RUN!!! (1)

 056


 ■第三ライン、2ブロック。


 楽園教で、二人の機械族が対峙してる。

 対峙といっても、両者の力関係ははっきりとしていて、片方は石畳に膝をついている。

 ――膝をつく機械族。

 119204号はガスマスクを外され素顔を曝されていた。

 幼いながらも端正な顔立ち。白い肌に、子鹿のようにまん丸な瞳。そして、レモンイエローの髪(長いのを下の方で二本の三つ編みにしていた)。

 見た目だけで言うなら、女の子のようだ。

(お、女。女の子!?)

 ダイチは驚愕する。

(あんな短気で生意気で舌打ち連発の子が――まさか!)

 女性に対して、ある種の幻想を抱いていたのか。露骨に顔をゆがめていた。

 いや、当の119204号はダイチの衝撃など気にしてない。

 というか、気にするヒマもない。彼女は今、激しく動揺していた。


「……あ、ああああっ……」両手で顔を隠し感情を抑えようとする。だが、完全には無理で「な、何で――何で、こんなっ」泣き始めた。


 ガスマスクはCREDLEというシステムによって管理されており、呼吸管理や空気清浄も行っていた。いや、それ以上に119204号にとっては外界から身を守る役割だったようだ。

 石畳に転がったガスマスクを取り、慌てて付け直す――が、機能はCREDLEとのリンクが切れており、起動時はテープが回って装着するのだがそれもない。ただ、両手でガスマスクを顔に押し付けるだけで、何の効果も得られない。

「っ、どうして」


 ドウシテ? われわれノおきてヲわすレタワケジャアルマイ?


