第16話 野営
「毎度ありー」
店主の声を背に聞き道具屋を出る。
料理とは名ばかりの兵器の惨劇から更に2日経ち。
既にレベルも17に上がり、街で駿馬を買い西の長野県目指すべく此処、
というのもこの先、現実では越後山脈や三国山脈、そして関東山地等の山岳地帯が行く手を塞ぐ様に連なっている。
この世界でも全く同じ様に表現されているのかは確認出来なかったが、もし山越えとなると時間がかかるこもしれない。そこで念のためその準備をしていたのだ。
補給を終え数キロ進むと景色が一変する。
幾つかの断崖絶壁が進行方向を防ぐように現れたのだ。
底は地上からだと確認出来ず、試しに近くの石を投げ込んで見たが音が返ってくる事はなかった。
そして、途中にある結果として孤島の形になっている場所には、仙人が住んでいそうな凸形で縦長の大きな岩が所々に見える。
更にその幾つかにはダンジョンの入り口らしき横穴も発見出来た。
サブ職の大工で橋を作れたら、かなりの時間短縮になると同時にそこへ挑むかどうかの選択肢も出てくるのだが、生憎2人共上げていないので残念ながら諦めるしかない。
周囲を見る限り、どうやら向こう岸へ架かるであろう巨大な橋を渡るしか俺達には方法が無いらしい。
だがそれは此処からだと大きく蛇行している様に見え、渡りきるには時間がかかりそうだ。
「どうにもこれを渡るしかなさそうですな。一応警戒は怠らぬようにお願いしますぞ」
「勿論大丈夫ですよ。では行きますか」
なだらかに続く登り道に足を踏み入れる。
歩いてみて分かったが、どうやらこの橋はかなり年季の入った物らしく、所々地面のコンクリートに凹みや欠けている場所があった。
更に酷い所では道路の底まで穴が空いており、注意していないとそのまま落ちてしまうなんて事も起こりうる状況だ。
出てくるモンスターはスケルトンタイプが主流らしい。
見た目もゴブリン等と同じく武具を装備している人形と、機動力がある犬らしき物。
他にも飛行タイプもおり、多様な種類が熱烈な歓迎をしてくれる。
こいつらは能力は低いが【状態異常無効】のスキルを備えていて、俺とすごぶる相性が悪い相手だ。
結局、ここでも【ウィンド】で援護に終始し、殆どは柳さんの刀で砕いていった。
他にも、その場で
上記の2種に関しては好戦的でない分、無視して進む事も出来るのが楽で良いが。
そして、此処で採れる物もやはりというか骨ばかりで他の物は一切採れなかった。
まぁ、これは運の値が低いのも関係しているのかも知れない。
モンスターを蹴散らしながら進んでいると、目の前に再び断崖絶壁が現れる。
橋の大部分が抜け落ち巨大な穴が出来ていた。
とはいえ、右端の方は僅かながら足の踏み場はあるし、壁を伝って行けば大丈夫だろう。
ただ問題は、その向こうに何体かモンスターが待ち構えている事だ。
「これは……どうやって渡りましょうか」
思わず柳さんに指示を仰ぐ。
「私が先に渡り蹴散らしに行くので、立花殿はそれが終わるまでスキルでの援護を」
「分かりました。どうか気を付けて」
柳さんが渡っている間、【ウィンド】で敵を飛ばしこちらとの距離を稼ぐ。
やはりこのスキルは優秀だ。
ダメージはあまり期待出来ないがそれ以外の部分、例えば今みたいに時間稼ぎにも使える。
それに加え、いざという時の緊急移動手段にもなり得るのだから。
それにしても、ここに来るまで敵を倒していて良かった。もしそうでなかったら、今この状況での挟み撃ちの可能性もあっただろう。
そんな事を考えつつ援護をしていると、向こうでは既に渡りきった柳さんが、その骨共を砕いて回りものの数十秒で全滅させた。
その後は、特に目立った難所やモンスターの妨害もなく進めたが、空は既に茜色に染まり太陽が沈みつつあった。
「見た限り、まだ渡りきるには距離があるので、今日はこの辺でテントを張りますか」
「そうですな。光源がない状態で夜の行軍は自殺行為同然ですからな」
同意を得られたので比較的道の破損が少ない所を選びテントを使用する。
すると、設置を指定した場所に一瞬にして完成された物が出現した。
内部は4人用の為か思っていたより広い。
設備品は小さなランタンと人数分の寝袋が用意されていた。
ランタンがあるならこれを持ち運んで行けば、夜でも進めるんじゃないか?
と思い使ってみたが、その光はあまりにも弱々しく、テント内ですら充分に照らせない代物だった。
流石にこれでは使い物にならない。
どうやら大人しく夜が明けるのを待つしかなさそうだ。
気付けば外はもう夜になったのか、昼間に出現したモンスター達とは明らかに違う気配と足音、そして声が聞こえてくる。
「少し外を覗いても構いませんか?」
「ええ。ですが、危険と判断したらすぐに閉めるように」
「勿論!【索敵】も使うし大丈夫ですよ」
それで調べた所、前方の範囲ギリギリに1体引っ掛かった。
さて、どんなのが出るのやら。
多少の不安と好奇心が入り交じりながら顔を出す。
すると、灯りもない真っ暗な闇の中、なにやら身体全体が透け淡い光を放つ不気味な浮遊体が見える。
暫く観察していたが、何をするでもなくただその辺りをフラフラと行ったり来たりしているだけで特に害はなさそうだ。
まぁ、それでも一応調べてみるか。
そんな軽い気持ちで【分析】を使ったが。
ゴースト
lv.20
─────
HP:220/220
MP:551/551
攻撃:0
防御:0
魔攻:91
魔防:85
器用:120
敏捷:23
運:0
─────
スキル
[アクティブ]
【HPドレイン】【MPドレイン】
─────
[パッシブ]
【物理無効】
─────
予想以上の難敵だと判明した。
てか、物理無効はいくら何でも反則だろう。
魔防も高いし、もしこいつと戦うなんて事になったら完封されかねない。
これは光源を確保出来たとしても迂闊に夜間の戦闘は出来ないな。
しかし、テントを持っていて助かったな。
お陰でああいうのと戦わずに済むんだから。
そんな事を考えながらそれに視線を戻すと、何故かさっきとうって変わり微動だにしない。
加えて心なしかその姿も大きく見える。
……嫌な予感がする。
背筋に寒い物を感じ、まだ見ていたいという気持ちを押さえ込み顔を引っ込めた。
「どうしました?顔色が優れぬ様ですが?」
既に寝袋に身をくるんでいた柳さんが上半身を起こし聞いてくる。
「え、ああ、いや、夜のモンスターはかなり強いなぁ、と思ってですね」
我ながら動揺を隠すのが下手だと思う。
しかしまだあの段階で引けて良かったというべきか。
もし、視線を戻した時にすぐ目の前まで来ていたら今回のような対応がとれたとは到底思えない。
……いや、この事を考えるのはもうよそう。
この後、明日の行程を話し日を跨ぐ頃には2人共眠りに着いた。
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