターでこのステータスは弱すぎじゃないか。

これならそこいらの雑魚モンスターの方がまだ強いぞ。

いや、だからこそこいつらは瞬間移動するスキルかアイテム持ちと考えるべきか。

しかし、ボスが奇襲とか反則だろ!こんなのどうやっても防ぎようがないしな。




そんなことを考えている間に、既に見えるボスモンスターの数はプレイヤー達によって1体まで減り、そして残った者も胴体を深々と剣で貫かれていた。



数で勝っていたとはいえ、俺達が着く前に倒してしまうとは。

頼もしい反面、撃破報酬が貰えなかったのは痛いが。



「いやー、倒すの早いですね。俺達も馬を跳ばして来たんですが間に合わなかったようで」

倒した後も周囲の警戒を続ける彼等に声をかける。

勿論、敵対の意思が無いのを理解してもらう為、馬から降り武器は仕舞ったままだ。


「まあ、あんた等も見たと思うが奴等の能力値が低かったからな。最初の奇襲さえ防いでしまえば楽なもんだったよ」

10数人いる中で、ある男が答える。


深い青色の短い髪で日焼けでもしたのか、少しばかり色黒である。

装備は石系統が中心で、レベル13の戦士だ。

他の人も同等のレベルで、彼等もまた現時点でかなりの実力者だと分かる。


こうして話している間にも、さっきの戦いに参加出来なかったであろう人達が集まり、情報収集が行われている。

その規模は既に数十人になろうとしていた。



「その最初の奇襲はどうやって防いだんですか?」

問いかけると男は小さく笑いこう続けた。

「防げたのはただの偶然だよ。素材を取りに拠点を出ると空気が歪んだような音がして。その後直ぐに奴等が目の前に現れたんだ。

後はまあ、そのまま戦っていると次々に援軍が来てくれたってわけだよ」


ギギギ──


「成る程。丁度こんな感じの音ですか?」

「そうそう。……ってまた来てる!?しかもさっきより数多いし!」


音の聞こえた方向、俺達が来た方を見るとさっき遠目に見た奴等がすぐ側に再び姿を見せる。


数は10体程。

頭をすっぽりと覆うフードを被り表情を窺い知る事は出来ない。

また体全体もマントで隠している。

時々、チラリと見える鉤爪かぎづめは恐らく膝下まであるだろう。中々の長さだ。



奴等はそのまま声を上げる事もなく、此方へそれぞれバラけて襲い掛かって来た。

「あの爪に当たると数秒動けなくなるから気を付けるんだよ」

「成る程。了解です」

とはいえ、こっちは数十人いるんだし楽勝だろう。

【投げナイフ】も当てた事だし後は任せて、一応正確な数を図る為に【索敵】でもしときますかね。




残りは14…今12になったか。

やっぱり楽勝────っ!

そう思った矢先、目の前とは別の場所に反応があるのを確認する。





「くっそ!釣られた!

丘の上に1体居やがる!誰か、誰でもいいから奴を止めろーっ!」

拠点の方へ大声で叫ぶ。

だが、中で待機していた人も奴等が再び出現したと同時に此方へ向かい、拠点内は殆ど人が居なくなった。



此方に人が集中したのを確認したのか、その伏兵はゆっくりと身を起こし、躊躇ちゅうちょする事なくそのまま丘から身を投げた。


此方へ顔を向けた時、当然表情は分からない筈だが、俺には何故かどす黒い笑みを浮かべているように感じた。


今からでも【ウィンド】で……、駄目だ。此処からだとどうやっても間に合わない。

くそっ!こうもまんまとやられるとは。



集団の中から距離を取り、歯ぎしりしながら奴を凝視していると、見たくなかったあのメッセージが表示された。


[拠点が消滅しました]



それが表示されると同時に柵や道具屋、宿屋等拠点が拠点足り得た全てが一瞬で霧散し、そこにはまるで最初からそんな物は無かったかの様に何も無い只の荒れ地が広がる。



消滅させる事に成功した奴は中に残っていた人達の連携で倒し、残りも直ぐに殺到した人達の手でメッタ刺しにされた。




[ボスモンスターを撃破しました]

[経験値を850獲得]

[850G獲得]

[ボス撃破報酬として反撃の小盾を獲得]



【反撃の小盾】

防御+12

[腕で装備する小さな盾。稀に受けた物理ダメージの一部を相手に返す]

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