 大柄な機械族は語る。


 コンナ、ばかどもニかかワロウトスルナンテ……。


 機械族には四つの掟がある。

 一、馬鹿に関わるな。

 二、機械を勝手に売るな。

 三、馬鹿になるな。賢くあれ。

 そして、四つ目は――「し、し、しししっ――思考麻薬を、売りさばいてるくせに、た、たたっ――助けることはしちゃ、だめ、なの?」

 119204号は、怯えながらも必死に言葉をつむぐ。

 だが、大柄の機械族は無言で文字を表示させる。


 アレハ、ふせいヲおかシテルやつノセイダ。

 われわれノセイデハナイ。


 と、さらっと言った。

 全く、罪の意識はない。

「……あ、あれのせいで、お、おおお、ぜいの人が……苦しん、でるのに……」

 アレを作ったのは、わたし達なのに。

 そして、不正を犯してる者も自分らの責任なのに。

 だが、目の前の相手はそれを否定した。悪いのは、不正を犯した掟破りだけで。

 自分らではない、と。

「あ、あんなものがなければ……誰も苦しまずに……」

 大柄の機械族は肩をすくめた。

「思考麻薬がなくても、変わらんさ。奴らは、馬鹿だからな」

 と、大柄な機械族はクチで言った。


 思わず、119204号は顔を見上げる。

 大柄の機械族はガスマスクを外し、その素顔をあらわにした。

 金髪の女性だった。

 すらりとした目鼻立ちで、双眸には迫力があり、美しい絵画より威厳あふれるヨーロッパの石像を連想させる。

「――え、ええええっ!?」

 ダイチは目を疑う。

 機械族が二人も素顔をあらわにした。これだけで、歴史に残る事態なのだが――それがまさか。どちらも正体が女だったなんて。

 多少、ダイチの価値観が甘ったるいせいもあるが、彼にとっては天と地がひっくり返るほどの衝撃だった。とてもじゃないが、機械族のイメージに女性らしさは皆無だと。

「相変わらず、地下都市の空気は汚いな。肺に悪いったらありゃしない。こんなので育てば、全員が馬鹿になるのも無理はないか」

 119204号は震えながらも、反論する。

「……ば、ばばば――馬鹿って……そんな」

「馬鹿じゃないってか? ははっ、だったら何故地下都市の奴らはこんなことしてんだ」

 彼女は両手を広げ、この楽園教全体を指し示した。周りからは、荒々しい騒音が聞こえる。たった七人を捕まえるはずの戦いは、いつのまにか擾乱となっていた。


 何かが壊れる音。

         何かが爆発する音。

                 殺せ、と叫ぶ誰かの声。

                        タスケテ、と叫ぶ誰かの声。


 あきらかに、ツバサやダイチ達を追うだけじゃない。関係ない者まで巻き込まれている。

 この戦いは、無意味に人が死んでいた。

 無意味に、惨劇が連続していた。

「こいつらはみんな馬鹿なんだよ。争いばっかして、他人を平気でふみにじり、自分のことばかり考える。しかも、それを何代にもわたって繰り返すんだ。。……結局、地下に隠れても人間がやることは同じだな。人類史は変わらない。つくづく思うよ。救いようのない馬鹿だってね。馬鹿は死ななきゃ治らないって人類史の言葉であるが。こりゃ、死んでも治らないな」

 大柄な女は冷笑した。

 そして、そのままの顔で119204号を見据える。

「まさかとは思うが、お前までこんな馬鹿になろうとしてるわけじゃないよな」彼女は突如開いた石畳の穴から、拳銃を取り出す。

「お……おかあ、さん……」

 重々しい、リボルバーの拳銃だった。

 おかあさんと呼ばれた女性――母は、撃鉄を引き起こす。

「答えろ。何で、お前はあの場に立った。そして、今後どうするつもりなんだ。答えによっちゃ――」


 057


 ■第二ライン、4ブロック。


 陸王丸と、騎士団団長のダンネルはまだ中央広場にいた。


 互いに能力を駆使して、死力を尽くす。

 言葉だけなら益荒男の好む美文だが、実際は周りも巻き込んだ殺し合いだ。両者はどちらも『風』を使う能力者。広範囲に攻撃が及び、彼らが拳を振るい、剣を振り回す度に石畳は吹き荒れ、建物は瓦解し、人々は血肉を散らして死んでいった。

「ぐおおおおおおおおおおっ!」陸王丸は叫ぶ。

 彼の攻撃は単調で、殴る、蹴るを工夫もなく繰り出す。九鴉のように洗練された動きはなく、歴戦の戦士というよりは大砲を持った赤ん坊に見えた。

 だが、それこそが厄介だ。

 九鴉のようなタイプは言ってしまえば、核となる強さがないからこそ、それを覆い隠すために技術でカバーする。惨めで愚かな姿を隠すような醜悪さだ。だが、陸王丸は違う。何一つ隠しはしない。何故なら、彼には核となる強さが明確に存在する。

「くっ――」ダンネルは、陸王丸の攻撃をさばく。

 その度に剣は軋みを上げ、雷さえも千切るような轟音がひびいた。

 ダンネルが使う剣は、人類史で『ロングソード』と呼ばれた種類のものだ。


<check>◆</check>

刀身はまっすぐに伸びて両刃、長さは80cmほどで、材質は鋼。

重さも相当あり、扱うにはそれ相当の筋肉と技量が必要となるが、ダンネルは難なく使いこなす。

</check>◆<check>


 ダンネルは剣を振るう度に風を切る。切られた風は剣にまとわり、ダンネルの能力で増長させ――風は剣とは別の刃となり、弧を描いて、あるものは直線に、あるものは石畳ごと斬り裂くように陸王丸に迫った。


 ――だが、壊された。

 ガラスを粉砕したように風は拡散し、周囲を破壊。


 陸王丸の風は、殴る・蹴るで巻き起こした風を倍増させ、大砲のような衝撃波を生み出す。

 ダンネルとは途中までは似ていても、結果は正反対のように違う。

 ダンネルは長い年月を経て完成された鮮麗さがあり、逆に陸王丸は昨日か一昨日で出来たかのような稚拙さだ。

 ダンネルが剣を振るうのも無駄ではない。より風の刃をイメージするために必要なのだ。けっして、馬鹿の一つ覚えではない。そしてそれは、才能を持った者の怠惰も一切無く、鍛錬を一日も欠かさなかった故の核であった。

「はっ」だが、陸王丸は鼻で笑う。

「なんで、小綺麗な戦い方だっ!」陸王丸の拳がダンネルの剣にぶつかる。

 剣は拳に傷をつけるどころか、陸王丸の力に圧されていた。

(く、くそっ――)

