鳥を見上げる者たち①

 航空宇宙防衛本部の地下、何重ものセキュリティを施された会議室。照明の消されたホールのようなその部屋を、巨大なモニターの光のみが照らしていた。


 モニターを見つめる面々の顔をはっきりと照らし出すほどの光量ではなかったが、僅かな明かりにも浮かび上がる彼らの胸章や勲章は、彼らが航空宇宙防衛隊の上層部であることを示していた。


 モニターには青空の中を飛ぶ一機の白い戦闘機が映し出されていた。大空を泳ぐようにすいすいと身をひるがえしながら、敵機という設定の緑と黄色の戦闘機の追尾を逃れている。それはなかなかの近距離での攻防で、一見白い戦闘機が危機的状況にあるようだが、よくよく見ると面白がって煽っているようにも見えた。


「どうだ、彼の操縦技術は?」


 会議室の端に立っていたスーツ姿の青年、斎藤さいとうが尋ねたのは、隣で腕を組んでモニターを見つめている隊服の青年だった。壁に背を預け、目深にかぶったままの制帽の下で上目遣いの瞳が面白そうに細められた。


「格が違いすぎる。同期の学生が相手では話になっとらんではないか」


 彼の言葉を裏付けるように、仲間の白い戦闘機が現れたとたんに急上昇、急降下を立て続けに行い、前方におびき出した敵機を軽々と疑似撃墜させてしまった。


「ペアの試験でなければ、わざわざ仲間と連携するほどでもなかっただろうな」


 そう鼻で笑う彼に「そうか」とだけ言って、斎藤は演台に向かった。


「今ご覧いただいたのが、つい今しがた行われた二年生の合同試験の映像です」


 演台のマイクを通して聴衆に語り掛けながら、モニターを切り替える。隊服に似た白い制服に身を包んだ、赤い髪に緑の目の少年の顔写真が映し出された。写真の横にはこれまでの華々しい実技科目の成績が並べられている。


「座学科目はさておき、実技では櫻林館おうりんかん史上トップレベルの成績を残しています。防衛官の皆様であれば先ほどの映像で一目瞭然かと思いますが、進級に関わる試験と言えど、同期の学生が相手ではもはや彼にとってはお遊びでしかありません。いかに彼の操縦技術が突出しているか、おわかりいただけたと思います」


 続いてモニターに映したのは、身体データであった。


「皆様が一番懸念されているであろう赤色せきしょく人種特有の幻覚症状についてですが、彼の場合、パイロットとして致命的となるその発作は、提出された公的な医学書類によって過去五年一切出ていないことが明らかとなっています。万一があってはならないので投薬治療は続けているようですが、念のための処置であるので健常者と同等に扱って差し支えないと、すでに入学審査の際にも結論付けられています」


 次々と訓練や日常の写真をモニター上に並べ、健康的な体躯の赤い髪の少年が活発に櫻林館での日々を過ごしている様子を聴衆に見せつけた。


「したがって、彼はこれより設立する特殊部隊のパイロット候補として全く問題ないと思われます」


 そう締めくくったところで、手が挙がった。

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