第21話

舗装された道の先には、破棄された研究室。

「勇者さん、この場所を見たことは?」

ネロが聞くと

「……あるような、ないような」

「はっきりしませんわね」

アリシアが肩を竦める。

「にゃー、にゃー」

ベルゼブルは、ついて来いと促すように尻尾を揺らす。

「まあ、ベルちゃんの方が物知りですわ」

「……お前が知ってるってことは、来たことあるのかもな」

ベルゼブルの後について進んで行くと

「みゃー」

毛並みのよい白い猫。

「可愛らしいですわね」

愛嬌のある白いメスの猫を見て、アリシアが目を細める。

「に、にゃー」

「そも時、カミナリに打たれたような衝撃が、とベルゼブル様は動揺しています」

ネロが解説。

「みゃー、みゃー」

「にゃー」

白猫の後を付いていこうとしたベルゼブルを

「正気に戻れ、それはただの畜生だ」

セルディックが止めようとする。

「にゃふー」

「止めるな、自分は愛に生きるとベルゼブル様が言っています」

ベルゼブルは、白猫の後を追いかけて行ってしまった。

「あ、あいつ……」

その様子を見てアリシアは

「男って、動物でもエロいことしか考えていないんですわね」

セルディックに呆れた顔を向ける。

「むしろ、健全だろ。お前は、オレとこのへっぽこが仲良くしてるのが健全だと思うのか?」

「それは……」

アリシアは、セルディックとネロを交互に見て

「メイドたちが、そのような本を読んでいましたような」

小さく呟いて、顔を背ける。

「急になんだよ?」

「なんでもありませんわ」

「勇者さん、道が分かれています」

白い無機質な通路を進んでいくと、道が左右に分かれている。

「じゃあ、オレは左」

お前ら右な、とセルディックは続ける。

「ベルちゃんが、居ないと何かと不安ですわよね。どうしてもというなら、わたくしが……」

頬を赤くしているアリシアに

「いや、飽きたら戻ってくるだろ。ネロ、アリシアのこと頼むぞ」

「はぁ、相変わらずデリカシーのない」

アリシアはネロの腕を掴むと

「さっさと、行きますわよ」


左の道を進んだセルディックがたどり着いた場所は書庫。

本棚に並べられているのは、悪魔関係の本。

(あまり、医者の仕事には関係なさそうだが……)

その時、目の前に大きな斧が振り下ろされた。

髪一本分で交わしたセルディックは

「……お前は」

「今の惜しかった」

「大丈夫、姉様。次は当てます」

巨大な斧を振り回す小柄な少女ヘカーテと

「以外と、ちょろいですね」

「にゃー」

檻の中に閉じ込められているベルゼブル。

「ルーナとヘカーテ……まさか、さっきの白猫」

セルディックの言葉に

「はい、兄様。その辺で捕まえたメス猫です」

「再契約なんてさせない」

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