第16話

一人で完全に舞い上がっているアリシアに

「いや、別になんとも思ってないし」

あっさりとしたセルディックの言葉。

「な、なんで……宝箱に食べられたのに」

性格が矯正されていませんの、と嘆くアリシア。

「そうだ、宝箱。やっぱり、喰われて……」

「にゃー、にゃふー」

機嫌の良さそうな猫の鳴き声。

この重厚感のあるフォルムと細工がたまらないとばかりに、目を輝かせて眺めている頭にカエルを乗せた黒猫。

「な、なんで、ベルゼブル」

セルディックは目を丸くする。

「勇者さんが倒れてから、すでに分離していました」

「体が軽くなったとは思ったけど……」

「まあ、かわいい黒猫」

アリシアが抱き上げようとすると

「にゃー」

黒猫の頭に乗っていたカエルが、アリシアの顔面に飛びついた。

「いやあああああっ」

「あはは、アリシア姫は忙しい方ですよね」

相変わらず棒読みのネロに

「お前、楽しんでるだろ。というか、どうなってるんだ」

「勇者さんが、食べられたのはミミックですね」

「ミミック?」

首を傾げたセルディックに

「昔の魔法使いが作った、擬態生物です。あの宝箱に入ってミミックは、人間の邪な感情というか魔を祓う力があるのかも知れません」

「だから、ベルゼブルが出て来た?」

「勇者さんの人間としての邪な部分が払われる前に、ベルゼブル様の力でミミックの方が降参したのでしょう。性格、矯正されなくてよかったですね」


「酷い目にあいましたわ」

アリシアの顔からカエルが剥がれると

「にゃー」

今度は黒猫が、大きな口を開けてミミック入りの宝箱を体内に取り込んでいる。

「これは夢、夢ですわ……」

そのままアリシアは、気を失った。

「ベルゼブル、このままで平気なのか?」

訝しげな表情のセルディックに

「とりあえず、外に出ましょうか。勇者さん、アリシア姫をお願いします」

ネロが転送機の端末を操作し、遺跡の外へと脱出した。


♦︎♦︎♦︎


「うーん、猫が宝箱を……」

アリシアを宿のベッドに寝かせると

「……ナァ」

頭にカエルを乗せた黒猫ーーベルゼブルが、小さな声で鳴いた。

「なんだか、元気ないな」

「悪魔は、人間と契約して力を発揮するもにです」

早めに契約を結び直したほうがいいですよ、とネロに言われ

「契約って……」


ベルゼブルとは昔から一緒に居た。


「気がついたら、隣に居たって感じだ。特に、契約なんて交わしてない」

「……」

ネロは何かを考える表情をすると

「僕の場合は、魔法を得る代わりにマモン様に金銭を捧げています」

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