 陸王丸の風は全身を覆う鎧にもなる。

 戦いの最中、ダンネルは死角をつく攻撃もしたが、全て見えない何かに弾かれて霧散した。

 昼間、『牙』の者達と戦ったときと同じだ。

 陸王丸に銃火器による一斉射撃が行われたが、彼は無傷だった。

 そう、風の鎧で弾丸の起動をそらし、全て防いだのだ。

 彼はいつも豪快で思慮も足りないように見え、猪突猛進であるが、実際は馬鹿ではないし、不器用でもない。

(牙との戦いは、戦った動機がデタラメなだけで、戦いそのものは非常に計算された効率の良い戦いだった)

 彼なりに効率の良い戦い方だった。

「意外と、オメェ-、攻撃が単調なんだな」お前にだけは言われたくない、ということを平然と言う陸王丸。

「しゃーね、オラのとっておき見せてやんベ」

 陸王丸が、“わざと”単調な攻撃をしていたのも意味はある。

 ――ただ、九鴉のときはそれが逆に危うかったが。

 六番街の技術に対する嫌悪感というのもあるが、けっして技術を侮っているだけではなく、ちゃんと考えあってのことだ。


 ダンネルの目が見開く。

 陸王丸の拳が強大な風をまとい、勢いよく向かって――「馬鹿正直だなぁ」咄嗟にダンネルは、刀身を盾にして身構えてしまった。

 陸王丸はニヤリと笑い、真っ正面以外から風を起こして殴り飛ばした。

「がはっ――」

 ダンネルの四肢と、脇腹は強く打たれ、石畳を転がる。剣だけは離さない。「……ぐぅぅっ……」勢いがおちる頃には全身はすり切れ、ローブも血と石畳の汚れで赤黒く変色し、無様な姿を曝した。

 別に、陸王丸の風は殴る・蹴るで、体から放たれる“だけ”じゃない。

 今のように、何もないとこから風を発生することもできる。陸王丸が接近戦をしながら能力を使うのは、風を倍増させるためのイメージを上げる意味もあるが、何より彼が好むのはこういうフェイントだ。


(大抵の奴は、オラを馬鹿ど決めづける。だから、オラはラクしてフェインド決められる。愉快なこっダ)


 九鴉とは正反対のタイプといえる。

 九鴉は能力を持たないが故に、短期決戦か気配すらも感じ取られないように暗殺を行うが、陸王丸は違うのだ。

 彼は強大な力を持つ故に、それにふさわしい選択をした。無理にすぐ戦いを終わらせようとしない。気を焦るものではない。むしろ、絶対的なポテンシャルがあるのだから、確実に落とせるポイントだけを絞って、あとは無難な戦い方をすればいい。

 それが、陸王丸の戦略。とてもじゃないが、外見がパンツ一丁の筋骨隆々の大男が考えることとは思えない。

「オラに頭で負げるなんで、馬鹿丸出しだナァ」軽快に笑う、陸王丸。

 石畳に膝がつき、うずくまるダンネルの腹を蹴り飛ばす。


「団長っ!」


 巻き添えを喰らわぬように離れていた団員が、一人、戦いの舞台に入ってきた。

「――貴様、よくも団長を」

 彼は怒りで打ち震えていた。

 自身が尊敬する団長を嘲笑され、侮辱されたことに対する憤りもある。だが、何よりも怒っていたのは紛う事なき陸王丸の力のせいだ。

 それは、これまで騎士団こそが最強だと思っていた浅はかさ故か……ようは嫉妬だ。

 こんなものでも、この団員を突き動かし、勇気を振り絞らせて戦わせていた。

「神聖な場を汚すんでネェッ!!」

 叱責は突風のように吹きあれ、勢いよく飛び出た団員すらも吹き飛ばす。

「弱いどはいえ、正当な礼節の一対一で戦っでる者を……貴様、汚すづもりが!」

 吹き飛ばされた団員は目が点になる。

「な、何を言って」

 団員達は、けして恐怖で尻込みしてたわけじゃない。

 ダンネル本人に止められたのだ。この戦いは、お前達の入る余地はないと。それほど、超次元の戦闘だった。人間同士の戦いというより、兵器が互いに照準を合わせて撃ち合わせたよな戦い。

