Ep.13 決定~Decision~
「よし、全員集まったようなので説明を始めよう。確かウィルとディーナには去年話したんだったな」
ウィルとディーナが頷く。雪にとっては何のための確認かよく分からなかったが、アーリーはそういう人だ、ということで納得しておいた。
「だったらまず理解してもらうべきはユキとノエルか。ノエルは武器を作った事もあると聞いたから、もしかしたら知っているかもしれないが、そこはユキのためだと思って黙って聞いておいてくれ」
「言われなくても黙って聞いてるんだけど。よっぽど信用ないのかねぇ、私って」
ノエルが口を挟む。彼女的にはこれでも黙って聞いているほうなのかもしれないが、雪が見たところ、いつもとそう変わらないように見える。
「いいから黙って聞け。こちらとしても、面倒なことは早く終わらせたいんだ」
「はいはい、じゃあどうぞ話してもらえないでしょうかねぇ。こっちは準備万端なんで」
反省する気ゼロだ。まあ、もともとこういう性格だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「それでは、改めて説明を始める。まずは、今回行われる大規模演習の目的と主催者だ。言っておくが、この演習は軍だけで計画されたものではない。毎年一度、著名な対サテライト用兵器の製造会社達がスポンサーとなって行われるこの演習だが、今回の第一スポンサーはディリス・オービタル社、主に近接兵器や補助武装を主として研究している会社が入った。確か、ウィルのクロウスライサーもディリス社のものだったはずだが」
「うん、あそこの近接武装は軽くて使いやすいからね。それに壊れにくいし」
ウィルが自慢げに腕を組む。
この分隊で兵器会社の近接武器を主装備として装備しているのはウィルだけだ。雪の武装はノエルの作った雷火だけなので、そう考えると今回の主催会社に最も世話になっているのはウィルだと言えるだろう。
「それで今回の演習形式だが、二対二の先鋒戦、二対二の中堅戦、そして一対一の大将戦からなる団体戦だということが決まっている。ただルールや場所については未定だ」
「二人と二人と一人……ってことは全員出るんですか!?」
「そうだ。そもそも分隊同士の対人演習だからな、当然のことだ」
勝てない。絶対に勝てない。いくら戦闘に慣れてきたとはいえ、対人戦など一度もやったことのない雪では一方的にボコボコにされるのが関の山だ。
「無茶ですよ! ただでさえ今でも二体一で敵を倒せるかすら怪しいのに、飛び道具まで使ってくる人間相手にどうやって勝てっていうんですか!?」
「落ち着け。いくら私でも、今のままで戦えとは言わんさ。幸い演習までには数ヶ月ある。その間に対人戦にも応用できる技術を磨けばいいだけだ 」
雪は拍子抜けした。なんだ、まだそんなに時間があるのか。それならなんとかなりそうだ。
「ねえアーリー、そういえば、今回僕ら以外のチーム、どんな感じの構成になってる?」
「前回とそう変わらんぞ。ただ、うちの第一分隊メンバーが個人戦部門に割り振られていたから、その分決勝には残りやすくなったんじゃないか?」
ウィルに尋ねられたアーリーが冷静に判断する。強者なりの余裕なのだろうか。
雪にしてみれば個人戦部門と団体戦部門に別れているというのも驚きだが、それよりも前回はここの第一、第二分隊が両方とも団体戦の試合に出ていたというのがさらに驚きだ。他の普通の部隊がかわいそうだとも思えるほどの一方的な試合だったのだと考えられる。
「僕らの方も二人入れ替わったから、どっこいどっこいじゃないかな。まあ、対人戦でディーナがお荷物になるのは変わらないけど」
「五月蝿イ、コチラダッテアレデ必死ダ。アノ武器ヲ対人戦デ使ワサレル私ノ身ニモナッテミロ……」
ディーナがしょんぼりとうつむく。確かに対戦車砲を人に命中させるのは至難の技である。というかそもそもサテライトに当てるのすら普通の人間ではほぼ不可能だ。
「いやいや、そういうことじゃなくて、ディーナも何か近接武器、予備として持っておいたほうがいいんじゃないかなー、って思ったんだ。どうかな?」
「ソウカ……考エテオコウ」
ディーナが興味なさそうに呟く。どうやら近接戦闘は苦手分野のようだ。
「そういえばアーリーさん、さっきからあそこでイリスちゃんが今の話聞いてたんですけど大丈夫なんですか?」
