28日目-ジョンリュン郊外・崩壊-

「……帰ってこんの。本当に今も住んでおるのか?」

「わからん。けど待ってみるしかないだろ、唯一の情報だし」

 ″山小屋に小さな鬼が住みついた″

 そんな噂話を聞きつけたのはジョンリュンの東の片隅にある小さな農村で聞き込みをしている時だった。

 しかし夜にもかかわらず地元の猟師も使わなくなって久しいという朽ち果ててボロボロになった木造の小屋に灯りは全くついておらず、割れたガラスの穴からも物音一つしなかった。

 だからこそ入口からは見えない小屋のすぐ横で堂々と会話ができるのでもあるが。

「おいお主、なんか面白い話でもせんか。遊びでも良いぞ」

 退屈になったのか大あくびを浮かべて言う白竜に新本は少しだけ苛ついた。

「じゃあしりとりでもするか?」

「お、いいの。じゃあ『りんご』」

「『午前』。はい終わり」

「おい」

「しっ」

 何かに気づいた新本は口元に指を当てて促すと白竜は不満そうに口を尖らせながらも黙った。

 その直後、山小屋の壁が爆音と共に吹き飛んだ。新本達が隠れていた壁が支えを失いゆっくりと倒れて姿が露わになってしまうと声が聞こえてきた。

「これだけの火力なら生きてない……ん? なんかいるぞ?」

「まだ生きてんのか⁉︎ 」

「ち、ちょっと待て……」

 相手のセリフに危険を感じた新本が立ち上がった瞬間に見たものは鬼気迫る表情で刃を振りかざした大男の姿だった。

 火によって赤く染まって見える刃が振り下ろされたところで新本の意識は、飛んだ。


「はい、お疲れ様でした」

 寝台に横たわっていた新本が首だけ動かすと真顔でボードを持っている女性の姿があった。

「……お疲れ様です」

 見覚えのあるがゲームの世界では見なかった服を着ていることで新本は今の状況を察して天を仰いで息を吐いた。

「お給料は実験前に教えていただいた口座に振り込ませていただきます。明細はいかがなされますか?」

「別にいいです……。あの」

「なんですか?」

「あのクエストをクリアできてたらどうなってたんですかね」

 しばらく、もしくは永遠にやることが出来ないかもしれないゲームの先が気になった新本が何の気も無しに呟くと女性はボードに挟まれていた紙を何枚かめくった。

「えーと……闇ギルドで依頼を受注して殺すと30万G。王族から依頼を受注して殺すと150万G。ベール卿から依頼を受けて救出すると30万Gとジョンリュン領民達からの好感度が大きく上がり、ベールきょ……」

「あ、もういいです」

 予想外に多くの選択肢があることに驚きながらもだんだんと虚しくなってきた新本は聞いておきながら片手で女性の言葉を封じた。

「そうですか。では気分が良くなりましたらおかえりくださいね。エレベーターに乗れば入口に戻れますので」

 そう一礼すると女性は窓一つない殺風景な部屋から出て行った。

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