飛ぶための力①
莉々亜は走っていた。千鶴と雪輝が運ばれてくるというので、松波の医療処置室に向かっている。
千鶴が倒れた後、しばらくして松波の医療部隊が到着した。千鶴も雪輝もヘルメットを外した状態だったのでその場でハッチを開けるわけにもいかず、コックピット内の状況が把握されたのは機体回収後のことだった。
雪輝は千鶴の心肺蘇生で一命をとりとめたものの、代わりに呼吸が止まっている千鶴が操縦席の脇で見つかった。その時通信回線を通して聞こえてきた医療部隊の言葉に、莉々亜は耳を疑った。
「呼吸は停止してるのに、心臓は動いているぞ!」
それがどういう状態を示しているのか莉々亜にはわからず、とにかく呼吸をしていないことが怖くてならなかった。だから今こうして走っている。
処置室の前まで来ると、莉々亜は肩で息を整えた。まだ格納庫の方で応急処置が続いているのか、千鶴たちが運ばれてきた様子はない。莉々亜は両手を強く握りしめた。
「お願い! 助かって!」
「莉々亜ちゃん……」
追いついてきた陽介が呟いた。
その時、廊下の奥からストレッチャーを囲んだ医療部隊が走ってきた。
「千鶴君!」
「雪輝!」
目の前をストレッチャーが通過する。千鶴も雪輝も目を瞑り、一目で汗の量が尋常ではないことがわかった。
「千鶴君、起きて! 雪輝君も目を覚まして!」
身を乗り出したところを、陽介が腕を引いて止める。
「莉々亜ちゃん! 僕らはここで」
二台のストレッチャーと医療部隊が処置室に流れ込むと、無情に扉は閉じられた。『処置中』の赤い表示板が点灯するのを見て、莉々亜はへたり込んだ。
「ごめんなさい……! ごめんなさい!」
「きっと大丈夫だから」
莉々亜の肩に手を置いてそう励ます陽介の手も、強張りは隠せていなかった。
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