鳥を見上げる者たち②

「いくら彼の操縦技術が高くとも、彼はまだ学生だ。その点は考慮しているのかね?」

「防衛官か学生かなどは関係ない」


 答えたのは斎藤ではなく、最前列に座っていた聴衆の一人だった。胸に数々の勲章を光らせる岩のような強面のその男は、地響きのような低い声で続けた。


「重要なのは赤色人種かどうかだ」


 会議室の空気がこの男の一言で張りつめた。隣に座る男が、やれやれといった様子で「早乙女さおとめ航空宇宙幕僚長」と呼び止めるが、気にも留めずに強面の男――早乙女は続ける。


「学生とは言っても、いずれ防衛官となる候補生だ。陸・空・海・宙全ての防衛隊と防衛官学校を見てもただ一人。もしここでその小僧を候補から降ろせば、防衛関係外から候補を連れてくることになるが、そもそも全世界を見渡しても成人した赤色人種はおらん。文句があるなら代案を出せ」


 言葉に詰まった発言者と緊張したこの場の空気をなだめるように、早乙女の隣の男が和やかに言った。


「まあ、まだこのプロジェクトは試験段階だ。すぐに彼を戦地へ追い立てるわけではないし、そもそも我が国はどの国とも戦争はしていない。それに、肝心要の新兵器も完璧に仕上がったというわけでもないと聞いてるがね、本田ほんだ特任研究員」


 その問いかけに立ち上がったのは、白衣に身を包んだ女性だった。


 無言で壇上に向かってくる。低い位置でまとめた髪に眼鏡をかけた姿は、特任研究員という彼女の肩書を体現するように知的であった。


 斎藤が下がると、本田は堂々とマイクの前に立った。


「今お話にあった次世代戦闘機についてですが、今春に予定されている配備には間に合うよう、すでに最終調整に入っています。ただしその機体は試作機とお考えいただければと思っています」

「試作機だと?」


 早乙女の地鳴りのような声が響く。しかしひるむことなく、本田は頷いた。

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