 それでも、騎士団の団員達は恐怖よりも先に団長に対して罪悪感を抱いた。


 我々は、全員が一丸となって騎士団のはずなのに――


 ダンネル騎士団のモットーは協調性。

 一人の誇りより、騎士団の誇り。何より、楽園教の信念を尊重し、守ることが優先される。

 故に、こうして戦いに巻き込まれぬように隠れていたのは、舌を噛み切りたくなるほどの屈辱で、自己の喪失であった。

「……まだ、この場に踏みいるづもりガッ……」

 陸王丸の全身から湯気のようなものがほとばしる。彼にとっては、団員達の想いは理解できない。

 彼にとっては団員達であることが問題なのだ。戦ってるのは己自身のはずなのに、何故、余計なものがわめいてしゃしゃり出てくる。

「お、おい。お前の相手は、このワタシだろ。部下達に手を出すな」

 ダンネルは腹を押さえながらも立ち上がり、剣を杖代わりにして陸王丸を止めようとした。

「――おい、やめろ!」

 だが、止まらない。

 陸王丸の雄叫びが重低音のように響き渡ると、団員達に向けて津波のような風が発生した。石畳の石は絨毯をめくるように吹き飛ばされ、地面がむき出しになり、それどころか土もえぐられて、周りにいた団員達を巻き込み、破壊の限りを尽くす。

 ……あとに残ったのは、唖然としたダンネルと惨状を前にたたずむ化け物。


「さで、第二ラウンドど行ぐガ」


 ダンネルはこのとき、怒りと恐怖が両方入り交じった顔をした。


 058


 大柄の機械族――母は、リボルバーの拳銃を119204号とは違う方向へ向けた。

 野太い銃声のあとに、遠くで悲鳴が鳴った。

 119204号には聞こえなかったが、母の耳にはCREDLEのおかげで届いている。視覚もガスマスクのゴーグルが遠視可能になり、数百メートル先の光景がのぞけていた。

 それは、リボルバー拳銃の射程距離の限界ギリギリだ。とてもじゃないが、常人なら不可能。狙えない。弾丸だって、それほど飛んだら威力はかなり落ちる。そんな弾道、狙って的に当てることなど不可能に近い。

 だが、機械族にはこんなことは容易い。

 CREDLE。

 機械族がそれぞれ所有してるガスマスクに、これは内包されている。

 それが、各機器に命令を与え、使用者を守り、ときに敵対者を排除する。

「女性だと分かると真っ先に牙を剥くか。やはり、地下都市の者はうす汚く、貪欲で、憎たらしい。何より知性がない、知能もない」馬鹿だ、と母は言った。

「やはり、こいつらは死ぬべきだな。馬鹿に生きる権利はない。価値もない。……腐敗した、ゴミクズだ。所詮、馬鹿で――ニンゲンか」

 119204号は、クチを開けながら沈黙していた。

 まざまざと、母の力を見せつけられたのはこれが初めてだ。

 これまでは、団体で行動すること事態が珍しく、母と行動を共にするのはそれ以上に珍しかった。

「お前がしでかした罪は、こんな奴らと関わったことだ。こんな奴ら、殺してしまえばいいんだ。奴らは弱き者を攻撃し、強き者にシッポ振って利用される。この楽園教がそうだろ」

 撃鉄を起こし、また引き金を引いた。

 母の持つリボルバーはS&W M500(スミスアンドウェツソン エムゴヒヤク)のコピー――人類史で有名だったのをモデルにしている。

 いくら大柄とはいえ、女性が持つ銃ではなく、というより人が片手で撃つ銃でもない。

 だが、母は片手で撃つ。

 反動は凄まじいもので、ガタイの良い男でも片手じゃ振り落としてしまう。

 それどころか、手首が骨折してもおかしくない代物だ。

 しかし、機械族が使うアノニマスはその反動を吸収し、外に拡散。実質、母に与える衝撃をゼロにする。さらに、鼓膜に来る銃声も吸収され、耳は何のダメージも負わない。鼓膜を突き破るどころか、耳鳴りすらしてないだろう。

