鳥を見上げる者たち③

「そうです。現在次世代戦闘機の開発は被験者のいないまま進められています。先立っての配備に試作機を一機。そして専属パイロット決定後、人工ROPロップシステムのテスト稼働により収集したデータをもとに、二機目の調整に入ります」


「そのような中途半端な試作機を全世界に公開しろと? 配備はフェスティバルを催して大々的に公開するのだぞ!」


 会議室全体を揺るがすほどの早乙女の威圧にも負けず、本田は淡々と答えた。


「試作機とは言え、戦闘機としては全く問題のない出来栄えです。ただ、次世代と言わしめる今回開発したシステムによって生み出されるエネルギーは未知数です。開発者である我々にも未知となる領域にパイロットをいきなり踏み込ませるのは危険なので、その稼働上限を抑えて設定しているのが試作機です。稼働上限が設定されている以外に二機目と劣るところはありません」


「なるほど。ではいざとなれば二機目も運用可能であるのだな。二機目の機体もすでに仕上がっていると聞いているが」


 早乙女のその問いに、本田は口をつぐんだ。「どうなんだ、はっきり答えんか」と早乙女が追い打ちをかける。


 隣の男が「まあまあ」となだめようとするも、早乙女は屈強そうな体躯の腕を組んで睨み上げた。


永野ながの防衛大臣」


 本田がそう呼びかけると、早乙女をなだめようとしていた男が顔を上げた。


「先ほどにも申し上げた通り、二機目はリミッターが未設定のため危険度も潜在能力も未知数の機体となります。簡単に動かすわけにはいきません」


「ではどういった条件がそろった時に動かすか、今後検討が必要ということか。そうでないと動かすわけにはいかんということだろう?」


「条件は、パイロットです。どんな人物が動かすのか、それが一番重要なんです」


 本田は語気を強めたが、永野が肩をすくめた。


「だがすでに候補は絞られている。先ほど早乙女航空宇宙幕僚長が言った通り、利賀一等宙士以外の候補を挙げるのは難しい」

「ですから、その候補者がどんな人物であるのか、専属パイロットに任命する前に私に調べさせていただきたいんです!」


 前のめりになって本田は言うが、早乙女が「小娘の一存に任せろと言うのか!」と声を張り上げた。


 目の前で繰り広げられる迫力ある展開に、はたから見ているだけの斎藤でも涼しい顔を取り繕うだけで精一杯であった。


 早乙女に立ち向かっている本田の足は震えているように見える。


「私は、自分が開発したもので人を不幸にしたくはありません。しかし次世代戦闘機は兵器です。だからこそ、せめて、信頼できる人物に預けたい。それだけなんです!」


 そこまで言って深呼吸をすると、本田は自分を律するように白衣の背筋を伸ばした。そして、堂々と言い放った。


「パイロットが信頼に値する人物か見極めるまで、二機目の次世代戦闘機の起動パスワードは誰にも明かしません!」


 彼女の宣言に、会議室がざわめきに満ちた。

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