雪がソファの方を指さす。
そこには、突然自分の名前を呼ばれたことに戸惑っている様子のイリスがいた。ソファに隠れて顔の半分から下は見えないが、目がこちらを向いている事から察するにずっと話を聞いていたと考えて間違いない。
いや、別に彼女は最初から話を聞こうとしていたわけではなく、アーリーに連れて行かれた雪にくっついて来ただけである。ちょうど話が始まったから聞いていた、と言うほうが正確かもしれない。
「構わんさ。どうせ知ろうと思えば誰でも知ることができるレベルの情報だからな。それに、主催者側としても、できる限り多くの人にこの演習のことを知って欲しいはずだからな」
「確かに、それもそうですね。流石にここまで小さい子に知って欲しいとは思わないでしょうけど」
あはは、と雪が苦笑する。
主催者側は、この大規模演習に巨額の資金を出している。だが、単なるボランティア精神だけでお金を出すほど社会は甘くない。自らの会社の兵器をアピールする場を求めて、主催者となる会社も数多いのである。
「そうだ、どうせならノエルもスポンサー、やってみたらどうだ? 三億円で一分間のアピールタイムが付くらしいからな」
「私そんな金持ちじゃねーですぜアネキぃ。っていうかそもそも売る気ないから」
うねー、という効果音がつきそうな顔をしながらノエルが突っ込んだ。
いや、本当にそういう顔なのである。普通の人には出来ないほど緊張を解いた顔、とでも言えばわかりやすいだろうか。
「ハハッ、知ってるさ。単にからかっただけだ。そもそも参加者はスポンサーになれない規則がある」
「だったら言わないで頂きたいねぇ。さっき面倒なことは早く終わらせたいって言ってたくせに」
珍しくノエルがまともなことを言った。自分でからかうのはよくて、他人にからかわれるのは嫌だということか。まったく都合のいい話だ。
「まあ、たまには良いじゃないか。それより、これでもう報告は済んだから、何か質問があれば答えてやろう。ユキ、何かあるか」
「私は特に。強いて言えばもう少し試合について聞きたいですけど、まだ未定なら仕方ないです」
「そうか。それではこれで解散でいいか……おっと、そうだった。雪とノエルの二人は、明日の朝八時、朝食を終え次第、玄関前の芝生庭園に集合だ。いいな?」
唐突な命令。雪もノエルも理由が全くわからないようで、二人とも仲良く首を傾げている。
「なに、特に罰とかそういうことではない。単純に、今回の演習にあたって、二人の対人戦闘能力を知っておいたほうがいいと思ってな。明日は特に二人とも予定はなかったはずだが?」
「ああ、そういうことですか。特に予定は無かったはずなので多分大丈夫だと思います」
「用事がなくてもやりたくないなー、やだなー」
ノエルがうるさく喚き散らす。さっきまでの常人っぽさはどこへ飛んで行ってしまったのだろう。
「駄目ですよ。ノエルさん、強制しないと何もしないんですから」
「いやいや、好きなことは強制されなくても普通にするけどねぇ。ゲームとか、武器作りとか」
めんどくさい。雪は、これ以上ノエルにかまっていても意味が無いと考え、もう一度アーリーの方を向いた。
「そういえば、イリスちゃんのことなんですけど、取り敢えず今日は私の部屋に泊まらせる、ってことでいいでしょうか?」
「ああ。正式に部屋が割り当てられるまではそうしてもらえるとありがたい。よろしく頼んだぞ」
はい、と雪が返事をする。これでしばらくは二人部屋に三人で生活することになりそうだ。ノエルは、こんなところに三人もいるんじゃ狭い、というだろうが、そもそも彼女が決めたことだから仕方がない。
四人が部屋に帰って行った後、雪がふとイリスの方を向いた。いつの間にやら彼女は寝てしまっていたようで、すうすうと寝息を立てながらソファに横たわっている。
時計を見てみると、もう夜の十時三十分だ。いくら旧市街で生活していたとはいえ、彼女も小さな少女だ。むしろこんな時間まで起きていた方が不思議というものだろう。
雪は、彼女が起きないよう小さな声で「おやすみ」と言うと、そうっと体を持ち上げ、自分の部屋へと運んでいったのだった。
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