 今の母にとっては、50口径の拳銃を撃ってるというより水鉄砲を撃ってるような感覚かもしれない。そう、鉄のドアさえも貫くような強力な水鉄砲――母が所有してるのはそれだ。それを、完璧に使いこなしている。

「あ、今の騎士団の団員だったな。まぁいいか」

 不可侵条約があった気がするが、一人や二人、問題ないだろ。

 彼女はシリンダーを外し、空になった薬莢を捨てた。

 カラカラッ――と転がる薬莢。熱を帯びたそれは、落ちても未だ衰えず。

「……で、ででで、でも――あの人達とわたし達は……同じ、ニンゲン」

「同じじゃない」

 母は言った。

「馬鹿なあいつらと、私達は違う」彼女はシリンダーに新たな弾丸を装填する。「馬鹿だから、自分にたまたま宿った能力なんかにすがり、弱者をいたぶって殺す。奴らと同じだと思うな。何遍も教えたはずだ――お前がここの空気を怖がったのも私がずっと教え続けて来たからだろ?」

 彼女は言う。

「ここは、馬鹿の巣窟だって」

 あまりにも容赦のない――地下都市に対する、絶対零度のような冷血さだった。

 極限まで高められた冷たさは、それ以上に行こうとしない。ただ、凍てつく眼で見るだけ。

「……だが、お前もその一人になるなら止めはせん。殺すだけだ」

 母は銃口を119204号に向け――と、突如地鳴りが発生した。

 小刻みに震える音が反響し、何事かと思うと、母の立っていた石畳が変形する。母はすぐさま離脱するが、石畳は人の腕のようになって、彼女を追いかけた。

「機械族があああああああっ」

 息も絶え絶えに、50口径で貫かれた肩を押さえながら男が睨んでいた。

 白いローブ、背中の団員番号は二桁。

 おそらくは騎士団の中でもエリート中のエリート――というか、母が現れる前までは、119204号に堂々と立ちふさがっていた相手だ。今じゃ、瀕死の落ち武者のようだ。

「死にさらせええええええええええええっ――」怒りで我を忘れていた。本来なら中立派の機械族を襲うなど、楽園教でも許されないことなのだが。

「馬鹿が」

 母は再びガスマスクを装着。

 ローラー靴を起動すると、壁から壁へと移動し、攻撃を避ける。


 ヤレ。


 と、命令を与えた。

 三人の部下が石畳から武器を出現、即座にアサルトライフルの三点バーストをお見舞いした。

 それぞれ、別の角度から放たれた7.62x39mm弾。団員は咄嗟に石畳の拳で防ぐが、火花がいくつも飛び散る中、徐々に徐々に削られていく。

「くそっ――何だ、その武器は!」

 地下都市の武器製造および流通は機械族が支配している。

 そのため、いくら楽園教といえど機械族が公表していない武器は知りようがない。

 アサルトライフル――人類史で最も広まった銃器の種類で、部下達が使っているのはその中でも一番のAK47をモデルにしている。

 弾丸の威力は母の拳銃よりも高く、なおかつ連射もできる。

「……まだダメだな」

 それでも、威力が足りないと母は言った。彼女は視覚に映した拡張領域で近くにある武器を検索――路地裏に降りて、壁を変形させて中から武器を取り出した。

 細長い筒のような形状。人類史では、RPG-7と呼ばれていたものだ。



「おい、小っちゃいの!」

 ダイチは119204号を呼んだ。

 119204号は両手で顔を隠しながら小刻みに震えている。ダイチの声は聞こえていないらしい。

(どうしたんだよ、さっきまでの威勢はどこいったんだよ)

 ばった、ばったと敵を撃ち倒した奴とは思えない。これが、本当にあの機械族なのか?

 九鴉や陸王丸、そして楽園教に匹敵する族の副リーダー・DORAGONにも引けを取らないあの生意気な機械族はどこにいった。

 ダイチは、119204号を抱きかかえる。

「………」

 彼女はまだ絶望に暮れて気付かない。めんどうだから、とダイチはこのまま運ぶことにした。

(ともかく、今はこの場を離れないと)


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