24日目-ジョンリュン・状況把握-

 夜も更けて灯りの点いているの建物の数も少なくなってきた頃だった。

 何も変哲のない木の扉。それと床の間にある僅かな隙間から水色の液体がジワジワと浸み出してきた。

 液体はまるでそのままスライドしてきたのように形を崩すことなく歪な楕円形を維持したまま室内に流れ込むと磁石に吸い寄せられる砂鉄のように盛り上がり始めた。

 盛り上がった液体は人の形になると少しずつ目鼻などのパーツを作り出した。

 そして口をパクパク動かし自分の思い通りに動かせることを確認してから声を出した。

「ただいま」

「やけに遅かったの……」

 その声に目をこすり眠そうにしながら白竜が寝転がっていた寝台から起き上がってくるとスライムは悪びれる様子もなくあっけらかんに返した。

「人、多くて、中々、出れなかった」

「そうか。で、居処は掴めたのか?」

「ダメ。あっちも、必死、探してる、みたい。メイド、話してた、盗み聞き」

「それだけでも十分だ。少なくともまだ死んでないことがわかる」

 2匹が声をした方を向くと新本が飲み物が入ったマグカップ片手に部屋の中へ入ってきた。決して大きな声で話していなかったにもかかわらず、壁越しから話を聞いていたらしい。

「それで、予測も全くついてないお手上げ状態だったのか?」

「たぶん。作戦会議室、っぽいとこ、あった。地図、罰印、ばかり」

「じゃあ逆に描いてなかったところ教えてくれ。覚えてるだろ?」

 新本はテーブルの上に無造作に置いていたバッグから地図本とペンを取り出すとジョンリュン周辺の情報が書かれたページを開いた。

「見にくく、なる、大丈夫?」

「今回の件がうまくいったら何十冊でも新しい物買えるから構うな」

「わかった」

 そうして頷いたスライムがペンを走らせた結果、緑色が大半を占めていた複数のページはほとんど黒色に塗りつぶされた。

「……相当広範囲に調べてんな」

「見てる時、罰、増えてた。みんな、険しい、顔」

「だろうな。唯一の跡継ぎが行方も生死も不明となったら」

「一応娘もいるらしいから婿養子を取ればそこは大丈夫じゃろ」

「今はそこが問題じゃない」

 白竜の的はずれな指摘を一言で切り捨てた新本が黒くなっていない地点の情報を流し見ると、その眉間にみるみるシワが刻まれ始めた。

「どれもこれも山岳地帯じゃねえか……やっぱり隠れられる場所も多いからか、探しにくいからか」

「盛り上がってるところ悪いが妾はもう寝てもいいか? 流石に眠い」

「いいですよー、おやすみ」

 自分の意見に良い反応がなかったからか、白竜は新本の返答を待たずに布団の中に潜り込んでしまった。

「こういう時にマーカーとかあれば楽に見つけられるんだけどなぁ……リアルとファンタジーを融合って意味ではこの展開が正しいんだけどさぁ」

 他のRPGのようなヒントがなく、思い通りにならないことに苛つきながら地図を叩く新本の傍らでスライムは目を閉じて寝ているフリをしている白竜の頬をプニプニとつついていた。

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