もう一機の次世代戦闘機③

 慣れない大気圏突破の直後、莉々亜は吐き気を抑えて慌ただしく動いていた。


「本田先生、管制デスクはこちらです」

「ありがとうございます」


 白い制服の防衛官に示されたデスクは松波の操縦席の間近にあった。艦長とのコミュニケーションも通信を介さず直接行えるメイン管制デスクだ。そこに黒い戦闘服のままの陽介が座っていた。早速千鶴のデータを呼び起こしている。


 それを後ろから覗く莉々亜も黄色のブラウスとショートパンツに千鶴のパーカーを羽織っているので、白い制服の防衛官たちの中で二人は異様に目立っていた。


 けれどもそんなことを気に留めている場合ではない。莉々亜はデスクに案内してくれた防衛官に臆することなく言った。


「ノートタブレットも用意してください。次世代戦闘機の初期起動に使います」


 防衛官は敬礼をしてすぐにその場を後にした。


 そこへ常影がやって来た。


「葉山二等宙士、いけそうか?」

「問題ありません。櫻林館でこれを使うための訓練を積んでいるので」


 その言葉通り、陽介は手早く管制のためのセットアップを進めてゆく。


「頼もしい。さすが葉山家は多才だな」


 常影が満足そうに言ったところで、青いつなぎの整備官がやってきた。


「本田先生、次世代戦闘機の設置が完了しました。とはいっても、コンテナから出して固定しただけですが……」


「充分です。後は私がやるので整備官の方は引き上げて下さい。場所はどちらですか?」

「第三格納庫です。私がご案内します」

「助かります。パイロットは?」

「第三格納庫のパイロット用待機室です」

「わかりました。すぐに向かいます」


 莉々亜は陽介に「行ってくるわね。また戻ってくるから」と手早く告げて操縦室を出た。


 案内役の整備官の後を歩き、真っ白の廊下を早足に進む。


「こちらが第三格納庫です」

「ありがとうございます。初期起動が済む出撃までの間、ここから先は国家機密エリアとします。整備官を含む全ての隊員は立ち入らないよう伝達をお願いします」


 敬礼をした整備官が立ち去るのを見送ってから、莉々亜はポシェットからヘアゴムを取り出した。手際よく小麦色の長い髪をポニーテールにまとめる。


「よし」


 自分に何かを言い聞かせるように頷くと、莉々亜は第三格納庫に足を踏み入れた。

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