第23話

「これ、本当に人間の力ですの?」

真っ二つにされた本棚を見て、アリシアは唖然とする。

「おそらく、我々と同じような存在かと。勇者さん、大丈夫ですか」

駆けつけたアリシアとネロに

「もう少しで、床にめり込んでいた所だ」

手が痺れると続けたセルディックに

「軽口が叩ければ十分でしょう」

「うるせー」

アリシアはセルディックに近づくと

「左手、怪我をしてますわね」

「ちょっと、剣で斬っただけだ。とっさに、引き抜いたからな」

アリシアは鞄から応急手当用の札を取り出して、セルディックの左手へ巻きつける。

「これで、少しは傷の治りが早くなりますわ」

「……アリシア」

「勇者……」

少しの間、見つめ合うと

「お前、女の子だよな?」

「い、今まで何だと思っていましたの!?」

「勇者さん、怪我なら僕が完璧に治してあげたんですが」

ネロの言葉に

「お前は、ぼったくりをするから遠慮する」


「このカエルめ!」

姉の顔に張り付いていたカエルを、ヘカーテは窓から外へ投げ飛ばす。

「姉様、しっかり」

「こ、姑息な真似を」

ヨロヨロと立ち上がったルーナに

「いや、オレが命令したわけじゃないから」

セルディックはため息をついた。


「姉様、こうなったら……」

「サタンに、私たちを喰わせて……」


「喰わせてどうするの?」

澄んだ声と共に、銀色の鎖が双子に巻きつく。


「いやあああっ」

「きゃあああっ」


「はい、ボッシュート」


双子はベールを被った女性の影へと飲み込まれていく。


「ごちそうさまでした」

からくり人形のスカートの中に、銀の鎖が収納されていく。

「は、母上……」

目を大きく見開いたセルディックに

「お久しぶりね」

ベールを被った女性が少し微笑む。

「まさか、二人を」

「そんな野蛮なことはしてないわ。サタンを取り上げて、教会の地下牢に送っただけよ」

ミリアムが手にする少女のからくり人形ーーレヴィアタン。

「近くで見ると、本当に綺麗ですわ」

頬を赤く染めているアリシアを見て

(聖女様は、女性の方を虜にする能力に長けているような気がしますね)

「ネロ、セルディックのお守りは大変でしょう」

ミリアムの言葉に

「……え、ああ、そうでもありませんよ?」

「なんで、疑問形なんだよ」

セルディックは肩を竦める。

「アリシア姫様、宴会の席では大変失礼なことを」

深々と頭を下げたミリアムに

「そ、そんな……た、確かに許せませんけど、でも勇者はわたくしに惚れていますわ。ここは、広い心で許すべきなんて……」

アリシアはブツブツと妄想を語りだす。

その光景を横目に

「自信過剰過ぎだろ」

セルディックはため息をついた。

「母上こそ、どうしてこちらに」

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