12日目-エスバイエル・極秘依頼-
攻撃魔法全振り魔導士と申し訳程度に戦闘士のスキルを使いながらプレイしている
赤髪をポニーテールに纏めた長剣使いの戦闘士シノレス、胸の辺りまで緑色の髪を伸ばしている色白の弓使い戦闘士アリエル、銀髪を短く切り揃えた回復・強化魔法専門魔導士カーラと一岡はゲームを始めてすぐの頃に請けた討伐依頼で共同戦線をはってからの付き合いだった。
単身で突入して剣を振るうシノレスを守るように後ろから物理と魔術が飛び交う……という見事な連携が偶然にも取れたことがこの即席パーティが依頼完遂後も解散しなかった大きな理由だった。
「もしもしそこの傭兵さん方、相席してもよろしくて?」
酒が何杯も入り陽気になってきた頃、彼らに1人の安っぽい茶色のフードをかぶった男が話しかけてきた。
食事時で店内が混み始め、単独の席が空いていないことを把握していた一岡達は快く了承した。
座った後フードをおもむろに脱いだ男の顔はやややつれていて、まだそこまで歳を取っていないように見えるのにその髪は真っ白になっていた。
「皆さん、仕事終わりですか?」
店員が持ってきたお手拭きで手や顔を拭いたフードの男は一岡達の装備を見た。
宿屋に戻って着替えず、ギルドから直に酒場に来ていた女性陣が気まずそうな表情を浮かべる横で一岡は平然と答えた。
「はい。そんな所です」
「それにしてもなかなか良い装備を使ってらっしゃいますね。それだけ整えられているということはギルドに貼り出されてる依頼は余裕で遂行できてるんじゃないですか?」
「分かりますか?」
「確かに、今日の依頼3枚とも楽勝だったわね」
「そーなんですよ! この剣、サヴィアルドンの左腕で作られてるんですよ!」
男の読み通り、このパーティが組まれてから依頼を失敗することはなく、つい最近皆でワンランク上の武具を新調していただけに一岡達は気を良くした。
そんな彼らに男は唐突に申し出た。
「……ではそんな実力者な皆様に私の依頼を請けてもらう、なんてことはできませんかね」
「へ?」
一岡がキョトンとする一方、女性陣は真顔に戻り男に値踏みするような視線を向けた。
「それは、ギルドを通さずに、って意味?」
「そうですね」
「ってことは相当訳ありの用件ってことかい?」
アリエルがわざとらしく首を傾げながら問いかけると男はフード越しに頭をかきながら頷いた。
「ええ。ギルドに出したら相当な
「ふーん……詳しい話を聞かせてもらえるかしら」
カーラが発言の先を要求すると男は口角を上げながらも声を潜めた。
「もちろんです。問題のモンスターですが……ドラゴンなんです」
「ドラゴン?」
一岡とシノレスが聞き返すと男はジョッキに注がれたお茶を口に入れた。
「ええ、見た目こそは綺麗な鱗に身を包んだ美しいモンスターですが、その実は凶悪なモンスターで。今から20年ほど前にはオークンという街を襲い、多くの建物を壊すなど多大な被害を出したんです」
「オークン……確か西に行った所にある町だったっけ」
シノレスが口を左の拳で覆いながら自身の記憶を探る横で男は続ける。
「それからしばらく行方を暗ましていたんですが、つい最近そのオークンの近くに現れたという情報を掴みましてね」
「場所は?」
「ドラゴンが昔根城にしていたという……地元住民からは『竜のあぎと』と呼ばれている崖の近くです。私は元鞘に戻ったのではないかとよんでますが、どこに巣があるかまでは」
「それだけのことをやったのに今追いかけられてない理由は?」
「当時の傭兵達がそのドラゴンを討伐できなかった上に、死者が運良く出なかったからでしょう。さらに言えばそれ以降表立った活動をしなかったので時効扱いになったのかと」
「傭兵達は挑んだけど敗れたのか?」
「いえ、見つけられなかった、といった方が正しいでしょう。噂ではそのドラゴンは人間の姿に化けることが出来るらしいので、ドラゴンの姿だけを追っていたら見つけることは不可能です」
自分やシノレスが出した質問にスラスラと答えていく男の様子にアリエルは思わず唸った。それらを目をつぶりながら黙って聞いていたカーラは目を開くと下衆な質問を告げた。
「もしよ、もしそれを請けたとして、あなたはどれだけの報酬をくれるのかしら?」
「前金としてこれを」
男はカーラが言い終わる前に銀貨を1枚テーブルに置き、真ん中に寄せた。
「私としても相手がどれだけ強大な存在かは分かっておりますから。討伐できた時はこれにもう3枚ほどつけましょう」
男は懐から財布を出すとそこからさらに3つの銀貨をちらつかせた。
依頼を達成出来れば銅貨1000枚分の価値を持つ硬貨が複数枚手に入るというあまりの好条件に4人の顔は引き締まった。
また、その物体を目にした時点で彼らの頭の中に「断る」という選択肢は消え去っていた。
「討伐出来たら証拠としてドラゴンの頭を持ってきてください、全身はバッグの内容量を考えると無理でしょうから。あと報告をする時はここで私の名前を出して下さい、もしその時店舗にいなくても待ち合わせ場所を指定して下さればすぐに出向きますので」
その反応に満足した様子の男は懐から連絡先が書かれた名刺を4枚出し、一岡達全員に1人1人丁寧に渡していった。
その頃、宿泊部屋に備え付けられていた机に座っていた新本は「街中に流れる用水路の大掃除」という依頼で借り出されたモップ片手にオカシンキンを走り回ったついでに住民から聞きまわった白竜の話を書いた紙をまとめていた。
常に白いドレスに身を包んだ肌の白い金髪の女性、でもそんな美貌とは裏腹に大酒飲みで笑い上戸で誰にでも優しく厳しいお姉さんみたいな存在。
オカシンキンに来ていたのはだいたい30年前。彼女はあてのない旅をしており、その道中で町の雰囲気が気に入り比較的長く滞在していた……それらがオカシンキンで聞けた白竜の評判と素性だった。
聞けたのはほとんど好意的な証言で、悪い噂は聞けたとしても、酒やつまみを大量に食って帰るので翌日の仕入れの量が増えて大変だったなどの難ぐせのような愚痴ばかり。
ただ言っている方も懐かしむような笑顔なのでそこにギスギスした印象は全く無かった。
他には身寄りはない、意外と小心者、酒は辛口の方が好き、炎を吐いてみてと頼んだら「吐けるかボケ」と返されたなど、約1日かけて聞き回った甲斐あって参考になりそうな物から絶対にならない物まで新本は網羅することが出来た。
その中でカットガン商会の執事や烏酒場の主人が匂わせていた「事件」については、この町を旅立ってからしばらく経った頃オークンという町で「タリスマン商会」というお店と一悶着を起こしたというのを風の便りで聞いた……という情報を聞くことを出来た。
しかし当時現地にいたり後で自分で調査しに行ったりした人はおらずそれ以上の詳しい様子や理由などの情報を聞くことは出来なかった。
そのため建物の謎は解けたもののそれよりも重要な謎が宙ぶらりんになってしまった。
「烏酒場のおじさんとか八百屋のおばちゃんの『騙されてたらしい』って証言も気になるんだよなぁ……となると、オークンに行かなきゃ話は進まないか。……確かオザキとかと違って近場にあったよな」
これ以上オカシンキンに残っても白竜に関するさらなる情報は出てきそうになかったため、新本は小さく息をつくとオークン行きの馬車がないかどうか時刻表の確認を始めた。
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